作品タイトル不明
星を灯す
宵光を纏った月光の鋏を、宵闇の主に振り下ろした。
暗闇の色をした月光が、宵闇の主の「身体」に触れた。
【トワの攻撃:月光の鋏・宵光属性】
【宵闇の主にダメージ:12,800】
「通った。さっきの倍以上だ!」
「セレス、つきとくらやみ、まざったこうげき! きくよ、トワ」
宵闇の主の暗闇が揺らいだ。月光だけでは押し返されたが、宵光は違う。暗闇を否定する光ではなく、暗闇の中で輝く光だから、宵闇の主の身体の内側にまで届く。
反撃が来た。暗闇の拳が三連続で飛んできた。
一発目を鋏で斬り払った。二発目を横に跳んで避けた。三発目がセレスの月光の範囲を掠めた。月光が一瞬揺らいだ。
「セレス、大丈夫か」
「だいじょうぶ……でも、つき、そろそろ、げんかい」
「どれくらい持つ」
「……あと、さんぷん。さんぷんで、セレスのつき、きえる」
三分。宵闇の主のHPは、まだ分からない。システム表示がHP???のままだ。
「HP表示が出ないと、残りが読めないな」
「セレス、つきのエコーで、よんでみる」
セレスが月光エコーを放った。宵闇の主の身体に反響が当たって返ってくる。
「……うすくなってる。さっきより。こうげきが、きいてる」
「薄くなってるなら、削れてるんだ。続けるぞ」
走った。宵闇の主の「身体」の中に踏み込んだ。暗闇の密度が極まっている場所。月光の範囲がさらに狭まった。半径五十センチ。セレスの角がトワの頬のすぐ横で光っている。
鋏を振った。宵光が暗闇を切り裂いた。
【トワの攻撃:月光の鋏・宵光属性】
【宵闇の主にダメージ:14,200】
もう一撃。
【トワの攻撃:月光の鋏・宵光属性】
【宵闇の主にダメージ:13,600】
宵闇の主が揺らいだ。暗闇の密度が薄くなっていく。効いている。
◇
だが、セレスの月光が弱まり始めた。角の光がちらつく。
「セレス……あと、いっぷん……」
「一分でいい。最後の一分で、決める」
「トワ、セレス、がんばる。でも……がんばっても、つき、とまるかも。そしたら、まっくらに、なる」
「セレスの月光が消えても、俺はここにいる。暗闇でも、セレスの隣にいる」
「……うん」
セレスの角が、最後の力を振り絞って光った。
その時、暗闇の向こうから、声が聞こえた。
◇
「聞こえてるぞ、トワ」
ゼクスの声だった。暗闇の檻の向こうから。
「壁の向こうだが、音は通る。──ルーナの篭手、使えるなら使え。ルーナがそっちに力を流そうとしてる」
左手のルーナの篭手が、微かに震えた。篭手の表面に、暗い紫の光が走った。ルーナの夜の力が、暗闇の檻を超えて、篭手に流れ込んでいる。
「ルーナ、力が来てる」
「……トワ。わたしの夜の力、全部、篭手に送る。受け取って」
篭手が脈打った。夜の力が篭手に満ちていく。
タマキの声も聞こえた。
「トワさん! わたしの薬は使えないけど、声は届きます! 頑張ってください!」
「めぶき、ねっこ、きれてるけど……めぶきの、きもち、とどいてる?」
「届いてるぞ、みんな!」
テンの光が暗闇の向こうから、極小の光の粒子となって飛んできた。ブーツの上に、テンの光が戻った。隔離されていても、テンは光を送れた。
「全員の力が、届いてる」
月光の鋏に、宵光。左手の篭手に、ルーナの夜の力。ブーツにテンの光。頭の上にメブキの意志。背中にタマキの声。暗闇の向こうにゼクスの信頼。
隔離されても、糸は切れなかった。
「宵闇の主」
「……何だ」
「仲間を隔離しても、繋がりは切れない。糸は、壁を越える」
「なら……見せてみろ!!」
トワが、全身の力を鋏と篭手に集めた。
右手の月光の鋏に宵光。左手のルーナの篭手に夜の力。二つを同時に振り抜いた。
月光と夜と原初の暗闇。三つの力が、宵闇の主の中心に向かって走った。
【トワの攻撃:月光の鋏+月光の篭手・同時発動】
【宵光+夜の力・複合属性】
【宵闇の主にダメージ:48,000】
セレスが最後の力で月光を放った。角から、これまでで一番細く、一番強い光が飛んだ。
【セレスの月光・収束・最終出力】
【宵闇の主にダメージ:18,400】
宵闇の主の暗闇が、中心から砕けた。
砕けた、というより、開いた。暗闇が花のように開いて、中心に空洞ができた。空洞の中から、光が漏れた。暗闇の中にあった光。原初の暗闇の底に隠されていた、最初の光。
【宵闇の主を撃破しました】
【宵闇の回廊・最終番人を突破】
暗闇が静まった。
◇
隔離が解除された。
暗闇の壁が消えて、全員が元の場所に戻った。ゼクスが駆け寄ってきた。タマキが走ってきた。ルーナが影の中から浮かび上がった。メブキの双葉がトワの頭の上に戻った。テンがブーツの上で明滅した。
「トワさん!」タマキがトワの腕を掴んだ。「無事ですか、HP残ってますか」
「残ってる。……たぶん、ギリギリだけど」
【トワのHP残量:87/360】
「87……」タマキが即座に回復薬を取り出した。「飲んでください、すぐに」
「ありがとう、タマキ」
セレスが肩の上で、ぐったりしていた。角の光がほぼ消えている。
「セレス……つかれた……おやすみ……」
「セレス、起きてろ。まだ寝るな」
「ねない……ねてない……めをつぶってる、だけ……」
「それを寝てると言うんだ」
「セレスは、ねてない……きのうの、パンの、あまい、におい、おぼえてる……ねてたら、わすれるから……ねてない……」
「寝てるな」
「ねてない……えへ」
セレスが肩の上で、安心したように丸まった。
宵闇の主の身体があった場所に、光が残っていた。砕けた暗闇の中心にあった光。小さな光の球。
【ドロップ:宵闇の光球】
【ドロップ:原初の防壁(装備品・全クラス対応)】
【称号:「宵闇を超えた旅人」を獲得】
【宵闇の回廊・全六区画を突破しました】
【隠しエリア「原初の祭壇」への道が開放されました】
「全六区画、突破か」ゼクスが腕を組んだ。「長い道だったな」
「長かった。影の浅瀬から始まって、黄昏の渓谷、逆月の湖、眠りの森、記憶の街、原初の淵。全部、歩いた」
「歩いたな。──トワの足跡が、全部の区画に残ってる」
「めぶき、ねっこ、もどった。ウルと、つながり、ふっかつ!」メブキが頭の上で双葉を揺らした。
「……わたしの篭手も戻った。トワが最後に使ってくれた力、篭手に残ってる」ルーナが嬉しそうに呟いた。
テンがブーツの上で、穏やかに明滅した。
「原初の祭壇、ってのが開いたな」ゼクスが先を見た。
暗闇の奥に、淡い光が見えた。セレスの月光でも、テンの光でもない、別の光。原初の暗闇の底から湧き出る、古い光。
「あそこに、何かがある」
「行くか」
「行く。──だが、まずはセレスを起こさないとな」
「セレス、ねてない」
「寝てるだろう」
「ねてない……いちごジャム……」
「夢の中でいちごジャムを食べてるな」
「ねてない……たべてる……」
全員が、少しだけ笑った。
暗闇の奥に、光がある。原初の祭壇が、待っている。