作品タイトル不明
銀の露
月影魚を倒した後、湖の岸辺を歩いた。
湖畔に苔むした岩がいくつも転がっている。岩の上に、何かが座っていた。
蛙だ。
大きな蛙。体長五十センチほど。銀色の身体。皮膚から、微かな光を放つ露が滲み出ている。
影読みでスキャンした。
【 銀露蛙(ぎんろがえる) :Lv50】
【HP:4,500】
【特性:体表から銀色の露を分泌する】
【露に触れると、対象は5秒間麻痺状態になる】
【弱点:遠距離攻撃に弱い。皮膚は柔らかい】
【注意:跳躍で接近してきた場合、露を飛び散らす】
「銀露蛙。Lv50。触れると麻痺する。遠距離攻撃で倒すのが基本だそうだ」
「遠距離なら俺の出番がないな」ゼクスが剣をしまった。
「跳ねて近づいてくる。その時に露が飛び散る。近づかれた時の対応も必要だ」
銀露蛙が五匹、岩の上に並んでいた。一斉に頭を上げて、こちらを見た。
最初の一匹が跳んだ。
高い跳躍。空中で、銀色の露がしぶきになって散った。トワが横に跳んで避けた。露が地面に着地して、苔を麻痺させた。苔が一瞬で青ざめた。
「プレイヤーだけじゃない、植物まで麻痺させるのか」
タマキが薬瓶を構えた。
「遠距離なら、わたしが行きます。麻痺対策の薬を撒いてから、トワさんに攻撃してもらいます」
「頼む」
タマキが解毒薬を撒いた。地面の麻痺が消えていく。トワとゼクスが動ける範囲が確保された。
二匹目の銀露蛙が跳んできた。狙いはタマキだった。
「タマキ、後ろだ!」
タマキが振り返った。銀露蛙が空中から落下してくる。露がしぶきになっている。タマキが避けようとしたが、距離が近すぎる。間に合わない。
その時、影の中からルーナが動いた。
タマキの足元の影から、銀色の篭手が伸びた。ルーナの新フォルム。『月光の鱗』を装備した影の篭手が、タマキの前に出現した。篭手が銀露蛙を弾き返した。
「……間に合った」
「ルーナ、ありがとう!」タマキが息を整えた。「初めて、ルーナが守ってくれましたね」
「……うん。この篭手なら、もっと色んな動きができるのかも」
篭手が、銀露蛙を弾いただけでなく、敵にダメージを与えていた。
【ルーナの攻撃:月夜の篭手】
【銀露蛙に2,500ダメージ】
「ダメージも入ってる!」
ルーナが影の中で、少し驚いたように呟いた。
「……わたしが、攻撃したんだ」
「攻撃できたな」
「うん……できた」
セレスがトワの肩で拍手した。
「ルーナ、こうげき、できた! すごい!」
「……ありがと、セレス」
残りの銀露蛙が動いた。三匹同時に跳んだ。トワ、ゼクス、タマキを狙っている。
「ゼクス、空中で叩き落とせ!」
「了解!」
ゼクスが影潜りで空中に出現した。落下中の銀露蛙の頭上から、剣を振り下ろした。
【ゼクスの攻撃:影潜り・落下斬撃】
【銀露蛙に7,200ダメージ】
【銀露蛙を討伐しました】
空中の銀露蛙は、跳んでいる最中は方向転換できない。落下軌道が読めれば、簡単に倒せる。
二匹目はトワに向かって跳んでくる。トワが地面を蹴って横に跳んだ。露を避ける。着地と同時に、銀露蛙の側面に回り込んだ。露が出てない箇所。
【トワの攻撃:果ての道標・白銀形態】
【銀露蛙に6,300ダメージ】
【銀露蛙を討伐しました】
三匹目はタマキに向かっていた。タマキが落ち着いて、薬瓶を投げた。
今回は爆発系ではない。冷却系だ。冷気が広がって、空中の銀露蛙を凍らせた。動きが止まった。
「凍らせたのか」
「煮立てた次は、冷やしてみました」
「薬師は汎用性があっていいな」
凍った銀露蛙にトワが止めを刺した。
「全部、倒したのか……」
ゼクスが剣を収めた。
「銀露蛙、Lv50の割に厄介だな。遠距離前提のモンスターを近接で殴れって設計か」
「Lv50は雑魚と思って近づいた前衛が痺れる、っていうイメージかもしれない」
「いやらしい設計だ」
「だが、Lv差で押せる相手じゃない。Lvに関係なく、ギミックを理解しないと倒せない」
「相変わらず、このエリアの設計は緻密だな」
◇
戦闘後、湖の岸で休憩を取った。
ルーナが影の中から、少し興奮した様子で話していた。
「……トワ。月夜の篭手で攻撃できた。今までと違う」
「変わった感じか」
「……うん。月夜の篭手なら、わたしが自分で攻撃できる」
「自由度が上がったな」
「……自由度。そう、自由になった気がする」
タマキがルーナの影に向かって笑った。
「ルーナさん、助けてくれて助かりました」
「……ううん。当然のこと」
「ルーナさんが助けてくれた瞬間、すごく頼もしかったです」
「……ありがとう、タマキ」
セレスがトワの肩で、影を覗き込んだ。
「ルーナ、つよくなった! セレス、うれしい」
「……セレスも嬉しいの?」
「ルーナがつよくなると、セレスもうれしー。ルーナのちからのつぎに、セレスのつきが、つよくなる」
「次に強くなるのはセレスか」
「うん。じゅんばん」
「じゃあ、その次は俺だな」ゼクスが言った。「俺の影潜りも、何か進化してほしいな」
「めぶきの双葉も、しんかするひがくる!」
「お前の双葉は別に進化しなくていい」トワがメブキを撫でた。
「あいらしいまま?」
「愛らしいままだ」
「くるくる!」
湖畔の風が、水面に小さな波を立てた。
次のモンスターは、もっと深い場所にいる予感がしていた。