軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

秋のデート

土曜日。十月の第二週。

冬夜と宮瀬が、電車に乗っていた。行き先は、隣の市にある植物公園。紅葉が見頃だと、宮瀬が調べてきた。

「久坂くん、紅葉狩りって初めて?」

「紅葉は見たことがある。狩りに行くのは初めてだ」

「狩りって言っても、見に行くだけだよ。紅葉を刈り取るわけじゃないから」

「知ってる。だが、なぜ『狩り』と呼ぶんだろうな」

「うーん……昔の人が、紅葉を追いかけて山に入ったからじゃない?」

「追いかける、か。悪くないな。ゲームの中でも、景色を追いかけて歩くことは多い」

「久坂くんの散歩は、いつもゲームに繋がるんだね」

「BCOの癖が抜けないだけだ」

植物公園。

入口を抜けると、紅葉のトンネルがあった。楓が赤と黄色に染まっていて、木漏れ日が地面に落ちている。風が吹くと、葉がはらはらと舞い落ちる。

「きれい……」

宮瀬が立ち止まった。スマホを取り出して写真を撮ろうとしたが、やめた。

「写真じゃなくて、目で見てたい。一回しかない景色だから」

「宮瀬の、そういうところが好きだ」

「……え?」

「一回しかない、と言えるところが」

「久坂くん。……今、好きって言った?」

「……景色の話だ」

「景色の話にしては、わたしの方を見てましたけど」

「……紅葉の方を見てた」

「嘘。わたしの方を見てました!」

「……紅葉も、宮瀬も、両方見てた」

「えへへっ……正直でよろしいです」

宮瀬が腕を組んできた。冬夜の左腕に、宮瀬の右腕が絡む。秋の空気が少し冷たくて、腕を組むと温かい。

「久坂くん、最近変わったよね」

「何がだ」

「前は、こういう時、腕を引っ込めてた。今は、引っ込めない」

「引っ込める理由がないからだ」

「理由がない、じゃなくて、引っ込めたくない、でしょ」

「……同じことだ」

「全然違うよ。でも、いい。同じってことにしてあげる」

公園の中のカフェに入った。テラス席。紅葉が見える。

宮瀬がモンブランを頼んだ。冬夜はホットコーヒー。

「秋はモンブランの季節だよね。栗が美味しい季節」

「宮瀬は季節ごとに、食べるものが決まってるな」

「だって、旬のものは旬の時に食べないと。来年まで待てないもん」

「セレスに似てるな」

「セレスちゃんに?」

「食べ物の話になると、目が輝くところが」

「それは褒めてるの?」

「褒めてる」

「……ありがと。セレスちゃんと同じ扱いなのは、ちょっと複雑だけど」

モンブランが来た。宮瀬が一口食べて、幸せそうな顔をした。

「美味しい。栗の味がちゃんとする。久坂くんも食べる?」

「いい。コーヒーで十分だ」

「一口だけ。はい、あーん」

「公共の場でそれはやめてくれ」

「テラス席だから、半分外だよ。外ならセーフ」

「どういう理論だ」

「デートの理論です。はい、あーん」

「……」

冬夜は観念してフォークを受け取った。自分で食べる。宮瀬が少しだけ残念そうな顔をしたが、すぐに笑った。

「むぅ、自分で食べちゃった」

「あーんは、大学生がやることじゃないだろう」

「大学生だってやるよ。蓮くんに聞いてみなよ」

「蓮に聞いたら、面白がって小説に書くからやめてくれ」

「あはは。それは困るかも」

公園を歩いた。

紅葉のトンネルを抜けると、池があった。池の水面に紅葉が映っている。赤と黄色の反射が、水の上で揺れていた。

「逆月の湖みたい」宮瀬が池を見て呟いた。「水面に景色が映ってるところが」

「あっちは月だったが、ここは紅葉だな」

「紅葉の湖。──素敵ですね」

「宮瀬。ゲームと現実を重ねて見る癖、前よりひどくなってないか」

「久坂くんに言われたくないです。さっき紅葉を見て『踏破率が気になる』って呟いてたのは誰ですか」

「……声に出てたか」

「出てました」

池のほとりのベンチに座った。宮瀬が冬夜の肩にもたれた。

「ねえ、久坂くん」

「なんだ」

「付き合い始めて、もうけっこう経つよね」

「そうだな。一年以上は経っているだろう」

「一年以上かあ。長いようで、短かったな」

「宮瀬にとっては短かったのか」

「楽しい時間は、短く感じるものでしょ」

「そうかもしれないな。俺も、この一年は短く感じた」

「久坂くんがそう言ってくれるの、嬉しい。──ねえ。冬休みに、どこか行きたい」

「冬休み、か」

「遠くに行きたいな。温泉とか。二人で」

「温泉……」

「いけませんか」

「いけなくはないが。──考えておく」

「考えておく、は久坂くんの『行く』だよね」

「……まだ『考えておく』の段階だ」

「ふふっ。楽しみにしてます」

宮瀬がスマホを取り出した。二人の写真を撮ろうとしている。

「久坂くん、こっち向いて」

「俺は写真が苦手だと、前にも」

「苦手でも撮るの。記念だから」

宮瀬がスマホを構えた。冬夜が渋々カメラの方を向いた。宮瀬が冬夜の肩にもたれて、シャッターを押した。

「いい写真。久坂くん、もうちょっと笑ってくれると嬉しいんだけど」

「笑ってるつもりだが」

「これ、真顔です」

「……真顔と笑顔の差が少ないのは自覚してる」

「大丈夫。わたしには、違いが分かるから」

「分かるのか」

「分かります。久坂くんの笑顔は、口じゃなくて、目で笑うんです。目の端が、ほんの少しだけ下がる。今、下がってます」

「……そうか」

「はい。だから、いい写真です」

秋の午後が、静かに過ぎていった。