作品タイトル不明
原初の光
セレスの角が銀白色に輝いた。
月光が変わった。これまでの月光は銀色だった。索敵に使い、攻撃に使い、仲間を照らしてきた光。だが、原初の月光は違った。
銀白色の光が、部屋全体を満たした。冷たくない。温かくない。それ以前の光。世界が作られる前から存在していた月の光。
データのトワが動きを止めた。原初の月光がデータの体を透過した。データで構成された存在が、原初の光に干渉されて揺らいでいた。
「原初の月光。データベースに存在しない」アルキスが呟いた。「宵闇の回廊で覚醒した能力だが、実戦使用の記録がない。だから、コピーに搭載していない」
「搭載していないから、対処もできないだろう」
セレスが角を振った。原初の月光がデータのトワに向かって集中した。銀白色の光がデータの体を貫いた。データが光に晒されて、構造が揺らいだ。
データのトワの動きが鈍くなった。原初の月光がデータの結合を弱めている。
「ルーナ。今だ」
ルーナが影から出てきた。月光の篭手が、ルーナの両手を覆っている。篭手がセレスの原初の月光を吸収し始めた。篭手の形が変わっていく。
銀色の篭手が、夜明けの色に変わった。暗い紺色の底に、白い光の筋が走る。夜が明ける直前の空の色。夜と月光が融合した、新しい形。
【────── システムメッセージ ──────】
【月光の篭手が進化しました】
【新装備:夜明けの篭手】
【効果:
①ATK+120%(月光属性+夜属性の融合)
②月影属性の攻撃を常時付与
③原初の月光との連携時、データ構造を解体する力を得る】
【──────────────────────────】
「夜明けの篭手。月光と夜が融合した」
ルーナが篭手を構えた。夜明けの光が篭手から溢れた。
「……トワ。この力、今まで使ったことがない。データにない力。だから、アルキスにも読めない」
「使ってくれ、ルーナ」
「……うん」
ルーナが跳んだ。影潜りではない。夜明けの篭手の推進力で、空中を滑るように移動した。データのトワの横をすり抜け、篭手をデータの体に叩きつけた。
【ルーナ:夜明けの篭手 → データのトワ 効果:データ構造解体】
データのトワの体にひびが入った。篭手が触れた場所から、データが崩れ始めた。デバッグのようにデータが剥がれ落ちていく。
「データ構造を直接解体する。原初の月光でデータの結合を弱め、夜明けの篭手で崩す。二段階の攻撃だ」
データのトワが修復しようとした。アルキスがデータを注入して、崩れた部分を補修する。だが、セレスの原初の月光が補修を妨害した。光がデータの結合を邪魔して、修復が追いつかない。
「光影連弾!」トワが指示を出した。
セレスの原初の月光がデータのトワの右半身に集中した。ルーナの夜明けの篭手が左半身を叩いた。月光と夜が交互に、連続で。
セレス。ルーナ。セレス。ルーナ。光と影が交互に打ちつける。データのトワの体が加速度的に崩壊していく。
メブキが頭の上で双葉を広げた。根が伸びて、床の糸に触れた。
「トワ。したから、ちから、おくる。みんなの、ね!」
竪穴の底から、メブキの根を通じて力が流れてきた。下で待機しているプレイヤーたちの灯歩が、根のネットワークを通じてトワに届く。メブキの根は外殻の糸の中では届かないはずだったが、灯歩の光が糸を修復したことで、根の接続が回復していた。
テンがブーツの上で連続点滅した。光の精霊が灯歩の光と共鳴して、トワの足元を照らした。星巡りの靴の銀色の光が、かつてないほど強く輝いた。
四体の仲間が、全て動いていた。セレスの月光、ルーナの夜、メブキの根、テンの光。四つの力が同時にトワを支えている。
トワが旅立ちの剣を振り上げた。
データのトワに向かって、三連斬を放った。だが、最頻値の三連斬ではない。原初の月光を纏い、夜明けの力を帯び、根の支えを受け、光に照らされた三連斬。データに記録された四万回の三連斬のどれとも違う、この瞬間にしか存在しない一撃。
【トワ:灯歩三連斬 → データのトワ ダメージ:測定不能】
データのトワが砕け散った。
完全に崩壊した。トワの全データから再構成された理想形が、トワ自身の手で壊された。
アルキスが一歩後退した。
「馬鹿な!? 理想のコピーが……本物に、負けた!?」
「当然だ。コピーは過去の記録から作られる。俺は今、この瞬間に生きている。今の俺は、過去の記録にはいない!」
アルキスの瞳が、嘘だと言いたげに揺れた。
「お前の精霊たちの力。原初の月光。夜明けの篭手。わたしのデータベースに存在しない能力だ。実戦で使われた記録がないから、分析できない」
「それだけじゃない。セレスが原初の月光を使えるのは、宵闇の回廊で暗闇と向き合ったからだ。ルーナが夜明けの篭手を得たのは、月光と夜が融合したからだ。メブキの根が届くのは、灯歩の光が糸を修復したからだ。テンの光が輝くのは、灯歩の光と共鳴したからだ。全部、歩いてきた道の上にある。データを集めても得られないものだ」
セレスが角を高く掲げた。銀白色の原初の月光が、頂部の空間を照らした。
「セレスのひかり。トワと、あるいて、みつけた、ひかり。データじゃない。セレスの、ほんとうの、ひかり」
アルキスが沈黙した。
データの剣を構え直した。統合形態の体は、震えていた。
それは怒りか恐れか、それとも――。