軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

記録の刃

アルキスが手を広げた。データの光が渦を巻いた。

「お前のデータから、お前が戦った全ての敵を再現する。お前自身の記録を、お前にぶつける」

光が形を作った。

最初に現れたのは、霧底の森のボスだった。巨大な樹木型モンスター。トワが旅の序盤で苦戦した相手。

「覚えているか。お前がHPの半分を失って、セレスの月光でようやく倒した相手だ」

データの樹木が腕を振り下ろした。トワが旅立ちの剣で斬った。金色の光が走り、樹木が一撃で消し飛んだ。

「覚えている。……だが、あの頃の俺じゃない」

次が来た。砂漠のワーム。銀月の草原のキメラ。新大陸の古代兵器。トワが一万時間の旅の中で戦ってきたボスが、次々とデータから再生されて襲いかかってきた。

トワが斬った。ゼクスが影から突いた。セレスの月光が焼いた。ルーナの夜が飲み込んだ。一体ずつでは、もう敵ではなかった。一万時間前に苦戦した相手を、今の力で圧倒していく。

「成長の記録を見せているだけだ」トワが剣を振り抜いた。「過去のボスを出しても、俺は過去の俺じゃない」

「そうか。――では、これはどうだ」

アルキスの光が変わった。

聖王国ルミナリアの闇の騎士。ソルシアの侵蝕体。常世島の七繰り。紡ぎ直しの大地の綻びの核。宵闇の回廊の月蝕の巨人。

中盤から終盤のボスが、同時に出現した。五体。全てがトワのデータから再現された、データの亡霊。

「五体同時は手強いぞ!」ゼクスが影潜りから飛び出しながら叫んだ。

「分担する。ゼクス、右の二体を頼む。宵、暗闇で左の一体を封じてくれ。セレス、月光を!」

「うん、やる!」

セレスの角から月光が放たれた。月蝕の巨人の再現に向かって。かつて宵闇の回廊で戦った時は、月影属性の発見までに何時間もかかった。だが今、セレスの月光は洗練されている。

月光が巨人の再現を貫いた。データの体が砕けた。

「セレス。強くなったな」

「セレス、つよくなった。トワと、あるいたから!」

ゼクスが闇の騎士と侵蝕体を同時に相手取った。影潜りから連撃。灯歩の補正が乗った攻撃は、かつての強敵をあっさりと崩した。

宵の暗闇が七繰りの再現を飲み込んだ。常世島の幹部が、暗闇の中で消えた。

タマキが綻びの核の再現に浄化薬を投げた。かつて法則異常に苦しめられた相手だが、浄化の精度が違う。薬が的確に核を捉え、データの体が解けた。

全て倒した。

「過去のボスを全部出しても、今の俺たちには通じない。アルキスが持っているのは過去のデータだ。俺たちは、そこから先を歩いている」

アルキスの表情が変わらなかった。

「分かっている。過去のボスでは勝てない。――だから、こうする」

アルキスが自分の体からデータを引き出した。

現れたのはボスではなかった。

プレイヤーだった。

トワの姿をしたデータの人形。旅立ちの剣を持ち、星巡りの靴を履き、肩にセレスを載せている。一万時間分の全データから再構成された、完全なトワのコピー。

「お前自身のデータだ。お前の全てを知り尽くしたコピー。過去のボスではなく、お前自身と戦え」

データのトワが、旅立ちの剣を構えた。三連斬の構え。トワが一万時間で最も多く振ってきた形。

本物のトワと偽物のトワが向き合った。

「俺のコピーか」

「これまでも似たような敵と、戦ったことはあるだろう。だが、このコピーはただの分身ではない。全パターンを統合した、お前の『理想形』だ。お前が目指している、『最強の自分』」

データのトワが踏み込んだ。速い。本物のトワと同じ速度。同じ軌道。同じ力。

剣がぶつかった。完全に同じ力で、完全に同じ角度で。押し返せない。引き離せない。鏡合わせのように、全く同じ動きが重なった。

「分かるか! お前のデータから作ったお前は、お前と同等だ! データが完全なら、コピーは本物と区別がつかない。――これが、わたしの理論だ!」

データのトワの三連斬が来た。トワの三連斬と全く同じ軌道。同時に振れば、相殺される。永遠に決着がつかない。

だが、トワは三連斬を振らなかった。

剣を止めた。

「何をしている……?」アルキスの声に困惑が混じった。

「コピーと同じことをしても勝てない。なら、コピーにできないことをする」

トワがセレスを見た。

「セレス。原初の月光を頼めるか」

セレスの角が、一瞬だけ震えた。原初の月光。宵闇の回廊で覚醒した、セレスの最も深い光。まだ実戦で使ったことがない。データに存在しない技。

「やる。セレス、やる。トワのために!」

セレスの角が、金色ではなく、銀白色に光り始めた。