軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

日常

灯火の章が終わって、二週間が経った。

BCOにログインした。リベルタの宿屋。いつものベッドの上に立った。

「セレス」

「トワ。きょうは、なにする?」

「特に予定はない。散歩でもするか」

「さんぽ、いい。セレス、さんぽ、すき」

外に出た。リベルタの広場。石畳の上を、金色の足跡を残しながら歩いた。

広場でハルがNPCと話していた。見聞録で街のNPCの会話パターンを調査しているらしい。手帳に何かを書き込んでいた。

「師匠。今日は何も予定ないんですか? 珍しい」

「たまには何もない日がある」

「じゃあ、一緒に歩きませんか。リベルタの裏通り、まだ踏破してない場所があるんです」

「あるのか。一万時間歩いて、まだ未踏の場所が」

「あります。リベルタの地下水路の分岐点の先に、小さな部屋があって。たぶん隠しエリアです」

「行こう」

ハルと一緒にリベルタの裏通りを歩いた。地下水路に降りて、分岐点を探した。見聞録の残響で隠し通路を見つけた。ハルが先に見つけた。トワより早かった。

「師匠。こっちです。空気の流れが左に偏ってます」

「ハル。見聞録の使い方、俺より上手くなってないか」

「まさか。師匠にはまだまだです。でも、手帳があれば」

隠し部屋に入った。小さな部屋。壁に一枚の絵が掛かっていた。BCOの世界の全景を描いた絵。リベルタの画家NPCが描いたものだった。

「きれい」ハルが絵を見て呟いた。

「ああ。こんな場所があったのか。一万時間歩いても、まだ見つけていない場所がある」

「だから、歩き続けるんですよね。師匠」

「ああ」

午後。聖都ルクスに行った。

アストレアが大聖堂の前で鎧を磨いていた。前回の戦いで傷だらけになった鎧を、丁寧に修復している。

「トワさん。お疲れさまです。今日はのんびりですか」

「ああ、アストレアは?」

「鎧の手入れです。聖騎士の基本ですから。この前の戦いで聖光を全力で使って、鎧に負担がかかっていまして」

「変換炉の浄化は見事だった」

「ありがとうございます。でも、あの時はタマキさんの薬がなければ持ちませんでした」

ソラが上空から降りてきた。

「あら、トワ。珍しいところに。聖都に用事?」

「散歩だ」

「散歩ね。風が気持ちいい日よ。飛ぶのにちょうどいい」

「飛ばない。歩く」

「あなたらしいわね」

ソラが笑って飛び去った。

タマキがチャットを送ってきた。

タマキ:「トワさん。リベルタの調合ラボに新しい素材が届きました。外殻で採取した糸片を使って、新しい薬のレシピを開発中です。完成したら試してもらえますか」

トワ:「ああ、楽しみにしてる」

タマキ:「あと、今夜、蓮くんたちとリベルタで夕食の約束してるんですが、トワさんも来ませんか」

トワ:「行く」

夕方。リベルタの食堂に全員が集まった。トワ、タマキ、ゼクス、蓮、ハル、ミコト。灯火の章の前と同じ顔ぶれ。

NPC給仕が料理を運んできた。パンと肉とスープ。見慣れたメニューだった。

「何もない日常だな」ゼクスがパンを齧った。

「何もない日常が、一番いい」蓮がスープを啜った。

「そうだな」トワが呟いた。

セレスがスープの湯気に角を近づけた。

「あったかい。にちじょう、あったかい」

メブキが頭の上でパンくずを食べていた。テンがスープの湯気の中で明滅していた。ルーナはゼクスの影の中で静かにしていた。

何もない一日。戦いがない一日。歩いて、見つけて、食べて、笑う一日。

こういう日のために、歩いてきた。