作品タイトル不明
逆光の鳥
黄昏獣を倒した渓谷の奥に、新しい区画が広がっていた。
崖の高さが少し低くなって、空が広く見える場所だ。永遠の夕日が、開けた空間に強く差し込んでいる。光の量が多い。影が短い。
「ここ、影が少ないですね」タマキが手で日光を遮った。
「黄昏の渓谷の中でも、特に明るい場所だ。影読みで見ると、影の密度が低い」
「ルーナには厳しいエリアか」ゼクスが言った。
「……うん、少し力が抜ける」ルーナが影の中で呟いた。「でも大丈夫」
空に、何かが飛んでいた。
鳥だ。三羽。ゆっくりと旋回している。だが、姿がはっきりしない。光に包まれていて、輪郭が眩しい。直視できない。
【 逆光鳥(ぎゃっこうちょう) :Lv63】
【HP:8,000】
【特性:プレイヤーの背後から光を放ち、対象をシルエット化させる】
【シルエット化したプレイヤーは視界が遮られ、攻撃の精度が大幅に低下する】
【弱点:背後の光源を遮断すれば、シルエット化を防げる】
【弱点:自身が光を背負った状態でいるため、後ろから見ると無防備】
「逆光鳥。背後から光を浴びせて、プレイヤーをシルエット化させるそうだ」
「シルエット化って、どういう状態ですか?」タマキが聞いた。
「逆光で目が眩む状態だ。タマキから見ると、敵が完全に黒い影になって、距離も動きもわからなくなる」
「攻撃が当たらない、ってことか」ゼクスが舌打ちした。
「光源を遮断するか、自分が光を背負う側になる必要がある」
逆光鳥が三羽、急降下してきた。トワの背後に回り込もうとしている。
「タマキ、ゼクス、壁に背中をつけろ!」
全員が崖の壁に駆け寄った。背中を岩肌にぴったりとつけた。背後から光が来ない位置を確保した。
逆光鳥が困惑した。背後に回り込めない。プレイヤーの背後は岩壁で、光を遮断されている。
「効いてる。背後を取られなければシルエット化しない」
メブキが頭の上で叫んだ。
「トワ、めぶきの根で、ひかりよけのかさ、つくる?」
「いや、傘だと小さすぎる。大きな影が必要だ。それに今、壁があるから足りてる」
「じゃあ、めぶき、なにする?」
「逆光鳥の動きを予測してくれ。お前の根の感覚で、奴らがどう飛ぶか読める」
「よみとり、とくい!」
メブキが地面に根を伸ばした。葉が空中に広がって、空気の流れを感知する。逆光鳥の翼がかき混ぜる空気の流れを読んでいる。
「みぎから、いっぴき、くる!」
右から逆光鳥が一羽、急降下してきた。だが壁を背にしているトワには、背後から光を当てる経路がない。逆光鳥が困って、横から攻撃しようとした。
だが横から来ると、自分が光を背負う側になる。トワから逆光鳥が、シルエットとして見える。逆光鳥の方が無防備な状態だ。
「来たか」
トワが踏み込んだ。シルエットになった逆光鳥に、果ての道標を振り抜いた。
【トワの攻撃:果ての道標・白銀形態】
【逆光鳥に4,100ダメージ】
逆光鳥が空中で揺らいだ。羽根が散った。
ゼクスが追撃した。影潜りで上空に出現して、上から斬りつけた。
【ゼクスの攻撃:影潜り・落下斬撃】
【逆光鳥に7,800ダメージ】
【逆光鳥を討伐しました】
【ドロップ:逆光の羽根×1】
「一羽落とした! 残り二羽!」
残りの二羽が、戦術を変えた。同時に飛び込んでくる。一羽はトワの正面、もう一羽はタマキの正面。背後を取れないなら、正面同士でシルエット化を狙う作戦に変えた。
タマキが薬を構えた。だが逆光鳥が放つ光が眩しすぎる。距離感が掴めない。
「タマキ、目を閉じてくれ! 投擲は俺が指示する!」
「目を閉じるんですか?」
「閉じた方が眩しくない。距離は耳と感覚で判断できる」
タマキが目を閉じた。
「トワさん、合図を」
トワが影読みで逆光鳥の位置を正確に把握した。逆光鳥の身体は光に包まれているが、影読みのスキャンには映る。
「タマキ、十時方向、距離五メートル、高さ二メートル。今だ」
タマキが目を閉じたまま、薬を投げた。長年の調合で鍛えた腕の感覚。距離と方向だけを頼りに、的確に投げた。麻痺薬が逆光鳥に命中した。逆光鳥が空中で硬直した。
「当たった!」タマキが目を開けた。「投擲、目を閉じても当たるんですね」
「タマキの手つきは、俺が一番知ってるつもりだ」
タマキの頬が少し赤くなった。
「……今の、落ち着いて聞き返したいですけど、戦闘中なので後で覚えておきます」
硬直した逆光鳥に、トワとゼクスが同時に攻撃を入れた。撃ち落とした。
最後の一羽が、戦術を変えた。空高く飛び上がって、距離を取った。届かない高さから光を放ち続けている。
「届かない高さに行きやがったか……」
「セレス、月光であの鳥の周囲を照らせるか」
「とおいけど、やってみる」
セレスが月光を集中させた。一点集中の練習成果。光の柱が、空高く伸びた。逆光鳥の周囲を、銀色の光で照らした。
光が交差した。逆光鳥が背負っていた夕日と、セレスの月光が、逆光鳥を中心に挟み撃ちのような形になった。逆光鳥が、自分の背後にも光ができたことに気づいた。
逆光鳥が、シルエット化した。自分自身が。
光を放つ側だった逆光鳥が、背後と前方両方から光に挟まれた。立体的な逆光になった。逆光鳥の視界がゼロになった。
逆光鳥が空中で迷った。
「今だ!」
ゼクスが影潜りで空に出現して、視界を失った逆光鳥に剣を叩き込んだ。
【ゼクスの攻撃:影潜り・ 落下斬撃(クリティカル) 】
【逆光鳥に15,600ダメージ】
【逆光鳥を討伐しました】
三羽全て撃ち落とした。
タマキが息を整えた。
「すごい連携でしたね」
「セレスの月光が決め手だったな」トワが空を見上げた。
「セレス、つきのつかいかた、ふえた」
「成長してるな」
「みんなのおかげ。ルーナがおしえてくれた、つきとよるのちがい。それで、できた」
ルーナが影の中から、少し驚いたように言った。
「……わたし、何か教えたっけ」
「おしえた。よるは、ひかりがないじかん。つきは、よるのなかにあるひかり。だから、つきはよるのなかでも、ひかりをはなてる」
「……そう、なのかな」
「セレスは、しんじてる。ルーナがおしえてくれたから、こうかいできた」
「……ありがとう、セレス」
「ルーナも、ありがとう」
メブキが頭の上で双葉をぴこぴこさせた。
「ぴこぴこ! めぶきも、よみとりやくにたった!」
「立った。お前の予測がなかったら、最初の一羽を落とせなかった」
「くるくる!」
逆光鳥のドロップを拾った。逆光の羽根。光属性に強い装備の素材になりそうだ。
黄昏の渓谷の探索が、また一歩進んだ。