軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夜店の音

夏休みに入った。

冬夜は宮瀬と一緒に、駅前の夏祭りに来ていた。宮瀬は浴衣。今度は紫陽花柄の青い浴衣。冬夜は蓮に借りた紺の浴衣をまた着ている。

「久坂くん、二度目の浴衣、似合ってますよ」

「同じ浴衣だ。一度目と二度目で違いはないだろ」

「着る人が慣れてきたので、似合い方が上がりました」

「データが取れてるな」

「薬師ですから」

商店街が祭りの飾りで満たされていた。提灯。屋台。子供たちが走り回っている。たこ焼きの匂い、お好み焼きの匂い、わたあめの匂い。

「リンゴ飴、買いますか」

「お前が好きなものを買え」

「久坂くんも食べますよ」

「俺は焼きそばがいい」

「両方買いましょう」

屋台を巡った。リンゴ飴、焼きそば、わたあめ、たこ焼き。次から次へと買って、神社の境内のベンチで食べた。

「久坂くん。夏祭り、楽しいですね」

「……ああ」

「来年も、行きますか」

「来年……か」

「まだ気が早かったでしょうか」

「いや……早くはない。来年も行く」

宮瀬が、しばらく黙った。

「……数えますね」

「何をだ?」

「久坂くんに言われて嬉しい台詞の数、です」

「まさか、今までの言葉を数えているのか?」

「数え続けますよ。わたしは久坂くんの彼女、ですから」

冬夜が焼きそばを食べた。

屋台の音と提灯の光と、夏の空気。悪くない夏祭りだった。

夜。BCOにログイン。

逆月の湖の中央に再び来ていた。月光の祭壇を起動した状態。月光が湖全体を満たしている。

今日は装備の更新がメインだった。リルクトに月光甲羅と深月の鋏を送ってもらった。リルクトが綻びの大地から、月光石と組み合わせて新しい装備を作ってくれた。

【新装備:月光の篭手】

【装備者:ルーナ(月夜の篭手と統合)】

【効果:月夜の篭手の攻撃力+50%、月光連携の発動速度+30%】

【新装備:月光の鋏】

【装備者:トワ】

【効果:果ての道標の予備武器として装備可能。月光属性の追加ダメージ】

ルーナの月夜の篭手が、月光の篭手と統合した。新しい篭手は、銀色の輝きを強めている。

「……強くなった気がする」ルーナが影の中から呟いた。

トワは月光の鋏を腰に下げた。果ての道標の予備武器として、必要な時に使える。

タマキとゼクスも、自分の装備を確認していた。

「タマキは何を作った?」

「月光の薬瓶です。薬の保存期間が延びるそうで」

「実用的だな」

ゼクスは、深月の鋏の素材から「影潜りの鞘」を作っていた。影潜りの再使用までの時間が、少し短くなる。

「鋏で鞘ができるのか」

「鋏の硬さが影潜りの鞘に合うらしい。リルクトの判断だ」

全員の装備強化が終わった。

湖の対岸に向かう前に、もう一度湖の中央を確認した。

影読みで湖全体をスキャンした。月光の祭壇は健在。だが、その奥に、何かが映った。

湖の遥か上空。空には何もないと思っていた場所に、巨大な何かがある。

「上に……何か、います」

タマキが見上げた。

「確かに、空に大きな影があるな」

「大きさは?」

「数十メートル。深月蟹より遥かに大きい」

「中ボスより大きいモンスターか」ゼクスが眉をひそめた。「隠しボスかもしれん」

影読みで詳細を読み取ろうとした。だが、データが不安定だ。読めない。何かに阻まれている。

「読めない……か」

「条件付きで出現するボスかもしれませんね」タマキが言った。

「あるいは、見えないだけで、ずっとそこにいたのかもしれない」

メブキが頭の上で双葉をくるくる回した。

「くるくる……ねっこ、ふるえてる。あれ、おおきい。ものすごく、おおきい。ねっこのいちばんふかいところまで、ふるえる」

「メブキにも感じるか」

「あれ、ふつうじゃない。きをつけて」

ルーナが影の中から言った。

「……トワ。あれ、たぶん夜の力に近い存在。わたしの夜より、もっと古くて、もっと大きい」

「お前にもわかるのか」

「……わかる。あれが何かは知らない。でも、同じ系統の力を持ってる。【原初の暗闇】に近いかもしれない」

セレスがトワの肩で空を見上げた。

「トワ。あれ、こわい?」

「正直、わからない。データが読めないから、何かもわからない」

「セレスは、なんとなく、わかる」

「何がだ」

「あれは、つきと、いっしょにいる。つきがあるかぎり、あれもある」

「月と一緒に?」

「でも、つきが、かくれたら、あれは、こうげきしてくる、きがする」

「月が隠れる、か」

月蝕。月が隠れた時に、月光が消える。その瞬間、何かが起きる予感。

「面倒だな」ゼクスが剣を確認した。「あれは月光が消えた瞬間に動き出す敵とはな」

「セレス、お前の月光を消したら出てくる、ってことか」

「セレスのつきを、けす? それはいや」

「いいや、消すんじゃなくて、影で覆うんだ。たぶん、覆い方次第で、あいつをおびき出せる」

「……ためすんですか?」タマキが心配そうに聞いた。

「まだだ、準備が必要だ。あの大きさは、深月蟹の比じゃない。十分な準備をしてから挑む」

影読みに映っていた巨大な影が、ふと薄くなった。湖の上空に、何事もなかったかのように戻った。

「消えた」

「ボス出現条件を満たしてないからかもな」ゼクスが言った。

「セレスの言葉を信じるのなら、出現条件は『月光を完全に遮る』。……隠しボス確定だな」

逆月の湖の上空に、見えない何かが眠っている。次に挑む時、それは姿を現す。

まだ準備が必要だ。