軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【北からの報告】

東の楔を抜いた翌日。

【封印の楔(東)を除去しました:2/5】

海溝の底での戦いは激しかったが、南の楔の経験が活きた。影銀のトワと影のゼクスが光の海騎士を削り、セレスの銀月の揺り籠が影を守り、タマキの海浄の真珠薬が海底の侵蝕を抑えた。

残り三本。西、北、中央。

その夜、ハルからメッセージが来た。

ハル:「トワさん。北の偵察、完了しました。報告があります」

ハルの報告は以下のようなものだった。

北エリアは雪原。侵蝕は中程度。重度の侵蝕地帯は雪原の奥の氷の洞窟の中にある。楔は洞窟の最深部。番人は──

ハル:「番人の姿、確認できました。光の弓使いです。遠距離攻撃型。洞窟の中なので逃げ場がありません」

トワ:「よく調べたな。戦いになる前に、上手く撤退できたのか」

ハル:「はい、番人に見つかる前に逃げました! 温度センサーで位置を把握してたので!」

トワ:「よくやった」

ハル:「えへへ……あと、もう一つ報告があります」

トワ:「なんだ?」

ハル:「わたし──北の楔、自分で抜いてみたいです」

いいと答えるかまだお前には早いと突き返すか、冬夜は少しだけ考えた。

トワ:「一人でか」

ハル:「一人じゃないです。旅人の集いのメンバー二十人と、ヴェノムさんに声をかけました」

ヴェノムという名前を聞いて、冬夜はあの夜のことを思い出した。

数々の悪行を重ねてきた〈翠蛇の牙〉PKギルド。

各地で度々問題を起こしては、トワたちに成敗され、粘着しては返り討ちに遭っていたが……そのギルドマスターとトワは、密かに邂逅していた。

『どうして、こんなことをするんだ。お前には、何のメリットもないだろ』

三日前――トワの寝首を掻こうとやってきたヴェノムを、トワはHP1の状態で拘束していた。

いよいよ打つ手がなくなったヴェノムは、トワにこう言い返す。

『俺だって……元々は、旅人だった! でも……雑魚職はなぁ、PKされる運命だって、分かったんだよ! 真面目にやっているやつが、一番ひどい目に遭うんだ!』

ヴェノムもまた、PKされ続けた男だった。彼は旅人を三ヶ月で捨て、盗賊に転職し、PKを繰り返してきた。でも彼は、トワの一言で改心するきっかけを得る。

『確かに、中にはひどいことをするやつもいるだろう。――でも、お前はそれでいいのか?』

『え……?』

『お前は自分の旅を、自分で台無しにしているんだぞ。そんなくだらないやつのせいで、お前が歩くべきだった世界が、旅が、つまらないものになっている。――悔しくないのか、それで楽しいのか?』

『でも、今さら……俺は……』

『今さらも何もない。いつ、どこで、どんな旅をするのかは、そいつ次第だ。――なあ、ヴェノム。くだらないやつのせいで、お前の旅までつまらなくするな。損をしようと、得をしようと、お前にはお前だけの道があるだろ。だったら、お前が一番楽しいと思える道を歩むべきだろ。……違うか?』

トワの言葉に改心することを決めたヴェノムは、この後〈翠蛇の牙〉を解散し、旅人の集いに被害を与えた分を全額弁償した。

『俺……これから、どうしたらいいだろう』

『始まりの町にいけ』

『始まりの町に、か?』

『裏路地の扉を開くと、グランがいる。やり直したいと言えば、きっと力になってくれるだろう』

トワが教えた通り、ヴェノムは始まりの町の裏路地に行き──グランの扉を開いた。Lv86の盗賊から、Lv1の旅人に。全てを捨てて、やり直した。

旅人の集いのメンバーの中には、ヴェノムに装備を奪われた者もいる。最初は反発があった。しかし、ヴェノムが黙々とLv1で歩き続ける姿を見て、少しずつ受け入れられていったと聞いている。

ハルがヴェノムに声をかけたということは、ハルもヴェノムを認めたということだ。

トワ:「なるほど……ヴェノムを、か」

ハル:「はい。ヴェノムさん、グランさんの扉を開いて、旅人としてやり直してます。Lv1から。──でも元Lv86の盗賊なので、プレイヤースキルはあります。戦闘面では、わたしより頼りになります」

ハルの判断力、旅人の集い二十人の環境整備能力、ヴェノムの戦闘経験。──足りないのはタマキの浄化薬だが、ハルは簡易版の浄化薬を旅人の集いに広めている。

トワ:「番人はLv何だった」

ハル:「見聞録の精度が足りなくて正確にはわかりませんが、推定Lv95前後です」

Lv95。南の聖騎士はLv96、東の海騎士はLv97だった。北はやや低いが、属性抵抗は同じだろう。

トワ:「影属性の攻撃手段はあるのか」

ハル:「ヴェノムさんが盗賊時代のスキルを一部引き継いでいて、影属性の短剣を装備できます。あと──わたし、【時間遡行】でソルシアの暗殺術の道場に行って、影の基礎技を習ってきました」

ハルが自分で時間遡行を使い、ゼクスの暗殺術のルーツにあたる道場で影の技を学んでいた。トワの指示ではない。ハル自身の判断で。

トワ:「……いつの間に」

ハル:「ゼクスさんがソルシアの道場でNPCと仲良くなってるの、見てたんです。わたしも行ってみたら、旅人でも基礎なら教えてもらえました。『導師』の上位スキルで、影の刃を一時的に生成できます」

『導師』とは、ハルが転職した上位旅人職。教導系のスキルツリーを持つ。そしてソルシアの道場で学んだ『影の基礎技』を、導師スキルに組み込んだ。影属性含め、様々なスキルが使えるはずだ。

トワ:「行け。任せた」

ハル:「本当ですか!?」

トワ:「お前は仲間だ。仲間の判断を信じる。──ただし、無理だと思ったら撤退しろ。死ぬな」

ハル:「はい! ──ありがとうございます、師匠!」

トワ:「師匠じゃない」

ハル:「今だけ言わせてください! 大事な時なので!」

チャットを閉じると、セレスが肩の上でわくわくした顔をしていた。

「トワ。ハル、ひとりでいくの?」

「一人じゃない、仲間と一緒にいくはずだ」

「ちょっと、しんぱい」

「俺も気に掛かるが……信じよう」

「ふしぎ。むかしのトワなら、じぶんでいってた」

「昔の俺なら、全部自分でやろうとしていたな」

「いまのトワは?」

「今の俺は、任せることを覚えた」

「それ、つよくなった、ってこと?」

「……かもしれないな」

セレスの角がぽわっと光った。

「トワ、つよくなった。セレス、うれしい」

「俺もお前たちが強くなって嬉しいぞ。……さて、報告を楽しみにしておくか」

心はまだそわそわしていたが、トワはひとり先にログアウトした。