作品タイトル不明
白魔導師、の心情
「そうだ! ロイドさ、お姉さんにはもうそのこと伝えたの?」
ジョッキを片手に、顔を赤く染めながら問いかけてくるユイ。流石に話題が話題な開けあって、完全に酔ってしまう前に、話題を切り出したようだ。
おふざけではなく、真剣な面持ちで、俺をまじまじと見つめている。
「昨日、伝えた」
ちょうど、昨日ユイたちと別れてからのことだ。俺はアイラに自分こそが弟だという、突拍子もない話題を切り出した。
「……反応は?」
ユイは少し躊躇いながら、続きを促す。ダッガスらも、一旦箸を止め、俺とユイの話に耳を傾けていた。
「喜んでたよ。向こうは、俺に関する記憶が多少はあったみたいだから」
「そう……」
昨晩。俺は例の旅館に帰るや否や、真面目な話があるといい、アイラと二人っきりで話した。ガオンがいないというこのタイミングを逃せば、二度と好機はない。
そう思い、覚悟を決めた。
「アイラ、話があるんだ」
「えっ、何……改まって。怖いんだけど」
あまりにも真剣な面持ちの俺に、アイラは困惑しつつも、空気を読み席に着いてくれた。
畳に腰を下ろし、テーブルを挟んで向かい合う、俺とアイラ。
数回、深く深呼吸し、俺はマキナから承った例の話を切り出した。
「アイラは……弟っていたか?」
唐突な俺の問いに、アイラは目を見開き、驚いた。
心当たりがあるのだろう……そう確信した瞬間に、俺の心臓の鼓動は加速した。脈打つ音が、いつもより煩く耳に響く。
緊張もそうだが、俺自身、自分の過去に触れるのが少し、怖かったんだと。
そう気づいた瞬間には、とっくに引き返せない雰囲気になっていた。
「それをどこで?」
「マキナだ」
「……マキナがあーしの弟のことを? でも、なんであんたに?」
普段の明るく、能天気な声色とはまるで違う、真剣で、どこか苛立ちを感じられる声だった。
気を抜けば今にも喉を降り引っ込んでしまいそうな、重苦しい話題を、必死に喉から引っ張り出す。
「俺が、その……アイラの弟だからだ。あくまでも、マキナの言う話では、だが」
その言葉が口から出た瞬間、時間が止まったとさえ感じるほど、辺りはしんと静まり返る。目の前のアイラの心臓の鼓動さえ、聞こえてくるのではないかと。
そして相手にこの、激しく脈打つ音が聞こえているのではないかというほどに。
そう思えるほどの静寂が流れる。
「う、そ……」
その真偽は不明だし、俺はその証言以外に、そう言える材料も持たない。
とにかく、ずっと胸に突っかかっていた話を吐露できた事に、胸を下ろす。
恐る恐るあいらを見ると、呆然と、俺の顔を随分と必死に見つめている。
「ま、まぢで……」
その言葉に、俺は答えない。
マジです、と自信を持って返すことも、嘘と言い謝ることも俺にはできない。
俺自身、まだ自分が弟であるか否か、半信半疑なのだから。
目の前にアイラが静かに泣く音が、耳に届く。
体感だが、かなり長い時間が経過した後、アイラは涙を拭いながら、話を始める。
「そっか、弟だったんだ。ロイドは」
そう言い、不思議そうに俺の顔を、じっーと見つめる。
「記憶の中の弟と一致するか?」
答えの分かりきったと問いに、アイラは丁寧に首を振って答える。
「ごめん、その時はまだ私も、小さくて……正直、弟の名前さえ思い出せない。ただ、弟を抱いてる母の顔なら、鮮明に覚えてるんだけど」
アイラと俺の年齢差からして、当時、三歳程度と思われるのアイラが生まれたばかりだった俺の名前を覚えていなくても不思議ではない。
どちらにせよ、俺はマーリンから授かった「ロイド」という名を捨てるつもりはなかったし、その名で生きていくと決めてはいたが。
「そうか」
「ロイドは、何か覚えていたり……」
「勿論、何も覚えてないし、思い出せることもない。だから、この俺が弟だって証拠はマキナの証言一つだ。だから俺も……」
はっきり言って、マキナが魔道具である以上、仕草や声色から真偽を見極めることは不可能だ。そして当然、俺が何かを覚えていたり、あるいは何かを思い出したりということもない。いくらなんでも、当時の年齢は記憶するには低すぎる。
それでも、
「信じるよ、あーしは」
あまりにもあっさり受け入れるアイラ。
