作品タイトル不明
月の真上
深月蟹を倒した後、湖の中心に向かった。
水面に映る月は、湖のちょうど中央に位置している。水面の月光が固体のように道を作っていて、月光に親和する者ならその道を走れる。セレスを肩に乗せたトワは走れる。
タマキとゼクスが岸辺で待機した。
「行ってくる。水面を走れるのは、セレスが肩に乗ってる俺だけだ」
「気をつけてくださいね」タマキが手を振った。
トワが水面を走って、湖の中心に近づいた。
水面の月が、すぐ足元にあった。
手を伸ばせば届きそうな距離。実体ではないが、影読みで見ると、月光の塊がそこにある。物体ではない、光の集合体だ。
「すごい……」セレスがトワの肩で目を見開いた。「ここ、つきが、ちかい」
セレスの角が、強く光り始めた。意識せずに、月光が最大出力に近づいている。
「セレス、力が暴走しないか」
「だいじょーぶ。でも、つき、いっぱい。せかいぜんぶがつきになりそう」
「……つまり、どういう意味だ?」
「セレスは、つきの、なかにいる。えっへん」
「特に意味はなさそうだな」
「しんらつなことば、ダメ、きんし」
影読みで湖の中央をスキャンした。
水面の月の下に、何かがあった。湖底ではない。水面と湖底の中間。水中に浮いている。
石の祭壇のようなものだ。直径二メートル。月光と同じ素材でできている。半透明で、銀色。
【隠しオブジェクトを発見しました】
【「月光の祭壇」】
【月光属性のスキルを使用することで、起動できます】
【起動条件:月光出力「松明一本分」を10秒間維持】
「月光の祭壇……松明一本の月光を10秒。セレス、できるか」
「れんしゅうした、できる!」
セレスが集中した。月光の出力を上げていく。ちょうど松明一本分の明るさ。
水面の月の真上で、セレスの月光が、水面の月と共鳴した。光が湖中に広がった。
祭壇が起動した。
水中の祭壇から、銀色の光が伸びてきた。トワの足元の水面に届いた。光がトワを包んだ。
【月光の祭壇が起動しました】
【月光と夜の融合の祝福を授けます】
【セレスとルーナのスキル連携が強化されます】
セレスの角が、さらに強く光った。
同時に、トワの影の中で、ルーナの気配が動いた。
「……トワ。何か、変わった」
「何かだ?」
「……わたしとセレスの繋がりが、強くなった気がする。前は別々の力だったけど、今は近くにある」
システムメッセージが追加された。
【新スキルを習得しました:「光影連弾」】
【効果:セレスの月光攻撃とルーナの月夜の篭手攻撃を、連続発動できる】
【発動条件:トワが二体の連携指示を出すこと】
「光影連弾……」
「光と影の連弾、だね」ルーナが影の中で呟いた。
「ああ、セレスの光とルーナの影を、続けて撃つスキルだな」
「……できそうな気がする」
セレスがトワの肩で、ピョンと跳ねた。
「ルーナと、いっしょに、こうげきする!」
「試してみるか」
水面に、銀露蛙がはぐれて泳いでいた。湖の中心まで来た一匹。試すにはちょうどいい。
「セレス、月光を撃ってみろ」
セレスが角から月光のビームを撃った。
すかさず、ルーナが続いた。トワの影から月夜の篭手が伸びて、月光ビームの軌道に沿って銀露蛙に到達した。
【セレスの攻撃:月光ビーム】
【銀露蛙に2,200ダメージ】
【連携発動:光影連弾】
【ルーナの攻撃:月夜の篭手・連続打撃】
【銀露蛙に3,500ダメージ】
【銀露蛙を討伐しました】
「成功したな」
「セレスのひかりに、ルーナのちからが、のった!」セレスが嬉しそうに角を光らせた。
「……セレスの月光が道を作って、わたしの篭手がその道を辿った。連携がスムーズだった」
「これでセレスとルーナの連携攻撃が確立したな」
メブキが頭の上で双葉をぴこぴこさせた。
「めぶきも、れんだん、したい! ねっこと、なにかで、れんだん!」
「メブキのは別の機会に考えよう」
「くるくる……」
◇
岸辺に戻った。タマキとゼクスが待っていた。
「トワさん、お帰りなさい。何か見つかりましたか?」
「月光の祭壇という隠しオブジェクトがあった。起動したら、セレスとルーナの連携スキルが強化された。光影連弾という新スキルだ」
「光影連弾……」タマキがメモを取った。「連携スキルなんですね」
「セレスとルーナの力を続けて撃つ」
「ゼクスさんとも連携できそうですね」
「俺は影潜りで関与できるかもしれん」ゼクスが顎を撫でた。「だが、まずトワが持ってきた素材で装備を作る方が先だな。月光甲羅と深月の鋏、リルクトに渡そう」
月光石を一つ、セレスに渡した。セレスが両手で持って、目を輝かせた。
「セレスに、げっこうせき!」
「お前のお守りだ。月の精霊だからな」
「おまもり! ありがとう!」
セレスが月光石を抱きしめた。トワの肩の上で、嬉しそうに揺れている。
ルーナが影の中から言った。
「……トワ。わたしにも何か、もらえる?」
「珍しいな。ルーナがねだるのは」
「……ねだってない。でも、セレスがもらってるから、ちょっと羨ましい」
「月光石をもう一つ。ルーナの篭手の素材にしてくれ」
「……ありがとう」
ルーナの声が、わずかに弾んでいた。
メブキも頭の上で双葉をくるくる回した。
「めぶきにも!」
「メブキは土さえあれば何でもいけるんじゃなかったのか」
「くるくる……」
「分かった。メブキにもこれを」
「めぶきの双葉、げっこうせきで、ぴかぴか!」
逆月の湖の探索が、また一歩進んだ。次のエリアへの通路が、湖の対岸に見えている。