軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖光

番兵が暴れていた。

一体目がゼクスに四本の腕を同時に振り下ろした。剣、槍、盾、鞭。四方向からの同時攻撃。ゼクスが影潜りで回避し、直後に背後から斬りつけた。

【ダメージ:1,240】

糸の体に亀裂が走った。だが、亀裂が修復される。変換炉から灰色の光が流れ込んで、切られた箇所が三秒で元に戻った。

「修復が早い。本気で邪魔をしてくるな」ゼクスが舌打ちした。

二体目がレナに突進していた。槍が連続で突き出される。レナが剣で弾き、捌き、一歩も引かなかった。

「こっちも同じ。斬っても斬っても戻る。きりがないわね」

「トワ、行動パターンを!」

トワは見聞録を全開にしていた。番兵二体の動きを同時にトラッキングし、攻撃の周期と隙を記録している。

「ゼクス。一体目の攻撃周期は四秒。四本の腕が順番に振る。剣、槍、鞭、盾の順だ。盾を振った直後に零コンマ八秒の間がある。そこが隙だ」

「零コンマ八秒か。十分だ」

「レナ。二体目は一体目より速い。周期が三秒半。だが、槍を使う時だけ腕を大きく引く。引いた瞬間に懐に入れば、残りの三本は角度的に届かない」

「了解。槍の引きを待つわ!」

見聞録のリアルタイムデータが、二人の戦闘を支えた。ゼクスが盾の後の隙を突いて連撃を叩き込む。レナが槍の引きに合わせて懐に飛び込み、体幹を斬る。

しかし、修復が止まらない。どれだけ斬っても、変換炉から闇が供給される限り、番兵は蘇る。

変換炉の前で、アストレアが戦っていた。

剣ではなく、光と。

聖属性の白い光が、炉の表面に広がっていた。光が闇を押し返す。炉の灰色が、剣を突き立てた場所を中心に、わずかに明るくなっている。だが、炉全体を浄化するにはほど遠かった。