「知ってる? 世の中には血縁を判別する魔道具があるんだよ。勿論、数は相当少ないけど、マキナもそれを持ってるし、他にも幻の錬金術師が作ってどこかに隠したって話もある。そうでなくとも、王族とか、皇族なら持ってるんじゃないかな?」
「つまり?」
「そんな簡単にバレるような嘘をマキナ様がつくとは思えない。特に、下手をすればロイドを敵にまわしかねない嘘をつくとはね」
俺を敵に回せば……まぁ、ユイあたりは怒ってくれるだろう。今やユイたちの持つ影響力は大きい。そんなユイたちに、俺の知る「聖教国の裏事情」が漏れでもしたら、どんな大惨事になるかわからない。例の裏事情は、何が何でも隠し通したい話題のはずだ。
第一、俺に依頼したあの状況で俺に「姉」と説明する必要性はなかったはずだ。初めから、ユイの身柄を脅しに使う予定だったのだろうから。
「それにさ、実はさっきロイドたちが帝国の人らと話してる時、サリーと駄弁ってたんだけど……言われたんだよね。隣の方は、従姉妹ですかって。だから、急に弟だって言い出した時、そんなに動揺しなかったんだ」
「あぁ、それで……そう言えば、俺も行く先々で、似てるって言われたな。と言うか、大体の人に言われたか」
どうやら、他人の目から見ると、俺とアイラは似ているようだ。
「そんなに言われて、信じてなかったわけ?」
「いや、だって兄弟だから似てるってこともないだろうし、そもそも自分では自覚ないし」
今だって、俺がアイラに似ているかと言われると、そうは思えない。
「ねぇ、ロイドも一旦、金髪に染めて日焼けしてみない? 条件を揃えたら、分かるかも」
「俺がアイラに合わせるのか!?」
「だって、黒に染め直すのめんどいし、何より、肌白くするには時間かかるし!」
言ってることは間違っていない……気もするが、もちろん、俺はその提案を却下する。
そんなくだらない会話をしていると、アイラの頬を涙が伝った。
頬に伝う水滴に気がついたアイラは慌てて拭って笑った。
「ごめんね……あの日、全てを失ったと、そう思って、諦めてたから。だから、そうじゃなかったって、嬉しくて」
幼すぎるあまり、俺は何かを失った感覚がない。
一方でアイラは、何かを失った現実を理解するには十分な年齢に至ってしまっていた。きっと、俺には想像し得ない苦しみがあったはずだ。
「本当に、大きくなったね。まぢで、なんか、他人みたいっていうか……ごめんね。だって、あーしの知る弟とは、あんまりにも違うから」
目の前の青年と、記憶の中の弟を見比べる。
「ってか、困るよね。ロイドなんて、余計に記憶ないだろうし」
「いや、困りはしない」
それからまた、アイラが自身の心に整理をつけるまで、俺はただただ黙った。
「えーと。それで、マキナからどこまで聞いているわけ?
「弟であること以外は知らされていない。そもそも、マキナがなんなのかも詳しく知らない状態で、強引に帝国に放り出されたんだ。ただ、姉を救えってそれだけ言われて」
「あはは……そりゃ災難だ。でも、そうだね……マキナ様について、あーしから言えることはない。マキナ様は極秘中の極秘だから。でも、ロイドのことは、話せるかな」
「俺のこと……」
おそらく、親代わりだったマーリンさえ知り得ない過去。
「ロイドは、自分の過去は知ってる?」
「あまり深くは知らない。ただ、両親が死んでいることだけは、確実だってことくらいだ」
それだけは、マーリンが明言している。
「あまりにも、サッサリ言うね」
本来、両親の死はもっと感傷に浸るべきものなのかもしれない。しかし、俺にはその記憶の一切がなく、何より、しっかりと育ててくれた親がいた。
だからだろう。アイラと俺には、どうしても両親の死に対する思いに齟齬が生まれるのは。
「アイラは、どうやって生き残ったんだ?」
俺が言えた疑問でないことは百も承知で尋ねる。
「あーしは、両親が亡くなったあの日、ちょっと離れた村の友達の家で、お泊まりしててね。だから、巻き込まれなかった。大賢者と魔王の戦いに」
「その大惨事の後は?」
「そこからは、聖教国に引き取られた。あそこは、魔導国の被害を受けた子供を、王国以上に気にしてたから。最近は、魔族の動きが見られなかったから、そういう活動もそんなになかったけどさ」
