軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再会

「宵」

「トワ。それと、セレスと、ルーナと、メブキと、テンと……それから」

宵の暗い紫色の瞳が、トワの後ろの三人を見た。

「新しい人たちもいる」

「タマキだ、俺のパートナー。こっちがゼクス。後ろが弟子のハル」

「こんにちは、宵さん」タマキが頭を下げた。

宵が小さく微笑んだ。暗闇の中から一歩だけ出ている。暗い紫色の髪が、セレスの月光に照らされて揺れていた。

セレスが角を光らせて、トワの肩から飛び降りた。宵の前に立った。

「よい。セレス、きた。やくそく、まもった」

「うん、来てくれた。セレスの月光が、遠くから見えた。暗闇の中に光が入ってきて、あなただって分かった」

「よい。げんきだった?」

「元気、というのかな。ずっと暗闇の中にいたから、元気も元気じゃないも、よく分からない。でもね、セレスの光を見た瞬間は、嬉しかった」

セレスが角を宵の手のひらに近づけた。前と同じように、月光が宵の手に触れた。暗闇の欠片と月光が重なって、星のような輝きが生まれた。

「ほし。まえとおなじ。よいと、セレスの、ほし」

「うん。消えない光。まだ、残ってた」

宵が手のひらを開いた。前回セレスの月光が触れた場所に、小さな星の光がまだ残っていた。消えていなかった。

「セレス。この光、ずっと持ってた。暗闇の中で、唯一の明かりだった」

セレスの角が強く光った。嬉しくて制御ができなくなっている。

「よい。セレス、やくそく、もうひとつ、ある。そとのほし、みせるって、やくそくした。いまは、まだ、みせられない。でも、ぜったい、みせる」

「待ってる。ずっと待ってる」

宵が暗闇の縁に座った。トワたちが向かい合って座る。収集者の私室は小さいが、六人と精霊三体と虫一匹が座れる程度の広さはあった。

「宵。なぜここにいる。宵闇の回廊から、どうやってここまで来た?」

「原初の暗闇は、世界の下地に広がっている。下地は世界の裏側。そしてこの外殻も、世界の裏側。つまり、原初の暗闇と外殻は繋がっている。暗闇を通って、ここに来れた」

「原初の暗闇は世界の下地、外殻は世界の外殻。両方とも世界の裏側だから、接続している」

「そう。ただし、誰でも通れるわけじゃない。暗闇の中を歩けるのは、暗闇に属するものだけ。わたしは暗闇の住人だから、通れた」

「宵はこの施設のことを知っていたのか」

「知っていた。暗闇の中から、この場所を見ていた。長い間。ここに来る者が、世界の糸を集めて、記録して、何かを作ろうとしているのを、暗闇の向こう側から見ていた」

「その者の名前は知っているか」

「アルキス……この部屋の主。わたしが暗闇の中にいた頃から、ずっとここにいた。世界が作られた直後から、ずっと」

トワは聞いた。

「アルキスは、いったい何をしているんだ?」

「全てを見ようとしている。全プレイヤーの記録を集めて、世界の完全な姿を自分の中に作ろうとしている。糸を引き抜くのはそのため。糸の中にデータがあるから、糸を集めれば、データが手に入る」

「闇の変換炉は」

「アルキスの仕事の一部。糸を引き抜くと、世界の構造が弱くなる。弱くなった場所に闇が流れ込む。アルキスはそれを利用して、世界をさらに弱くする仕組みを作った。弱い世界からは、糸がもっと簡単に引き抜ける。悪い循環を作っている」

「循環を断った。変換炉は止めた」

「知っている。暗闇の中からでも、聖騎士の光は見えた。白い光が、灰色を塗り替えていくのが見えた」

タマキが質問した。

「宵さん。アルキスさんは今、どこにいますか」

「この施設の奥。もっと深い場所に、アルキスの本当の居場所がある。ここは記録を保管する場所でしかない。本体は、もっと大きな施設の中にいる」

「どのくらい奥に……」

「暗闇を通れば、直接行ける。でも、暗闇を通れるのはわたしだけ。あなたたちは、糸の道を歩くしかない。歩くなら、ここから先、二つの道がある」

「二つ」

「一つは、糸の大道。太い糸の束に沿って進む道。距離は長いけど、道が安定していて、大勢で歩ける。もう一つは、暗闇の隙間。原初の暗闇が外殻と接している場所を通る近道。距離は短いけど、暗闇の中を通るから、原初の欠片がないと歩けない」

「原初の欠片は俺が持っている」

「うん。だから、トワは近道を通れる。でも、仲間たちは通れない。原初の欠片は一つしかないから」

ゼクスが口を開いた。

「軍を分ける必要があるか。本隊は大道を進み、トワが近道で先行する」

「宵。近道を通ると、何が見えるか分かるか」

「アルキスの施設の手前に出る。施設の全体像を先に確認できる。大道で行くと、施設の正面に出るから、全体が見えないまま突入することになる」

「偵察としての価値がある」

トワは考えた。

三千人の本隊を大道に進ませ、自分が少数で近道を通って先行偵察する。アルキスの施設の全体像を把握してから、本隊と合流して突入する。

「宵。近道を案内してくれるか」

「あなたたちと一緒に歩くなら、案内する。わたしは暗闇の住人だから、暗闇の中では道が分かる」

「ありがとう」

「ありがとうはわたしの方。また会えて、嬉しかった。暗闇の中で一人でいるのは慣れてるけど、慣れてるのと平気なのは、違うから」

セレスが宵の隣に立った。

「よい。セレス、いっしょに、あるく。よいの、やみのなかを。セレスのつきで、すこしだけ、あかるくするから」

「ありがとう、セレス。でも、暗闇の中では月光は出さないで。暗闇が驚いてしまうから。わたしがいれば大丈夫。暗闇は、わたしの家だから」

「わかった。じゃあ、セレス、よいの、となりに、いる。ひかり、ださないけど、いる」

「うん。それだけで十分」

ルーナが影の中から声を出した。

「……宵。わたしも暗闇に近い存在だから、少しだけ暗闇の道を歩ける。手伝えることがあったら言って」

「ルーナ。夜の精霊。あなたの夜は、暗闇とは違うけど、近い。一緒に歩けると思う」

メブキが双葉を揺らした。

「くるくる。よいさん、くらいとこ、こわくない?」

「怖くないよ。暗いのはわたしの家だから。でも、寂しかった。今は寂しくない」

テンがブーツの上で二回点滅した。静かな挨拶。

宵が立ち上がった。暗闇の縁に立って、トワを見た。

「トワ。この先に行けば、アルキスがいる。アルキスは全てを知ろうとしている。でも、一つだけ知らないことがある」

「何だ」

「自分で歩くということ。アルキスは全てを見ているけど、自分では一歩も歩いたことがない。記録を集めて、データを読んで、分析して、全てを理解したつもりになっている。でも、足で歩いて知ることと、記録を読んで知ることは、違う」

「ああ、それは俺もそう思う」

「だから、あなたが行くべきなんだと思う。一万時間歩いた旅人が」

宵の暗い紫色の瞳が、真っ直ぐにトワを見ていた。

トワは頷いた。

「行こう。宵、案内を頼む」

「うん。行こう」

宵が暗闇の中に手を伸ばした。暗闇が揺れて、道が開いた。