アストレアの額に汗が浮かんでいた。聖属性の出力を全開にしている。全身が白く発光し、鎧の隙間から光が漏れていた。

「重い……。この闇、抵抗してきます。押し返そうとする力がある」

タマキが隣で薬を準備していた。

「アストレアさん。MP回復薬を飲んでください。聖属性の維持にMPが必要なはずです」

「ありがとう、タマキさん。でも、MPの問題じゃないんです。闇が、押し返してくる。光を注いでも、炉の奥から新しい闇が湧いてくる」

「集糸塔からの供給が続いているからです。外部からの糸の流入が止まらない限り、炉の闇は減りません」

トワが見聞録で変換炉の状態を確認した。

「アストレアの聖光で、炉心の浄化率は12%。だが、外部からの闇の流入で、毎秒0.3%ずつ戻されている。このペースでは追いつかない」

「流入を止める方法は」タマキが聞いた。

「集糸塔を止めれば流入は止まる。だが、集糸塔は外にある。外の軍が止めるにしても、十四本もある」

通信チャットを開いた。

トワ:「ヴァルハラ。環の外周にある集糸塔を停止できるか。炉心への流入を止めないと浄化が追いつかない」

ヴァルハラ:「集糸塔の停止方法は」

トワ:「分からない。だが、塔の頂部から糸が流入している。頂部を物理的に塞ぐか、破壊すれば流入は止まるはずだ」

ヴァルハラ:「了解。十四本を同時に止める必要があるか」

トワ:「同時でなくてもいい。止めた分だけ流入量が減る。数本でも止めれば、アストレアの浄化が追いつく可能性がある」

ヴァルハラ:「ファランクスと白霧の進軍で分担する。ソラの航空班にも頂部の封鎖を依頼する。十分で最低五本は止める」

外の軍が動き始めた。

トワは炉心のデータを見続けた。浄化率12%。流入速度が毎秒0.3%。アストレアの浄化速度が毎秒0.4%。差し引き0.1%ずつしか進まない。

三分後。ヴァルハラから報告が入った。

ヴァルハラ:「一本目停止。ソラが上空から蓋をした」

ソラ:「二本目も止めたわ。風魔法で頂部を圧縮して封じた」

見聞録のデータが変わった。流入速度が毎秒0.3%から0.22%に落ちた。

「流入が減った。効いてる」

アストレアが剣に力を込めた。浄化率が15%、18%と上がり始めた。

ヴァルハラ:「三本目停止。レクトが物理的に頂部を叩き壊した」

レクト:「四本目も行く」

蓮:「五本目は黄金の燐光が止める。魔法で頂部を溶接した」

流入速度が毎秒0.15%まで落ちた。アストレアの浄化速度が上回った。

浄化率が30%を超えた。

番兵の動きが変わった。再生速度が落ちている。ゼクスが斬った傷の修復に、三秒ではなく五秒かかるようになった。

「修復が遅くなってる。炉心の浄化が効いてるぞ!」ゼクスが叫んだ。

「レナ、押し込め。今なら削り切れる!」

「言われなくても!」

レナの剣が加速した。番兵の四本の腕を一本ずつ切り落としていく。切られた腕が修復しようとするが、灰色の光の供給が弱まり、修復が途中で止まった。

ゼクスが影潜りから番兵の胸に刃を突き立てた。

【クリティカルダメージ:3,800】

番兵の体が崩れた。糸がほどけて散った。修復が始まらなかった。

「一体目、撃破」

レナも二体目を仕留めていた。槍の引きに合わせて懐に飛び込み、体幹を十字に斬り裂いた。糸の体が左右に崩れ落ちた。

「二体目も。復活しないわね」

浄化率が50%を超えていた。番兵を再生する力が、もう炉には残っていない。

アストレアが一人で浄化を続けた。

剣を握る手が震えていた。全身から聖属性の光を放ち続けて、体力が限界に近づいている。

「アストレアさん、回復薬を」

「まだです。まだ、止めません」

タマキが回復薬をアストレアの口元に運んだ。アストレアが片手で受け取り、一息で飲み干した。HPが回復する。だが、聖属性の出力は精神力に依存する。体力とは別の疲労が蓄積していた。

浄化率70%。灰色だった炉の表面が、半分以上白く戻っていた。

80%。光の柱の色が灰色から白に変わり始めた。

90%。炉全体が白い光に包まれた。上空に向かって伸びていた灰色の柱が消え、代わりに白い光の柱が天を貫いた。

アストレアが最後の力を振り絞った。

「聖騎士アストレア。ここに、闇を断つ」

剣を深く突き立てた。白い光が炉心を貫いた。

【──────────────────────────】

【闇の変換炉が停止しました】

【ソルシア地方への闇属性の放出が停止しました】

【──────────────────────────】

広間の灰色が消えた。壁の糸が、暗褐色から灰色に、灰色から白に戻っていく。

アストレアが膝をついた。剣を支えにして、肩で息をしている。

「やりました……」

タマキがアストレアの隣に座り、肩を支えた。

「お疲れさまです。立派でした、アストレアさん」

「タマキさんの薬がなかったら、途中で倒れてました」

「わたしの薬は補助です。止めたのは、アストレアさんの光です」

トワがアストレアの前に立った。

「アストレア。ソルシアの闇の根を断った。礼を言う」

「いえ。聖騎士の務めを果たしただけです」

「それでも、礼を言う。ありがとう」

アストレアが顔を上げた。疲れ切った顔に、笑みが浮かんだ。

外から、ヴァルハラの報告が入った。

ヴァルハラ:「環の外周から灰色の空気が消えた。糸の色が戻り始めている。内部は」

トワ:「変換炉を停止した。ソルシアへの闇の放出も止まった」

ヴァルハラ:「見事だ」

広間の天井を見上げた。白い光の柱が、真っ直ぐに上に伸びている。闇を送り込んでいた経路が、今は浄化された光を送っている。

この光がBCOの世界に届けば、ソルシアの闇は止まる。

セレスが角を光らせた。月光が白い光の柱に重なった。

「しろいひかり。きれい。やみ、なくなった」

「ああ……やっと一つ、終わった」

まだ先は長い。だが、確実に一歩進んだ。