軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五人の絆

カインの短剣が、レナの喉元に突き出された。

操られたカインの動きは正確だった。データ通りの軌道。カインが実戦で見せてきた最速の突き。レナだからこそ躱せた。カインの癖を知り尽くしているからだ。

「カイン。右手の突きは、手首が少し外に開く癖がある。治せって何度も言ったのに」

カインの虚ろな目が、また揺れた。聞こえている。意識は残っている。だが体が言うことを聞かない。

引く者が指を動かした。二本目の糸が天井からリゼに降りてきた。リゼの頭上に触れた瞬間、リゼの目が虚ろになった。杖がレナに向けられた。

「二人目を頂いた。次は三人目だ」

三本目の糸がマルクに伸びた。マルクが避けようとしたが、糸が追いかけてきた。首筋に触れた。マルクの目が変わった。大剣を構えて、レナに向き直った。

残りはレナとバルトの二人。

「バルト。わたしの後ろに」

「了解」

バルトが盾を構えてレナの背後を守った。前方にカイン、リゼ、マルク。三人が操られてレナに向かってくる。

「三人のデータは全て把握している」引く者が笑った。「三人の攻撃パターンをわたしが操れば、お前たちの連携は完璧に再現できる。深紅の牙の連携を、深紅の牙にぶつける」

カインが左から、マルクが正面から、リゼが後方から。深紅の牙のフォーメーション「三点突撃」だった。レナが考案した連携だ。レナ自身が最もよく知っている。

「バルト、左右に動くな。わたしが前を見る」

レナがカインの突きを弾いた。マルクの大剣を横に逸らした。リゼの魔法をバルトの盾が受けた。三人の連携を二人で捌いた。

だが、操られた三人は疲れない。引く者が体力を供給している。レナとバルトはいずれ消耗する。

「レナさん。このままじゃ持ちません!」バルトが息を荒げた。

「分かってる」

四本目の糸が、バルトに向かって伸びた。

「バルト、避けて!」

バルトが盾で糸を弾こうとした。だが、糸は盾をすり抜けた。物理的な糸ではない。バルトの首筋に触れた。

バルトの目が虚ろになった。

レナが一人になった。

「四人全員を頂いた。残りはお前一人だ」

カイン、リゼ、マルク、バルト。四人がレナを囲んだ。深紅の牙の全メンバーが、リーダーに武器を向けている。

「さあ、どうする。仲間を斬るか。斬れば勝てるかもしれない。だが、斬った傷は残る」

レナは四人の顔を見た。虚ろな目。だが、全員の目の奥に、微かな揺れがあった。カインの目が揺れた時と同じ。意識が残っている。声が聞こえている。体が動かないだけだ。

レナは剣を鞘に収めた。

「レナ。何をする」引く者の声に、初めて動揺が混じった。

「剣を収めた。戦わない」

「戦わなければ、四人がお前を殺す」

「殺さないわよ。こいつらは」

レナが両手を広げた。無防備な姿勢。四人の武器の射程圏内。

「カイン。リゼ。マルク。バルト。聞こえてるんでしょう。目が揺れてるの、見えてるから」

四人の武器が振り上げられた。引く者が指を動かしている。「斬れ」と命じている。

「わたしはあなたたちを信じてる。三年間、一緒に戦ってきた。ギルド対抗戦も、レイドも、常世島も。五人でずっと一緒だった。その三年間を、糸の一本で上書きできると思う?」

カインの短剣がレナの首に迫った。あと十センチ。五センチ。

止まった。

カインの腕が震えていた。目に光が戻りかけている。涙が一筋、頬を伝った。

「レ……ナ……さ……ん」

「カイン。おかえり」

カインの手から短剣が落ちた。首筋の糸が弾けた。カインが自分の意志を取り戻した。

「っ……体が、動く」

「一人戻った」引く者が指を動かした。「だが、残り三人」

リゼの杖がレナに向けられた。魔法が発動しかけた。だが、リゼの目にも光が戻りかけていた。

「リゼ。あなた、魔法を撃つ前にいつも杖を左に傾ける癖があるでしょう。今、傾いてない。それはあなたの意志が抵抗してる証拠よ」

リゼの杖が落ちた。糸が弾けた。

「マルク。あなたは大剣を振る前に必ず左足を引く。今、足が動いてない。踏ん張ってるのね」

マルクの大剣が床に落ちた。糸が弾けた。

「バルト。あなたの盾は、いつもわたしの背中を守ってくれた。今も、わたしに向けられてるけど、角度が少しだけ外れてる。わたしに当たらないようにしてるのね」

バルトの盾が下がった。糸が弾けた。

四人全員が、自分の意志を取り戻した。

引く者の十本の指から伸びていた糸が、全て切れていた。

「馬鹿な。信頼だけで操りを破るなど」

「信頼だけじゃないわ」レナが剣を抜いた。「三年間の記録よ。三年間一緒に戦ってきた記録が、あなたの糸より強かっただけ」

深紅の牙、五人全員が武器を構えた。

「深紅の牙。最後の一撃、行くわよ」

「「「「了解」」」」

五人が同時に踏み込んだ。カインが左、マルクが右、リゼが後方、バルトが正面。レナが上から。深紅の牙の連携「五点包囲」。引く者のデータにある連携だ。だが、データ通りに動いているのではない。四人が自分の意志で動いている。

五つの攻撃が同時に引く者に叩き込まれた。

【深紅の牙 連携攻撃「五点包囲」→ 引く者 ダメージ合計:90,000】

引く者が崩壊した。糸がほどけ、指が折れ、人形遣いの体が散った。

【──────────────────────────】

【紡世の徒 幹部「引く者」を撃破しました】

【織機の動力が一つ断たれました】

【──────────────────────────】

カインがレナの前に歩いてきた。膝をついた。

「レナさん。すみません。剣を向けました」

「謝らないで。止まってくれたでしょう。それだけで十分よ」

「止まったんじゃないです。止めたんです。自分で」

レナがカインの頭を軽く叩いた。

「知ってる。あなたたちが止められない人間だったら、三年も一緒にいないわよ」

チャットが入った。

トワ:「レナ。四つ目の動力が断たれた」

レナ:「五人全員無事。少し泣いたけど」

トワ:「泣いたのは誰だ」

レナ:「全員よ」

深紅の牙が、通路を引き返し始めた。五人が横一列で歩いていた。