軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

織機

柱の内部は、竪穴だった。

直径五十メートルの円筒形の空間が、百二十メートル上方まで真っ直ぐに伸びている。壁は全て糸で編まれていて、糸の中をデータの光が流れている。金色の灯歩の光と白いアルキスの光が混じり合い、壁全体がまだらに明滅していた。

竪穴の中央に、それがあった。

織機だった。

高さ六十メートルの巨大な構造体。木製でも金属製でもなく、糸そのもので編まれた織機。無数の糸が四方八方から流れ込み、織機の内部で交差し、編まれ、別の形になって出ていく。

入ってくるのは、プレイヤーの記録データを載せた白い糸。出ていくのは、複雑に編み上げられた灰色の織物。織機が、プレイヤーのデータを使って何かを編んでいる。

「トワさん。あれが、アルキスが集めたデータの行き先です」

「集糸塔で集め、転送し、ここで編み上げている。問題は、何を編んでいるかだ」

見聞録でスキャンした。

【────── 見聞録:高精度スキャン結果 ──────】

対象名: 紡世の織機(つむぎのしょくき)

種別:データ統合・再構成装置

機能:全プレイヤーの記録データを統合し、

「完全な世界の複製」を構築中

進捗:78.3%

備考:

完成した場合、BCOの完全なコピーが

アルキスの管理下に生成されます。

コピーされた世界に、元の世界のデータは不要となり、

原本の世界は崩壊する可能性があります。

【──────────────────────────】

「完全な世界の複製を構築中。進捗78%。完成したら原本の世界が崩壊する」

「世界のコピーを作って、元の世界を捨てるつもりですか」タマキの声が硬くなった。

「アルキスの目的が見えた。全プレイヤーのデータを集めて、自分だけの完全な世界を作ろうとしている。その世界では、アルキスが全てを知り、全てを管理できる。原本の世界は、データを抜かれて空になる」

「止められますか」

「織機を止めればいい。だが、織機を動かしているのはアルキスだ。アルキスを止めない限り、織機は止まらない」

門の外に向けてチャットを送った。

トワ:「柱の内部に入った。アルキスの目的が判明した。プレイヤーのデータで世界の完全なコピーを作ろうとしている。進捗78%。完成すれば原本の世界が崩壊する。織機を止めるには、アルキスを止める必要がある。突入隊を編成する。以下のメンバーは柱の中に入ってくれ」

名前を挙げた。ゼクス。蓮と〈黄金の燐光〉。ハルとミコト。レナと〈深紅の牙〉。ヴェノムとソラ。アストレア。

二分後。門をくぐって仲間たちが入ってきた。

ゼクスが竪穴を見上げた。

「でかいな。上にアルキスがいるのか」

「頂部にいるはずだ。だが、直接上に行く道がない」

竪穴の壁面に、五つの通路が開いていた。五方向に分岐する通路。それぞれの入口に紡世文字が刻まれている。

見聞録で五つの通路を同時にスキャンした。

【────── 見聞録:通路スキャン ──────】

通路①:「断つ者の間」──Lv92の個体反応

通路②:「絡める者の間」──Lv91の個体反応

通路③:「紡ぐ者の間」──Lv93の個体反応

通路④:「引く者の間」──Lv90の個体反応

通路⑤:「喰む者の間」──Lv94の個体反応

全通路共通情報:

