軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

灯火

灯火のカウンターが、見聞録の画面に表示されていた。

【灯火数:3,200 / 312,847】

BCOワールド12の総アカウント数は三十一万。そのうち、現在ログインしている三千二百人の灯火が灯っている。全体の約1%。

ミコトの配信が流れてから、五分が経った。

カウンターが動いた。

【灯火数:3,843 / 312,847】

六百人が増えた。ミコトの呼びかけを聞いてログインしたプレイヤーたちだ。

フォーラムが回り始めた。

──────

【全プレイヤー参加】灯火を灯せ! ログインするだけでいい!

──────

──「ミコトの配信見た。ログインした。灯火灯ったぞ」

──「休止中だったけど久しぶりにログインした。リベルタの広場にいる。足元が金色に光ってる」

──「え、ログインしただけで光るの? 何もしなくていいの?」

──「ログインしたら自動で灯る。自分のプレイ記録が光になるんだ。歩いた距離とか戦った回数とか全部」

──「Lv3の初心者だけど灯る?」

──「灯る。一歩でも歩いてたら灯る。プレイ時間一分でも灯火はある」

──「マジかよ。初心者でも力になれるのか」

──「全員の光だからな。一人の光じゃない。三十一万人全員の光だ」

──────

【灯火数:8,217 / 312,847】

十分で五千人が増えた。増加速度が加速している。

施設の内部が変わっていた。壁の記録板が次々と光っていく。外殻にいないプレイヤーでも、BCOにログインした瞬間に、ここにある記録板が連動して灯る。遠隔で灯火が灯されていく。

「きれい」セレスが角を傾けた。「まいにち、ふえてる。ひかりが」

「毎日じゃない。毎秒だ」

金色の光の粒が、壁から天井に広がっていく。冷たかった白い光が押しのけられ、温かい金色に塗り替えられていく。記録板の一枚一枚が、自分の持ち主がログインした瞬間に灯る。一枚の灯火は小さいが、集まれば施設全体を照らす光になる。

【灯火数:24,561 / 312,847】

三十分で二万を超えた。

ミコトの配信の視聴者数が七百万を突破した。BCOのプレイヤーだけでなく、他のゲームのプレイヤーや、ゲームをしない人まで見ている。配信のコメントが止まらなかった。

──「他ゲーの者だけど泣いてる。なんだこのイベント」

──「プレイヤーの記録が光になるって、設定が良すぎるだろ」

──「俺BCOやったことないんだけど今からアカウント作って一歩だけ歩いたら灯る?」

──「灯るぞ。やれ」

──「やる」

【灯火数:67,892 / 312,847】

一時間。七万に届こうとしている。

施設の中の光が、目に見えて変わった。壁の三分の一が金色に光っている。天井にも光が広がり、頭上が金色の星空のようだった。一枚一枚の記録板が星で、プレイヤーの数だけ星がある。

蓮がトワの隣に来た。

「フォーラムの速報を見たか。各地で面白いことが起きてる」

「何があった」

「ソルシアの草原に、引退したプレイヤーたちが集まり始めてる。『闇が消えたソルシアを見たかった』って。何年もログインしてなかった連中が、このために戻ってきてる」

「引退者か」

「聖都ルクスでも同じだ。大聖堂の前に集まって、自分の足跡が光るのを見てる。中には初期からのプレイヤーもいるらしい。BCOの最初の一ヶ月にだけプレイして、それきりだった人が灯火のためにログインした」

