軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四つ目の光

光が施設を満たした。

金色の光が壁を、床を、天井を、全ての記録板を覆い尽くした。冷たかった白い光が完全に塗り替えられ、施設全体が温かい金色に染まった。

三千二百人のプレイヤーの足元が光っていた。靴の底から、手の先から、武器から、鎧から。全身が淡い金色を帯びている。

見聞録に、システムメッセージが表示された。

【──────────────────────────】

【四つ目の光が覚醒しました】

【光の名前: 灯歩(とうほ) の光】

【効果:全プレイヤーの記録データが光として顕現し、

以下の恩恵を付与します】

【①糸の奪取に対する完全耐性】

【②記録量に応じた全ステータス上昇】

【③踏破済みエリアの糸の自動修復】

【──────────────────────────】

「灯歩の光。歩いて灯す光か」

トワの全身に力が満ちていた。見聞録のステータス画面を開いた。

【灯歩の光によるステータス上昇】

【対象:トワ(旅人Lv1)】

【基礎ATK:127 → 灯歩補正後ATK:3,814】

【基礎DEF:89 → 灯歩補正後DEF:2,691】

【算出根拠:総歩行距離・踏破率・見聞録登録数・

NPC友好度・精霊友好度・パーティ活動時間

──全記録データの総量に基づく上昇】

【──────────────────────────】

「記録量に応じたステータス上昇。一万時間分の記録が、そのまま力になってる」

タマキが自分のステータスを確認した。

「トワさん。わたしのATKも上がっています。調合回数と素材採取量が反映されてます。上昇幅はトワさんほどではありませんが、Lv90の前衛並みの数値です」

「全プレイヤーに効果がある。ただし、記録量で上昇幅が変わる。たくさん歩いた人ほど、強くなる」

ゼクスが自分の手を見た。影潜りの闇が、金色の光と混じって揺れている。

「糸の奪取に対する完全耐性。これがあれば、アルキスに糸を引き抜かれる心配がない」

「原初の欠片は部分耐性だった。灯歩の光は完全耐性だ。全プレイヤーが持っている」

「つまり、アルキスの最大の武器が封じられたということか」

「そうだ」

三つ目の効果も動いていた。踏破済みエリアの糸の自動修復。BCOの本体で、引き抜かれた糸が元に戻り始めている。外殻でも、プレイヤーが歩いた場所の糸が修復されていく。

フォーラムに速報が上がった。

──────

【速報】灯歩の光──全プレイヤーにステータス上昇と糸の耐性が付与

──────

──「ステータスめちゃくちゃ上がってる。俺のプレイ時間三千時間だけど、ATKが倍になった」

──「一万時間のトワはどうなってるんだ。バグみたいな数値になってそう」

──「糸の奪取に完全耐性って、もう糸を盗まれないってことだよな」

──「踏破したエリアの糸が修復されてる。リベルタの裂け目が小さくなってるぞ」

──「BCOの世界が治り始めてるのか。灯火のおかげで」

──────

中央の柱が反応した。

柱の表面を覆っていたデータの光が、金色の灯歩の光に押されて後退している。冷たい白い光が柱の頂部に追いやられ、金色が下から上へと染め上げていく。

柱が震え始めた。低い振動音が施設全体に響いた。

そして、声が聞こえた。

柱の中から。冷たく、平坦な声。

「……灯火が揃ったか」

全員が柱を見上げた。声の出所は、柱の頂部。百二十メートルの高さ。

「三十一万の灯火。全記録データの光。見事だが、わたしが集めた記録も三十一万人分ある。質は違っても、量は同じだ」

アルキスの声だった。初めて聞く声。感情が薄い。データを読み上げるような、均一な抑揚。

「旅人、トワ。わたしはお前のことを最もよく知っている。一万時間分の全行動を記録した。お前の歩行パターン、判断基準、戦闘時の癖、精霊との連携、仲間との役割分担。全て把握している」

「俺のデータを持っているのか」

「持っている。全プレイヤーの中で、お前のデータが最も膨大で、最も複雑で、最も有用だ。だからこそ、優先観測対象に指定した」

「それで、どうする」

「お前たちが来ることは分かっていた。灯歩の光が覚醒することも予測していた。だが、覚醒したからといって、わたしの記録が消えるわけではない。わたしの記録は、わたしの中にある。お前たちの灯火で上書きすることはできない」

柱の頂部が開いた。白い光が噴き出した。柱の中から、人型のシルエットが浮かび上がった。

遠い。百二十メートル上空。姿の詳細は見えない。だが、人型であることは分かる。

「来るなら来い。わたしはここにいる。ずっとここにいた。世界が作られた時から、ずっと。全てを見てきた。全てを記録してきた。わたしの記録は、世界そのものだ」

柱の周囲のリング構造が動き始めた。リングが回転し、記録板が柱に向かって吸い込まれていく。アルキスが記録を回収している。

同時に、施設の壁から何かが出てきた。

番兵だった。灰の環の番兵と同じ形の、糸で編まれた人形。だが、数が違った。十体、二十体、三十体。壁中から湧き出してくる。

「施設の防衛機構が起動した」ヴァルハラが即座に判断した。「ファランクス、盾壁展開。迎撃態勢に入れ」

ゼクスが剣を抜いた。

「番兵の動力源は柱だ。灯歩の光で柱が弱っているなら、番兵も弱いはずだ」

「弱い。だが数が多い。前線で食い止めながら、柱に向かう部隊を分ける必要がある」

トワは全体チャットを開いた。

トワ:「全軍に告ぐ。四つ目の光が覚醒した。全員に灯歩の光が宿っている。糸の奪取に対する完全耐性と、記録量に応じたステータス上昇を得ている。恐れることはない。これは、全員の記録が生んだ力だ」

トワ:「アルキスが中央の柱にいる。番兵が施設内に出現している。ヴァルハラの前衛で番兵を食い止め、突入隊が柱に向かう。全員の力を借りる」

三千二百人の声が重なった。

「行くぞ」

金色の光を纏った三千二百人が、動き始めた。