作品タイトル不明
冬の近況
十一月。大学四年の冬。
蓮からLINEが来た。
蓮:「打ち合わせ行ってきた。短編、掲載が決まった。来春の文芸誌に載る。単独掲載だ。アンソロジーじゃない」
冬夜:「おめでとう。蓮の名前で、一作品丸ごと載るのか」
蓮:「しかも、編集者が別の長編にも興味を持ってくれた。また新しい企画書を出すんだ」
冬夜:「蓮。すごいな」
蓮:「すごいだろ。自分でも驚いてる。──お前のおかげだ」
冬夜:「俺は何もしていない」
蓮:「お前が歩いたから、俺は書けたんだよ」
蓮の短編が文芸誌に載る。長編の企画書も出せる。作家としての道が、確実に進んでいた。
ミコトからもメッセージが来た。
ミコト:「久坂さん。配信のアーカイブが三千万回再生を超えました。ゲームメディアの取材も来ています。でも、わたしが伝えたいのは再生数じゃないです」
冬夜:「何だ」
ミコト:「大学に合格しました。メディアコミュニケーション学部。来年の春から、大学生です」
冬夜:「おめでとう」
ミコト:「ありがとうございます。久坂さんに背中を押してもらったおかげです。──配信も、勉強も、両方頑張ります」
高校三年の秋に合格を決めた。受験勉強と配信を両立して、どちらも結果を出した。ミコトは強い子だ。
ハルからも来た。
ハル:「師匠。灯火の章の戦闘記録、手帳にまとめ終わりました。全62ページです。師匠に見てもらいたいです」
冬夜:「見る。送ってくれ」
ハル:「送ります! あと、わたしも進路決めました。ゲームデザインを勉強できる大学に行きます。見聞録みたいなシステムを、自分で作りたいんです」
冬夜:「いい進路だ。頑張れ」
ハル:「はい! 師匠の見聞録を超えるシステムを作ります!」
冬夜は窓の外を見た。銀杏の葉が全部落ちて、枝だけになっていた。冬が来ている。
全員が、歩いている。ゲームの中だけでなく、現実でも。蓮は書いている。ミコトは伝えている。ハルは作ろうとしている。
冬夜自身も、ゼミの研究論文を書いていた。テーマは「仮想空間における空間認知と記録の関係性」。BCOでの経験が、そのまま研究の素材になっていた。
就職も決まっていた。VR技術を扱うソフトウェア会社。面接で「仮想空間に一万時間以上滞在した経験がある」と言ったら、面接官が二度見した。内定は十月に出た。
宮瀬も、調剤薬局への就職が決まっている。薬学部の四年間で培った知識を、現場で使う道を選んだ。「ゲームの中で薬を作るのと、現実で薬を渡すのは、どっちも誰かを助けること」と宮瀬は言っていた。
春から、二人とも社会人になる。
スマホが鳴った。宮瀬からだ。
宮瀬:「久坂くん。冬休みの予定、空いてる?」
冬夜:「空いてる。何かあるか」
宮瀬:「温泉、行かない? ゲームじゃなくて、現実の」
冬夜:「温泉か」
宮瀬:「二人で。日帰りでもいいし、一泊でもいいし」
冬夜:「一泊で行こう」
宮瀬:「……本当? 久坂くんから一泊って言うの、珍しい」
冬夜:「たまには」
宮瀬:「うん。楽しみにしてる」
冬夜はスマホを置いた。少しだけ、頬が熱かった。