そうして、アイラは王国から聖教国に流れ着いた。
「あーしはさ、聖教国に救われた。そこでいろんな人たちに出会って……でも、復讐心は消えなくて。それで強くなろうって、学院に行ったりもした」
「学院か」
「そう、今はラミスって人が院長やってるとこ」
ラミス……顔の傷が印象的な、双剣使いの学院長だ。
「あぁ、そこなら俺もお世話になった」
「まぢで? まぁ、卒業はしなかったけどね」
「そうか。実は俺もだ」
アイラは自虐込みで語ったのだろうが、あいにく、それは俺も同じだった。まさか自虐ネタが他者にも刺さるとは予想外だったのか、少し、気まずそうに笑う。
「学院でも、腕っぷしというか、実技だけは常にトップクラスで。まぁ、座学は、その、イマイチというか、あんまりというか、ダメダメというか……そもそも講義を聞いてなかったというか。でも、群を抜いた実力と高い志を持つあーしに、マキナ様は目をつけた」
そうして、マキナという、聖教国を裏から束ねる存在の元で働く戦士となった。マキナのあのガラスのような目に、実力が高く、志も強く、そして、聖教国の崇める神人という存在を全く気にも止めていないアイラは、さぞ適任に映ったはずだ。
「あーしも、魔導国に対して、復讐心的なものはあったし。同じような被害者を出したくなかったし、マキナのやり方に思うところがないわけじゃないけど、それに賛同した」
今回、マキナに『様』をつけなかったのは、きっと無意識だろうが。そこには、相容れない部分もあるという、何か強い意志が感じられた。
「元々、規律の厳しい聖騎士やれる気はしなかったし、大賢者には思うところもあったから、そんな彼女を英雄のように扱う冒険者にもなる気はしなかったしね。別に、今はもう、大賢者を恨んでいるわけじゃない。彼女だって、唐突だったろうし、相手が魔王なら、周囲に気を使ってる余力なんてないもんね」
何故、彼女がマキナと関わりがあるかも、今の説明で納得はできた。そしてこれまでどんな苦労を伴って生きてきたのかも。
俺には血縁こそないが、明確に親と呼べる人がいた。
俺には、帰る家がある。
帰る居場所がある。
そんな当たり前だと感じていたことの、その有り難みが胸に沁みる。
「ねぇ、あーしからも聞いていい?」
「あぁ、なんでも聞いてくれ」
「ロイドはこれまでどうやって生きてきたの?」
何故、あの被害の渦中にいながら生き残っていたのか、は聞かなかた。おそらく、俺さえもその理由を知り得ないと判断したからだろう。
俺自身、その件は聞かれても答えられそうにない。
「多分、魔王のいざこざがあった後だろうな。俺は拾われたんだ。その人が、親として俺を育ててくれた」
「どんな人?」
「マーリンって、魔法使いだ」
マーリン、その名を聞き、アイラは目を丸くする。そして何かを言おうとするが、その前にはっきりさせておく。
「自堕落で、酒ばっか飲んでて……伝説の大賢者とは随分と違うけどな」
「……いえ、だって」
アイラは何かを言おうとして、その数秒後に言葉を引っ込める。
「ううん。なんでもない」
「そうか?」
よほど何かを言いたげだったが、それでも彼女は最後には言わないことを決断する。
その代わりに、彼女はある言葉で問いかけた。
「ねぇ……ロイドは魔導国に、復讐したい気持ちってある?」
アイラの揺れる瞳が、その言葉の孕んだ迷いを体現していた。
魔導国への復讐。この話を聞く限り、俺の両親は魔導国に殺されたようなものだ。アイラの問いの意味は理解できる。
しかし、
「悪い。今の話を聞いてなお、そういう気は起きない」
その言葉を聞いたアイラは、ほっと安堵したような、同時にどこか落胆したような、形容し難い顔をしていた。
「その、両親が大切じゃないってことじゃないんだ」
それはもちろんそうだ。両親がいたから、今の幸せがあるのだから。俺をこの世に産んでくれた両親が、大切じゃないわけはない。
それでも、
「俺は、自分の復讐より、今手の中にある幸せを大事にしたい。ユイやダッガス。クロスやシリカとの何気ない日々を」
捨てたくはない。今、手の平にあるこの幸せを。
ユイたちとの何気ない日々を。
