軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

統合

階段を上りきった。

頂部の部屋は変わっていなかった。円形の部屋。透明な壁。椅子が一脚。

アルキスが座っていた。目を閉じたまま。

トワ、タマキ、ゼクス、宵。精霊三体と虫一匹。合計八人が部屋に入った。

「来たか……」

アルキスが目を開いた。銀色の瞳がトワを映した。

「言ったはずだ。止めたければ止めてみろ、と」

「ああ、止めに来た」

「その前に、一つ見せたいものがある」

アルキスが立ち上がった。両手を広げた。

部屋の空気が変わった。

足元の透明な床の下に広がっていた80%の世界が、動き始めた。不完全な複製世界のデータが、床を透過して上昇してきた。光の粒子になって、アルキスの体に流れ込んでいく。

「何をしている?」ゼクスが剣を構えた。

「複製のデータを統合する。――80%分の世界を、わたしの中に取り込む」

アルキスの体が変わり始めた。

銀色の髪が伸びた。肩から腰まで。髪の一筋一筋にデータの光が流れていた。白い衣服が消え、代わりに全身をデータの光が覆った。透明な体。内部にBCOの世界が映し出されている。リベルタの街並みが胸に、聖都ルクスが腹に、ソルシアの草原が腕に。世界が、アルキスの体の中に入っていた。

見聞録が警告を出した。

【────── 見聞録:緊急警告 ──────】

対象名:アルキス(統合形態)

レベル:測定不能

HP:測定不能

ATK:測定不能

特性:

BCOの80%分の世界データを統合。

全プレイヤーの戦闘スキルを使用可能。

全モンスターの攻撃パターンを再現可能。

※この存在に対する有効な攻撃手段は

現在のデータベースに存在しません。

【──────────────────────────】

「全ステータスが測定不能。全プレイヤーのスキルを使える。全モンスターの攻撃を再現できる」

「そうだ」アルキスの声が変わっていた。冷たさは同じだが、深さが増した。世界そのものが喋っているような響き。「わたしは今、BCOの80%だ。世界の八割を、この身に纏っている」

アルキスが片手を上げた。

手のひらから、炎が噴き出した。炎が消えると、氷の嵐が吹いた。嵐が止むと、雷が落ちた。全属性の魔法が、指先一つで切り替わっていく。

「全プレイヤーの魔法。全ての属性。全ての詠唱」

もう一方の手から、剣が生成された。データの光で編まれた剣。形が次々と変わった。大剣、短剣、槍、斧、鞭。全ての武器を、データから生成できる。

「全プレイヤーの武器。全ての流派。全ての技」

トワは旅立ちの剣を握った。Lv1の初期武器。アルキスの手に浮かぶ無数の武器と比べて、あまりにも小さかった。

「トワ」アルキスが言った。「お前の旅立ちの剣は、三連斬を基本として四万回以上振られている。軌道のパターンは二百四十七種類。最頻値は正面からの横薙ぎ。二撃目は左下が67%、上段が18%、その他が15%。全て、わたしの中にある」

「知ってるのか」

「知っている。お前の全ての剣を」

「なら、知らない剣を見せてやる」

トワが踏み込み、果ての道標を振った。

アルキスがデータの剣で受けた。金属と光がぶつかる音がした。トワの剣が弾かれた。力の差が歴然だった。

「ATK3,814。灯歩の補正を含めた最大値だ。わたしのATKは、三十一万人分のデータの合算だ。桁が違う」

アルキスの反撃が来た。データの剣が横に薙いだ。トワが跳んで避けた。剣が通過した場所の床が切れた。透明な壁に亀裂が入った。

「ゼクス!」

「分かっている!」

ゼクスが影潜りで消えた。アルキスの背後に出現し、黒い刃を突き出した。

アルキスが振り返らなかった。背中からデータの盾が生成されて、ゼクスの刃を弾いた。

「影潜りからの背面攻撃。ゼクスの最頻出パターン。到達速度は0.3秒。影から出る位置は対象の左後方45度が78%」

「全部読まれてるな」ゼクスが舌打ちして後退した。

タマキが浄化薬を投げた。瓶がアルキスの体に当たって割れた。薬がデータの光に触れた。

何も起きなかった。

「浄化薬。闇属性を中和する。だが、わたしの体は闇属性ではない。データだ。薬で浄化できるものではない」

「トワさん、薬が効きません! 属性攻撃の対象ではない……」

「分かった、別の方法を考える」

アルキスが三歩歩いた。たった三歩で、トワとの距離が一気に詰まった。移動速度も桁違いだ。

データの剣がトワに向かって振り下ろされた。

宵が動いた。

暗闇がトワの前に広がった。原初の暗闇。アルキスの剣が暗闇に触れた。剣が暗闇の中に沈んだ。暗闇がデータの光を吸い込んだ。

「原初の暗闇か」アルキスの動きが止まった。「わたしのデータベースに存在しない領域。暗闇は世界が作られる前から存在していた。わたしが紡いだ世界には含まれない」

「アルキス」宵が暗闇の中から声を出した。「あなたのデータは世界の80%。でも、世界の前にあったわたしの暗闇は、あなたのデータに含まれていない。世界の外にあるものは、世界のデータでは触れられない」

アルキスの銀色の瞳が宵を見た。

「下地の住人。お前がここに来ているとは思わなかった」

「来たの。この人たちと一緒に。あなたと違って、一人で来たわけじゃない」

アルキスの表情が、一瞬だけ変わった。怒りではない。何かを思い出したような、遠い表情。

だが、すぐに消えた。

「原初の暗闇で防御できる。だが、攻撃はできないだろう。暗闇は守ることはできても、打つことはできない」

「そうだね。暗闇は攻撃に向かない。でも、時間は稼げる」

「時間を稼いで、何をする」

トワが宵の暗闇の後ろから踏み出した。

「考える。歩きながら考える。いつもそうしてきた」

アルキスの統合形態は圧倒的だった。正面からの力勝負では勝てない。データの分析で動きを読まれる。薬も効かない。

だが、原初の暗闇がアルキスのデータの外にあることは分かった。そして、灯歩の光はプレイヤーの意志が灯したものであり、データのコピーとは質が違うことも分かっている。

まだ手はある。全部は見えていないが、歩けば見えてくる。

グランの言葉。宵の言葉。タマキの分析。全部が、頭の中で繋がりかけている。

「セレス。月光を頼む」

「うん。トワ。セレスのつき、だす」

セレスの角から月光が放たれた。金色の灯歩の光と、銀色のセレスの月光が混じり合った。

最終決戦が始まった。