「一ヶ月しか歩いていなくても、灯火はある」

「ああ。一歩でもある。三十一万人分の一歩が集まれば、光になる」

【灯火数:142,308 / 312,847】

二時間。十四万。半数に迫った。

施設全体が金色に染まっていた。壁も、床も、天井も。記録板が光を放ち、その光が互いに共鳴して、施設全体が一つの大きな灯火になりつつある。

中央の柱にも変化が起きていた。柱の表面を流れていたデータの光が、冷たい白から金色に変わり始めている。アルキスが集めたデータに、プレイヤーの灯火が干渉している。

「柱の光が変わり始めてる」ゼクスが柱を見上げた。

「アルキスのデータは奪われた記録だ。だが、プレイヤーが自分で灯した光は、奪われたものとは別物だ。同じデータでも、奪ったものと灯したものでは質が違う」

宵が静かに言った。

「灯火の光がアルキスの光を塗り替えていく。データの所有者が自分で灯した光は、コピーより強い。本物は写しに勝つ」

見聞録に通知が出た。

【灯火数:201,455 / 312,847】

三時間。二十万を超えた。

施設の壁が震え始めた。光が強くなりすぎて、糸の構造が共鳴している。低い振動音が広間を満たした。

三千二百人のプレイヤーが、施設の中で金色の光に包まれていた。自分たちの足元も光っている。全員の足跡が、全員の記録が、光になっていた。

ヴェノムが一言だけ言った。

「全員の旅が、ここにある」

ヴェノムは元〈翠蛇の牙〉のメンバーだった。ギルドは解散し、仲間を失い、Lv1の旅人として歩き直した。その歩き直した記録も、ここで光になっている。

レナが目を細めた。

「うちの五人分の灯火なんて小さいものだけど。でも灯ってるのね、ちゃんと」

「小さくない」トワが言った。「五人の灯火は五人分の光だ。大きさは関係ない」

【灯火数:278,934 / 312,847】

四時間半。残り三万四千。

増加速度が落ち始めていた。ログインしやすいプレイヤーは既にログインした。残っているのは、長期休止中のプレイヤー、アカウントを放置したまま忘れているプレイヤー、もうBCOに戻る気がないプレイヤー。

「頭打ちか」蓮が呟いた。

「全員が灯さないと覚醒しないのか」タマキが聞いた。

見聞録を確認した。

【四つ目の光の覚醒条件:全プレイヤーの灯火が揃うこと】

【現在の充足率:89.2%】

【残り必要数:33,913】

「89%。ここからが難しい」

ミコトが配信で呼びかけ続けていた。フォーラムでもスレッドが乱立している。だが、ログインできない人はログインできない。仕事中の人、寝ている人、BCOをアンインストールした人。

カウンターの動きが鈍くなった。

【灯火数:289,107 / 312,847】

五時間。残り二万四千。充足率92%。

トワは見聞録を見つめていた。あと二万四千。フォーラムの呼びかけだけでは届かない人たちがいる。

その時、フォーラムに新しい投稿が上がった。

──────

【拡散希望】BCO未プレイの方へ──今すぐアカウントを作って、一歩だけ歩いてください

──────

──「BCOをやったことがない人でも、アカウントを作ってログインして一歩歩けば灯火が灯ります。一歩で十分です。あなたの一歩が、世界を救います。拡散お願いします」

──────

配信のコメントが流れ出した。

──「拡散した。SNS全部に流した」

──「友達に連絡した。五人がインストールし始めてる」

──「俺の彼女がBCOのアカウント作ってる。ゲームやったことないのに」

──「会社のグループチャットに流した。何人か反応してる」

──「海外の配信者が取り上げ始めたぞ。BCOの灯火イベントが世界中で話題になってる」

【灯火数:298,441 / 312,847】

増加が再加速した。BCOの既存プレイヤーだけでなく、新規アカウントが増え始めている。一歩だけ歩いて、灯火を灯して、それだけのためにログインする人たち。

「全員の光だ」トワが言った。「プレイヤーだけじゃない。今この瞬間に、一歩を踏み出した全員の光だ」

【灯火数:306,219 / 312,847】

残り六千六百。

「あと少しだ」セレスが角を光らせた。「あとすこしで、ぜんぶ、そろう」

【灯火数:310,502 / 312,847】

残り二千三百。

【灯火数:312,114 / 312,847】

残り七百三十三。

【灯火数:312,690 / 312,847】

残り百五十七。

施設全体が震えていた。金色の光が柱を覆い尽くし、天井から光の粒が雪のように降り注いでいた。三千二百人のプレイヤーが空を見上げていた。

カウンターが動いた。

【灯火数:312,847 / 312,847】

【──────────────────────────】

【全プレイヤーの灯火が揃いました】

【四つ目の光が覚醒します】

【──────────────────────────】

光が、爆発した。