「俺は弱いから、今の幸せを捨ててまで、復讐の刃を握る勇気がないだけなんだけどな」
そう言い、情けない笑みを浮かべた。
本当は両親の仇を恨むべきなのだろう。今の話を聞き、怒りの一つでも覚えるべきなのだろう。
そして、動くべきなのかもしれない。
脳裏にチラリと、師匠との日々が浮かんだ。それは珍しく、きつい鍛錬や終わりの見えない研究ではなく、何気ない日常の一幕だった。ただ、他愛もない会話で笑い合ったり、夕飯を一緒に食べたり、どうでもいいことで喧嘩したり。
そんな記憶が、きっと、俺の失った両親と埋めるべき穴を、塞いでくれていたのだろう。そんな幸せが、俺を復讐から遠ざける。
「そっか。そうだよね」
この時、アイラが何を思い、俺の言葉を飲み込んだのか……彼女の心中は、理解できなかった。
それからも、少し、他愛のない会話をして、就寝が随分と遅くなったり。
「……と、まぁ、色々あったよ」
アイラの復讐云々の下は省き、ざっくりと再会の様子を説明する。俺の過去なども、ユイたちは大方知っているため、ユイらに語る際は省いた。
「うまく行ったようなら何よりだ。それに……よかったなユイ」
「本当ですね。ユイ、ロイドが姉についてくんじゃないかって、心配してましたからね」
「当然でしょ? 心配しちゃ悪いの!?」
ユイがジャッキを机に強く叩きつける。
「別に、悪いとは言ってませんよ、ただ、あまりにも不安そうだったので」
シリカが揶揄い、ユイが顔を赤くする。まぁ、元々酒のせいで赤かった気もするけど。
「それにしても、これからどしましょう」
獣王祭も終わり、晴れて俺たち……まぁ、主に俺だが、背負っていた重荷から解放された。同時に、目的となるものも、これと言って残ってはいなかった。
「今まで見たく、戻るだけだろう。むしろ、今までみたいに、明確にやるべきことが示されてたことが異様だったんだ」
「まーねぇ」
本来、冒険者は自由気ままな職業。なすべきことが明確にあった、今までがおかしかったのである。
「そう言えば、ここからは結構離れますけど、帝国領にはダンジョンがあるって話ですよ? あまりにも謎が多く、かつ、近くに人の住まう集落がないと言うことで、随分と長いこと放置されてるダンジョンが」
謎が多いから、攻略する価値があるのか不明で。危険度さえ明確ではなく。その上近くに人がいないから、人に何か害を成すわけでもない。
故に放置され続けてきたダンジョン。
「それって冒険者が受けていいのか?」
「一応、五名以上のSランクのパーティーという条件こそありますが、帝国が直々に依頼は出し続けているそうです。最も、Sランク……つまりある程度ベテランともなると、一攫千金を狙うには効率が悪く、危険な依頼だと分かりきってますので、依頼を受ける物好きは少なく、稀にいますが、すぐに引き返してしまうそうです」
「あー、あれだろ? 憑霊のダンジョンだっけか?」
「いいじゃない! 行ってみましょ!」
「ロイドも異論ないわよね?」
「あぁ……」
そんな危険なダンジョンに……そう思ったが、無理そうならば引き返せばいい。聞く感じ、今のところ死者が出ている様子もないようだし。
「そうだな」
そうと決まればやるべきことは多い。
久しぶりのユイたちとの冒険だ。気合を入れて準備せねば。
◇
同刻、人気ないテラスで。
アイラは明日以降の打ち合わせのため、人気のないテラスでサリーと話していた。その中で、ロイドが弟であった話を、アイラが切り出す。
「やっぱり、血縁者だってんですね」
「うん。ねぇ、それについてだけど、ここだけの話、いい?」
アイラはサリーに話す。
自身の憶測を。おそらく、彼の育ての親こそが、その大賢者本人であることを。
「ロイドは気がついていないんですか?」
「うん」
「それで、アイラは? その可能性を示唆したんですか?」
「ううん。できるわけないじゃん。十何年って過ごす中で、一度もそれを言わなかった、そして悟らせなかったってことは、きっと……彼女は自分の素性を相当言いたくないんだろうなって」
アイラはロイドを育てたであろう、マーリンの顔を想像する。
「彼女は大賢者じゃなくて、ただの母親、マーリンでありたいんだろうなって」
