軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

裏側の噂

グランの部屋に戻ってきた。

暖炉の光が暖かい。長い間暗い場所にいたから、暖炉の光が眩しく感じる。

「おお、戻ったか」グランが茶を入れてくれた。「無事だったか」

「無事だ。最初のエリアを見てきた。影紡ぎと影喰いという二種類のモンスターがいた」

「影喰い? ……厄介な響きだな」

「影属性プレイヤーには天敵だ。影潜りに使う影を食われる」

ゼクスが茶を一気に飲んだ。

「俺はあのエリアと相性が悪い。影紡ぎは見聞録がないと糸が見えないし、影喰いは俺の影を狙ってくる」

メブキが頭の上で双葉を回した。

「めぶきも、ねっこがはれなかった!」

「セレスも、あんまりうまくてらせなかった。むつかしー」

「光の加減次第で、あやうく全滅するところだったからな」

「ぜんめつしても、セレスのせいじゃない」

「じゃあ、誰のせいだ?」

「トワ」

「……俺ではないだろ」

「ダメ。セレスがかわいそー」

「自分で言うな」

グランがらいらくに笑った。

「お前らの精霊、相変わらず賑やかだな」

「賑やかですまないな」

「いいや、好きにやってくれ。ここなら、いつでも茶を入れてやる」

リベルタの大通りに出ると、騒がしかった。

いつもと違う騒ぎ方だ。プレイヤーたちが集まって、何かを話している。フォーラムの通知音が、あちこちから鳴っている。

「トワさん、何かあったみたいですね」タマキが言った。

フォーラムを確認した。

タイトル:「【速報】トワが完全新規エリアを発見! 通常では入れない『宵闇の回廊』とは!?」

ブックマーク数は二十万人を超えている。

「待て……これ、誰が上げたんだ?」

「俺じゃ無いぞ」と、ゼクス。

「もちろん、わたしでも……」タマキも否定。

精霊三人ではフォーラムに上げることはできないだろう。となると……

「前々から思っていたが」

トワは顎に手をやった。

「プレイヤーが一定の攻略条件を満たすと、それが自動的にこうして通知されるのかもな」

「自動的に……BOTみたいなものでしょうか」

「おそらく。そうして一般プレイヤーにも、コンテンツを周知させるシステムになってるんだろう」

この頃、当然フォーラムは沸いていた。

──「トワがまた新エリア見つけてる」

──「『宵闇の回廊』? 聞いたことないぞ」

──「巌路の影の底に入口があるらしい」

──「巌路の影? 影に入口があるって何だよ」

──「トワにしか見えない入口らしい。ルーナの夜の力で開けるって」

──「ルーナってトワのパーティ精霊だろ。あの精霊にしかできない解錠か」

──「俺たちには入れないのか?」

──「夜属性のプレイヤーがいないと無理らしいぞ」

──「夜属性って何だよ。聞いたことない」

──「ルーナだけが持ってる属性らしい。固有属性ってやつだ」

──「またルーナだけが持つ力か。あの精霊、特殊すぎる」

──「中で出るモンスターも特殊らしい。影紡ぎ、影喰い、聞いたことない名前だらけだ」

トワは画面を閉じた。

「特殊属性扱いか、ルーナは」

ルーナが影の中から、少し恥ずかしそうに言った。

「……ごめん。わたしのせいでトワが目立っちゃって」

「謝ることじゃない。お前にしかできないことができるのは、お前の特性だ。リルクトもウルもガレスも、それぞれにしかできないことを持ってる。お前も同じだ」

「……うん」

セレスがトワの肩で胸を張った。

「セレスも、つきのばんにん。セレスにしかできない、ひかりちょうせつ」

「ああ、お前もそうだ」

「みんな、それぞれ、なにかある」

「たまにはいいこと言うな、セレス」

「たまにはじゃない、いつも」

現実。夕方。

冬夜のスマホが鳴った。宮瀬からだ。

『久坂くん、また新エリアでの冒険が始まりそうですね』

『何があるか分からない。周到な準備がいるだろうな』

『問題ありません。わたしがサポートしますから』

少し間が空いて、また通知が来た。

『来週の土曜日、夏祭りがあるんですけど、行きませんか』

『夏祭り……か』

『久坂くんと、夏の行事を制覇したいんです』

『制覇って』

『リスト、作ってます』

『見せてくれ』

『花火大会、夏祭り、海、プール、避暑地への日帰り旅行。五つです』

『多いな』

『多くないです。夏は短いですから』

『……行く』

『え?』

『全部行く』

『……今の、本当ですか』

『本当だ』

『久坂くん、今日はどうしたんですか。何かあったんですか』

『なんでだ』

『いつもより、踏み込んでくるから』

『……宮瀬の気合いが伝染した』

『してません! わたしのせいにしないでください!』

冬夜はスマホを置いて、コーヒーを淹れた。窓の外では蝉が鳴いていた。

夜。BCOにログイン。

星花の里の地上に来ていた。広い草原で、セレスの月光練習をする予定だ。

「セレス、月光の出力を細かくコントロールできるようになりたい」

「ぴかぴか! れんしゅうする!」

セレスが角を光らせた。最弱から最強まで、五段階に分けて練習した。

「最弱、これが蝋燭の四分の一。次が蝋燭半分。次が蝋燭一本。次が松明一本。最強が太陽の十分の一」

「ごだんかい! セレス、ごだんかいできる!」

「やってみろ。最弱から最強まで、順番に」

セレスが集中した。角の光が、段階ごとに切り替わった。最弱の薄い光から、最強の眩しい光まで。スムーズに切り替わっている。

「すごいな。今までは『弱い』『強い』の二段階だけだった」

「セレス、せいちょうした」

「ああ、成長したな」

「みんなのために、れんしゅうした」

「じゃあ、新しい技も覚えるか」

「あたらしいわざ?」

「光を一点に集中させる技だ。広く照らすんじゃなくて、一点だけを強く照らす。影喰いに対して有効だった『足元だけ照らして影を消す』を発展させる」

「いってんしゅうーちゅー。むずかしそう」

「練習すればできる」

セレスが集中した。角の光が、まっすぐ前方に伸びた。光の柱のような形。一点に集中している。だがすぐに崩れて、四方に拡散した。

「むずかしい!」

「最初はそんなものだ。少しずつ覚えていけ」

「うん。セレス、めげない」

ルーナが影の中から言った。

「……トワ。わたしも何か練習した方がいいかな。次のエリアでは、もっと夜の力が必要になるかもしれない」

「お前は影の底を開ける力を持ってる。それだけで十分だ。だが、何か気になることがあるなら、調べてみればいい」

「……うん。少しずつ、自分の力を知っていきたい」

「焦らなくていい」

「……うん」

メブキが頭の上で双葉を回した。

「めぶきも、れんしゅうしないと! ねっこのこうしん、もっとはやくする!」

「お前も練習するのか」

「みんなしてる、めぶきもする!」

星花の里の星花が、月明かりに揺れていた。

練習の夜。

次のエリアへの準備は、少しずつ進んでいる。