作品タイトル不明
集結
アップデートから六日目。朝のログイン直後、全プレイヤーに同時通知が届いた。
【──────────────────────────】
【運営告知】
【大型アップデート『灯火の章』第二弾パッチのお知らせ】
【明日20:00のメンテナンス明けより、
世界中央空域に出現した「糸のほつれ」が
突入可能となります。】
【突入条件:なし(全プレイヤー参加可能)】
【推奨人数:制限なし】
【※世界の外側は未踏のエリアです。
復活ポイントの設置が確認されていないため、
全滅時の帰還手段が存在しない可能性があります。
十分な準備のうえ、ご参加ください。】
【──────────────────────────】
フォーラムが湧いていた。
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【緊急】中央の裂け目が明日解放! 今回は全プレイヤー参加型レイド確定か
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──「突入条件なし! 全員参加できるぞ!」
──「推奨人数:制限なし。これ、全プレイヤー参加前提だろ」
──「復活ポイントなしって……全滅したらどうなるんだ」
──「始まりの町に強制送還じゃないのか? それとも、本当に帰れなくなる?」
──「怖いけど行く。こんなイベント、BCOの歴史で初めてだぞ」
──「世界の果てのレイドの時は三万人以上集まった。今回はもっと来る」
──「ギルド単位で参加表明出てるぞ。〈白霧の進軍〉〈聖銀の盾〉〈鉄壁のファランクス〉〈黄金の燐光〉。大手が軒並み」
──「〈深紅の牙〉も参戦。レナが正式発表した」
──「トワは?」
──「トワが行かないわけないだろ。あいつは未踏エリアがあれば必ず行く」
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パーティチャットも鳴り止まなかった。
ハル:「師匠! 告知見ました! 明日です!」
ミコト:「配信の準備をします。視聴者に参加を呼びかけていいですか」
トワ:「頼む。人数は多い方がいい」
ゼクス:「編成を組む。今夜中に全員集まれるか」
蓮:「〈黄金の燐光〉三十人。全員集合させる」
レクト:「〈白霧の進軍〉は八十人。いつでも出られる」
アストレア:「〈聖銀の盾〉四十五人、準備完了しております。ソラの航空班九人も含みます」
ヴァルハラ:「〈鉄壁のファランクス〉六十人。前衛に配置してくれ」
ダリオ:「航海士の仲間が二十人。海でも空でも船は出せるぜ」
ヴェノム:「旅人の集いから二十五人。旅人クラスが多い。索敵に使ってくれ」
レナ:「〈深紅の牙〉五人。少数だけど、うちは精鋭だから」
トワは数を数えた。ギルド連合だけで三百人弱。フォーラムの有志を含めれば、千人を超える。ミコトの配信で呼びかければ、さらに増える。
◇
夜。リベルタの大広場に、編成会議のためのホログラムテーブルが設置された。各ギルドのリーダーが円形に座っている。
トワが中央に立った。壁際にタマキ。ゼクスが右、ヴァルハラが左。ソラが窓際の高い位置に座っている。
「全員、ありがとう。明日の突入に向けて、編成を説明する」
ホログラムにソラが作成した俯瞰地図が表示された。中央の裂け目と十二の枝の配置。
「突入地点は世界中央空域の裂け目。地上千五百メートル。ソラの航空班に全員を空中まで輸送してもらう。飛行スキルがないプレイヤーは、ダリオの空中船で移動する」
「空中船、一隻で五十人は乗れるぜ。二隻出す」ダリオが手を挙げた。
「残りはファランクスの輸送部隊が地上から対空リフトで運ぶ。全員が中央裂け目に到達できるように、三ルートを確保する」ヴァルハラが補足した。
「突入後の編成は三層構造にする」トワが地図を切り替えた。
「第一層:前衛。ヴァルハラの〈鉄壁のファランクス〉六十人が盾壁を形成する。未知のエリアに入った瞬間に何が来るか分からない。まず壁を作る」
「了解した。ファランクスの基本陣形で入る」ヴァルハラが頷いた。
「第二層:主力。レクトの〈白霧の進軍〉八十人と蓮の〈黄金の燐光〉三十人、レナの〈深紅の牙〉五人が火力を担当する。アストレアの〈聖銀の盾〉四十五人が回復と支援」
「〈白霧の進軍〉は剣士が多い。近接火力なら任せろ」レクトが言った。
「〈黄金の燐光〉は魔法職を中心に後方支援を組む」蓮が続いた。
「第三層:索敵と情報。俺とタマキが全体の状況を見聞録と素材鑑眼で把握する。ヴェノムの旅人の集いが索敵補助。ソラの航空班が上空からの偵察。ハルとミコトが情報伝達と記録」
ミコトが手を挙げた。
「配信は続けていいですか。情報共有の手段として」
「続けてくれ。ただし、敵の行動パターンに関する分析は配信に流さないでほしい。こちらの手の内を見せることになる」
「分かりました。戦況の実況だけに絞ります」
タマキが立ち上がった。
「薬の配布について説明します。全参加者に耐性薬と回復薬のセットを配ります。ソルシアの闇と同じ系統の瘴気が予想されるので、浄化薬も全員に一本ずつ。数が足りない分は、今夜中に追加で調合します」
「素材は足りるか」ゼクスが聞いた。
「在庫だけでは足りません。〈黄金の燐光〉の採取班に、今夜中に月光花と銀霧草を五百本ずつお願いしたいです」
「手配する」蓮が端末を開いた。
編成の骨格が固まっていく。各ギルドのリーダーが、自分の部隊の配置と役割を確認していった。
会議の終盤、ヴェノムが口を開いた。
「トワ。旅人の集いのメンバーから、伝言がある」
「何だ」
「『世界の果てのレイドの時と同じだ。トワが歩く場所なら、俺たちも歩く』。以上」
短い言葉だった。だが、重かった。
レナが笑った。
「うちも同じよ。〈深紅の牙〉がトワの隣で戦うのは、これで何回目かしら」
「数えてない」トワが返した。
「三回目よ。ギルド対抗戦、世界の果て、そして今回。毎回、規模が大きくなってるわね」
「次はもっと大きくなるかもしれない」
「望むところよ」
ホログラムテーブルの上に、全参加者のリストが表示された。ギルド連合三百人弱。フォーラムの有志四百人。ミコトの配信で呼びかけた参加希望者が、この時点で既に二千人を超えていた。
合計三千人。
世界の果てのレイドの三万人には及ばないが、今回は全プレイヤーが同時に未踏エリアに突入する。規模ではなく、密度が違う。
「明日、20時。中央裂け目の前に集合。遅刻はするなよ」
ゼクスが皮肉を込めた。
「お前が遅刻したことはないだろう」
「一度もない。だから言う資格がある」
各ギルドのリーダーが席を立った。明日の準備に戻っていく。
広場に残ったのは、トワとタマキだけだった。ホログラムテーブルの光が、二人の顔を照らしている。
「トワさん」
「何だ」
「明日、何が待っているか分かりませんけど、薬は全部揃えます。タマキの仕事は、みんなを帰すことですから」
「ああ。全員で行って、全員で帰る」
セレスが肩の上で角を光らせた。
「セレスも、いく。トワと、タマキと、ゼクスと、みんなと」
「ああ、全員で行く」
リベルタの夜空に、糸のほつれが静かに浮かんでいた。明日、あの向こうに踏み出す。
一万時間の旅人の、次の一歩。