あるいは、大賢者という肩書きに、何か良くない思い入れでもあるのか。
真相は不明だが、アイラがとやかく言うべきではないと、そう思い、伝えなかっった。
「それに」
アイラは見ている。魔王軍四天王テラの襲撃時、何者かがこちらを支援していたことを。
あんな優れた魔法の使い手……何者か疑問だったが、ようやく納得のいく解を得た。
あれはきっとマーリンだったのだと。
「大事にされてるんだろうなぁ……って、分かったから」
大賢者の元で育ったロイドは、規格外な支援魔法の技術を身につけた。でも、アイラが着目したのは、そこ以外の箇所だった。
それはロイドの心の白さ。
ロイドはアレンに酷い仕打ちを受けて、追放され、その後も多くのトラブルに巻き込まれ続け……でも、
「だってさぁ。ロイドって復讐とか、やり返すとか、まるで頭にないんだもん。常に、自分を大切にしてくれた仲間のためにって。だからさ、言えないよ。言えるわけないじゃん。一緒に、魔王に復讐を果たそうとか」
ロイドはそれを己の弱さと表現した。そしてそれは、彼の本心だろう。
そんなロイドを見て、アイラは自分の弱さを痛感した。
仲間がいて、友人がいて、家族も生きていた。今、アイラの手のひらには、生きるには十分すぎる幸せが乗っかっている。
それらを全て失うかもしれない、そんな大切な周囲を悲しませるかもしれない。
それが分かっていてもなお、アイラは私情の復讐を捨てられずにいる。
仮に今、その手の中にあるものが壊れてしまうと、そう分かっていてもなお。
「アイラだって、復讐が全てではないでしょう。同じような境遇にあう人が二度と出ないように、だから戦う。そうでしょう?」
サリーのフォローに、アイラは首を横に振い否定する。
「確かに、それもないことはない。でもね、何があろうとね、これはあーしの復讐だ!って。そう言う事にしてるの。自分の復讐に、他人や大義を持ち出すのは、卑怯だって思うから」
両親に頼まれたわけでもない、なんなら両親はこんなことせずに平穏に過ごしてほしいと、きっとそう言ったはずだ。それが分かっていてもなお、果たす複数なんて……それはもう、自分のための、私情の復讐以外の何物でもない。
「……いいんですね?」
「うん」
頭では分かっているのだ。これからそう遠くない未来起こるであろう『魔導国との戦い』……ロイドが出張れば、大賢者も姿を表す。それに伴い、姿を消していた伝説たちも姿を現すかもしれない。彼ら、彼女らの参戦が、ロイドの持ちうる人脈が、いかに大きく戦局を変えるのか。
三大国の勝率をぐんと跳ね上げるのか。
わかっている。
アイラは真っ暗な夜空を見上げる。
――でも、弟が選んだ道を、姉ちゃんが変えるわけにはいかないもんね。
あーしがあーしの選んだ道を、自らの意思で進むのなら。
尚更、言えるわけない。
「だからこの話はマキナには内緒ね? バラしたら、あーし反逆しちゃうかも」
「約束はしかねますが……私の予想では、マキナはすでに知っていたんだと思いますけど」
「えっ!?」
「その上で、巻き込むつもりはないのか、あるいは……」
マキナは大賢者と因縁がある。以降、マキナは大賢者の実力を高く評価する反面、強く警戒している。マキナが大賢者の生存を半ば確信しながら、それを不用意に言いふらさないのは、むしろ大賢者に出て来てほしくないという、意図があった。
サリーも軽くだが、そのことを聞いていた。
大賢者らの影響力が増し、もはや国家の制度さえ機能しなくなる事態を、恐れていることを。
聖教国が崇める触れれず、見えない神よりも、王国に古くから根付く貴族よりも、確かにそこにいて絶大な力を行使できる大賢者の方が頼りになると。
そう思われてしまったら、終いだ。三大国が古くから保ってきた文化は、過去のものに、歴史として取り残されてしまう。
「いえ、やっぱり約束は守ることにします。大切な同僚の頼みですし」
「ありがと! 今度、何か頼み事があったら、今度はあーしが聞くから! あっ、なんなら溜まってる書類仕事手伝おうか?」
「いえ、それはただ、私の仕事が増えるだけな気がするので、お断りします」
サリーは死人のような笑みを浮かべながら、丁重にお断りするのだった。