各通路の最奥に、紡世の徒の幹部が駐在。

五体の幹部を全て撃破すると、

頂部への道が開放されます。

【──────────────────────────】

「五人の幹部。全員倒さないと、頂部のアルキスに届かない」

「五つ同時に攻略するのか」蓮が通路を見回した。

「同時に行く。時間をかけると織機の進捗が進む。78%から100%になる前に、全員倒して頂部に向かう」

トワは五つの通路と、集まった仲間を見比べた。各幹部の特性を見聞録で推測する。「断つ者」「絡める者」「紡ぐ者」「引く者」「喰む者」。糸の機能に対応した五人。

「それぞれの幹部に、相性のいいメンバーを当てる」

トワが編成を告げた。

「通路①、断つ者の間。ゼクス。糸を断つ能力はスキルやバフを切断する力だと推測される。ゼクスの影潜りが断たれても戦える実力がある。単騎で頼む」

「了解した」ゼクスが通路①に目を向けた。

「通路②、絡める者の間。蓮と〈黄金の燐光〉。行動拘束の能力だと推測される。ギルドの連携で突破してくれ。一人が止められても、他のメンバーがカバーできる」

「三十人いる。何人止められても残りが動く」蓮が頷いた。

「通路③、紡ぐ者の間。ハルとミコト。幻影を生成する能力だと推測される。見聞録なしで真偽を見抜く必要がある。ハル、見聞録の師匠として教えたことを使え」

「師匠の教えは全部覚えてます」ハルが手帳を握りしめた。

「ミコト。配信画面は客観的な視点を持っている。幻影は主観を騙すが、配信の映像は騙せない可能性がある」

「分かりました。カメラを信じます」ミコトが頷いた。

「通路④、引く者の間。レナと〈深紅の牙〉。操り人形化の能力だと推測される。仲間同士を戦わせる力だ。〈深紅の牙〉の五人の信頼関係で跳ね返してくれ」

「うちの五人は、操られるほどヤワじゃないわよ」レナが笑った。カイン、リゼ、マルク、バルトが頷いた。

「通路⑤、喰む者の間。ヴェノムとソラ。データそのものを吸収・消去する能力だと推測される。データを多く持つ者ほど奪われるリスクが高い。ヴェノムはLv1の旅人だ。失うものが少ない分、強い」

「旅人の強みが、こういう形で活きるとはな」ヴェノムが短く言った。

「ソラは飛行で距離を取れる。近づかなければ吸収も受けにくい。空から支援してくれ」

「了解。地上はヴェノムに任せて、わたしは空から撃つわ」

五組の編成が決まった。

トワとタマキ、アストレアは柱の中央に残る。織機の監視と、各通路への支援を担当する。見聞録で五つの戦闘を同時にモニタリングし、必要に応じて情報を送る。

「全員、聞いてくれ」

トワが五つの通路の前に立つ仲間たちを見回した。

「俺がこの通路に行くことはできない。五つに分かれる以上、俺の見聞録が直接支援できる範囲は限られる。各通路の中に入ったら、自分たちの力で戦ってくれ。見聞録が届く範囲であれば、できる限りの情報を送る」

「師匠。わたしたちは大丈夫です」ハルが真っ直ぐにトワを見た。「師匠が教えてくれたことを使います」

「ゼクス」

「言うな。分かっている」

「蓮」

「心配するな。お前の旅に付き合ってきたんだ。ここで負けるわけがない」

「レナ」

「四回目ね。また生きて帰るわ」

「ヴェノム」

「行ってくる」

五組が、五つの通路に歩き出した。それぞれの足跡が、灯歩の金色の光を残していく。

トワは織機を見上げた。六十メートルの巨大な構造体が、まだ動いている。データを編み続けている。進捗78.3%。

止めなければならない。仲間たちが五人の幹部を倒すまでに、織機の進捗が100%に達したら、全てが終わる。

タマキが隣に立った。

「トワさん。わたしにできることはありますか」

「織機の仕組みを調べてくれ。弱点があるかもしれない。幹部を倒す以外に、進捗を遅らせる方法があるなら知りたい」

「分かりました。素材鑑眼で調べます」

アストレアが剣を構えて周囲を警戒した。

「わたしは護衛を務めます。何が来ても、トワさんとタマキさんを守ります」

「頼む」

五つの通路の入口が、仲間たちの背中を飲み込んでいった。

幹部戦が、始まる。