軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鉄の軍師と旅人

番兵が湧いた。壁から、床から、天井から。糸で編まれた人形が、四本の腕を振り回しながら施設内に溢れていく。

最初の三十体。続いて五十体。さらに百体。数が止まらなかった。

「ファランクス、盾壁展開。三列縦深、前面八十メートル」

ヴァルハラの号令が響いた。六十人の聖騎士と重装騎士が盾を構え、施設の通路を壁のように塞いだ。番兵の第一波が盾壁にぶつかった。金属と糸がぶつかる鈍い音が連続した。

「灯歩の光で全員の攻撃力が上がっている。押し負けることはない。だが、数が多い。消耗戦になる」

ヴァルハラがトワに視線を向けた。

「トワ。番兵の出現位置をリアルタイムで把握できるか」

「やる。セレス、月光の目を最大索敵に切り替えてくれ」

「うん。やる」

セレスの角から月光が広がった。索敵範囲二キロメートル。施設全域をカバーする。見聞録に番兵の出現位置が次々と表示された。

「東の壁から四十体。北の通路から三十体。天井の裂け目から二十体。合計九十体が第二波として接近中。到達まで二分」

「方角と時間が分かれば十分だ。全軍、聞け」

ヴァルハラが全体チャットで指示を出した。

ヴァルハラ:「トワの索敵に基づいて陣形を変える。東にレクトの白霧の進軍。北に蓮の黄金の燐光。天井はソラの航空班が対処。ファランクスは前面を維持する」

レクト:「了解。白霧の進軍、東へ転進」

蓮:「黄金の燐光、北の通路を封鎖する」

ソラ:「天井は任せて。飛行メンバーで迎撃するわ」

「トワ。索敵を続けてくれ。出現位置と数を、十秒ごとに更新する」

「了解。見聞録のデータを全体チャットに流す」

トワの索敵データが、リアルタイムでヴァルハラに流れた。ヴァルハラはそのデータを見ながら、三千二百人の配置を動かしていく。

番兵が東から来れば、白霧の進軍が迎える。北から来れば、黄金の燐光が止める。天井からはソラが落とす。前面はファランクスが持ちこたえる。

トワの目とヴァルハラの頭。索敵と指揮。情報と判断。二人の能力が重なった時、三千二百人の軍が一つの生き物のように動いた。

三十分の戦闘。番兵の出現は五波に及んだ。合計三百体以上。

だが、一人の死者も出なかった。

灯歩の光による全ステータス上昇が効いていた。普段ならLv90の番兵に苦戦するプレイヤーでも、灯歩の補正で対等以上に戦える。さらに、ヴァルハラの陣形指揮がトワの索敵と完全に連動したことで、奇襲を受けることがなかった。全ての番兵の出現を事前に察知し、到達前に迎撃態勢を整えていた。

「第五波、殲滅完了」レクトが報告した。

「次の出現は」ヴァルハラがトワに聞いた。

「一分以内の出現予兆はない。索敵範囲に新たな反応なし。出現が止まったか、間隔が長くなっている」

「今のうちに前進する。柱まであと八百メートルだ」

隊列が動いた。番兵の残骸を踏み越えて、中央の柱に向かう。

歩きながら、ヴァルハラがトワの隣に来た。

「ギルド対抗戦の時を思い出すな」

「何がだ?」

「お前の索敵で戦場が透明になる感覚だ。あの時は敵だったから、全てを見られる恐怖だった。今は味方だから、全てが見える安心感に変わっている。同じ能力が、立場で正反対になる」

「ヴァルハラの指揮も同じだ。敵の時は隊列に封殺されて動けなかった。味方になれば、三千人が一つの意志で動く」

「お互い様か」

「ああ……」

「だからこそ、全て終わった後に決着をつけたい。お前と俺のどちらが上か、共闘では分からない。個人戦でしか測れない」

「忘れていない。約束は守る」

ヴァルハラが前を向いた。柱が近づいている。

柱まで残り三百メートル。

通路が広がった。施設の中心部。天井が高くなり、柱の全貌が見えた。百二十メートルの糸の柱。表面を金色の灯歩の光と白い冷たい光が入り混じって流れている。

柱の根元に、門があった。柱の内部に続く入口。門の高さは十メートル。門の表面に紡世文字が刻まれている。

【紡世文字解読:「記録を持つ者だけが入れる」】

「記録を持つ者だけが入れる。つまり、プレイヤーなら誰でも入れる」

「罠ではないか」ゼクスが門を観察した。

「罠かもしれない。だが、入らなければアルキスには届かない」

門の前に立った時、柱全体が脈動した。そして、門の中から番兵が出てきた。

一体だけ。

だが、これまでの番兵とは格が違った。

高さ十メートル。四本ではなく八本の腕。体を構成する糸が白と灰色の二重構造になっている。手にした武器は八種。剣、槍、盾、鞭、弓、杖、斧、鎖。

【────── 見聞録:初回スキャン ──────】

対象名:門番

種別:人工守護体(上位)

レベル:Lv95

HP:500,000

属性:無属性

特性:アルキスの記録データから構築された戦闘体。

全プレイヤーの戦闘パターンを学習済み。

※灯歩の光による弱体化:なし

(灯歩の光は糸の奪取を防ぐが、

既に学習された戦闘データは消去できない)

【──────────────────────────】

「Lv95。HP五十万。全プレイヤーの戦闘パターンを学習済み。灯歩の光でも弱体化しない」

「厄介だな」ヴァルハラが盾を構えた。「全プレイヤーの戦闘パターンを知っているということは、こちらの動きが全て読まれるということだ」

「ファランクスの陣形も、ゼクスの影潜りも、蓮の魔法も、レナの剣も、俺の見聞録も。全部データとして持っている」

「対策は?」

「データにないことをするしかない。学習済みのパターン以外の動き。即興の連携。今この瞬間に生まれる判断は、過去のデータには存在しない」

ヴァルハラの目が光った。

「つまり、事前に組んだ戦術ではなく、戦場で即座に判断を切り替え続ける戦い方が必要だということか」

「そうだ」

「それは、お前と俺が最も得意とする領域だ。お前の索敵で状況を見て、俺がその場で陣形を組み替える。パターンではなく、判断で戦う」

門番が八本の腕を広げた。八種の武器が構えられた。

ヴァルハラが全軍に号令を出した。

ヴァルハラ:「全軍、聞け。この敵は全プレイヤーの戦闘データを持っている。つまり、いつも通りの戦い方は通用しない。今から俺が出す指示は、定型の陣形名ではなく、その場その場の行動指示になる。一手ごとに変わる。混乱するかもしれないが、ついてこい。トワの索敵が見ている。俺の判断がある。信じて動け」

三千二百人が武器を構えた。

「行くぞ」トワが言った。

「行くぞ」ヴァルハラが応えた。

門番が動いた。八本の腕が同時に振り下ろされた。

戦闘が始まった。