軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変動する戦場

翌日。トワとタマキは再び綻びの大地に降りた。

星花の里の地下へ降り、石の階段を抜けると、金属の草原に出た。昨日と同じカチカチという音が足元から響いている。黄土色の空に、四角い雲が浮かんでいた。

まず文字化けNPCのもとに向かった。崩れた建物の前に、昨日と同じ姿で立っている。

トワが見聞録を起動した。記憶干渉・第三段階。

【記憶干渉を実行中……】

【復元率:31%→ 44%……58%……67%……】

【名前の復元:「リル▊ト」】

【音声データの部分復元に成功しました】

「あっ、声が出るようになったかもしれませんよ」

タマキが画面を見た。

NPCの口が動いた。今度は声が出たが、断片的だ。

「……か……じ……ここ……なお……」

「聞き取れないな。データがまだ足りない」

「もう一回やりますか?」

「もうやってみたが、変わらない。クールダウンがあるのかもしれない、帰りにもう一回やってみる」

セレスがNPCの顔を覗き込んだ。

「このひと、きのうよりすこし、めがうごいてる」

「復元率が上がったからだろう。三割の時より六割の方が、反応が良くなってる」

「あしたには、しゃべれる?」

「もう一回復元できれば、たぶん」

「たのしみ」

セレスがNPCに向かって小さく手を振った。NPCの目が、セレスの手を追った。反応している。

NPC復元は帰りに回して、錆びた草原の探索に出発した。

昨日は北東方向の建物まで歩いた。今日は西に向かう。見聞録のスキャンで、西の方角に異常な数値の集中が見えていた。

「ルーナ。西の異常はどう見える?」

「法則の歪みが一点に集中している。この草原の法則が不安定な原因が、あそこにある可能性がある」

「ほころび……か」

「おそらくだけどね」

歩き始めて十分。ステータスが二回変動した。一回目は上昇。HPが360から384に跳ねた。二回目は下降。371に落ちた。攻撃力、防御力、会心、敏感、などのステータスも同様に変化している。

「上がったり下がったりしますね」タマキが自分のステータスを見ている。「薬を飲むタイミングが難しいです。飲んだ直後に下振れしたら、無駄になります」

「戦闘になったら、変動のタイミングを読む必要があるな」

「意図して読めるものなんですか?」

「六十秒周期だ。見聞録でカウントしている」

トワの見聞録の画面隅に、変動カウンターが動いていた。あと四十二秒で次の変動。三十七秒。三十二秒。タイミングは読める。

西に十五分歩いたところで、景色が変わった。

金属の草が、枯れている。鉄色の草が錆びて、ぼろぼろに崩れている。地面に穴が空いている箇所がある。穴の中から、黄色い光が漏れている。

「あれだ」

光の中心に、裂け目があった。地面に走った亀裂。長さ二メートルほど。亀裂から、不安定なエネルギーが噴き出している。見聞録が警告を出した。

【ほころびを検知しました】

【ほころびの周囲では法則の歪みが増大します】

【ステータス変動:±10% → ±30%に増加】

【修復には「糸の鍵」が必要です】

「±30%……変動幅が三倍になってる」

「俺のHPで言うと、252から468の間を行き来する計算だ。まだ耐えられるが、Lv90のプレイヤーだと変動幅が大きすぎて、戦闘どころじゃないな」

メブキが頭の上で双葉をぴたりと止めた。

「くるくる……ここの根、ぐちゃぐちゃ。からまってる。ほころびから、おかしなちからが出てて、根がこんがらがってる」

「修復すれば、根も元に戻るか?」

「たぶん。ほころびが、なくなれば、根はじぶんでなおる」

トワが糸の鍵を取り出した。ほころびに近づこうとした、その時――。

鉄草獣Lv90が来た。三体、昨日見た草食獣だが、様子が違う。目が赤く光っている。口から蒸気を吐いている。

ルーナが影の中から叫んだ。

「警戒行動じゃない! 気をつけて、トワ。ほころびに近づいたことで、鉄草獣が暴走してる!」

【鉄草獣(暴走状態)×3 が出現しました】

【注意:ほころび付近のモンスターはステータスが不安定です】

トワが【果ての道標】を構えた。白銀形態。

三体が同時に突進してきた。地面を蹴る音が金属質で重い。

「セレス、月光の目だ」

「わかった!」

セレスが覚醒形態に変わって発動した。半径一キロの情報が流れ込む。鉄草獣のステータスが見えたが、数字が揺れている。HPが五万から八万の間を行ったり来たりしている。ATKも不安定だ。

「HPが変動してる……弱い瞬間を狙うしかない」

変動カウンターを見た。あと十二秒で次の変動。

一体目の鉄草獣が角を振り下ろしてきた。トワが横に跳んで回避した。地面に角がめり込んで、金属の草が弾け飛ぶ。

「タマキ、離れていろ。巻き込まれる」

「はい! 後方から支援します!」

タマキがアイテム、煙幕を投げた。鉄草獣の視界を塞ぐ、煙の中で三体が足を止めた。

変動カウンター、残り三秒。二秒。一秒。

【ステータス変動発生】

鉄草獣のHPが下振れした。八万から五万台に落ちた。今だ。

トワが踏み込んだ。

【トワの攻撃:三連斬(果ての道標・白銀形態)】

【鉄草獣に4,100ダメージ】

【鉄草獣に4,100ダメージ】

【鉄草獣に4,100ダメージ】

一撃ごとに金属を打つ音が響いた。鉄の身体に白銀の剣が食い込む。三発で合計12,300。さらに武器を槍に、斧に、弓に切り替え九連撃――怒濤の攻撃で一体目が崩れた。

【鉄草獣を討伐しました】

【ドロップ:錆鉄鉱×2】

残り二体。次の変動まで五十七秒ある。二体が同時に突進してきた。煙幕が晴れている。

トワは後退しながら見聞録のカウンターを睨んだ。五十七秒間、鉄草獣のステータスは上振れしている。正面からの殴ろ合いは不利だ、HP八万の二体を相手にすることになる。

「ルーナ、影で足を止められるか」

「五秒だけなら」

「十分だ!」

ルーナが影から這い出した。トワの影が伸びて、二体目の鉄草獣の足元に絡みついた。鉄草獣が足を止めた。五秒。その間に三体目の角を回避して、背後に回った。

尻尾に斬りつけた。

【トワの攻撃:果ての道標・白銀形態】

【鉄草獣に4,100ダメージ×3】

ルーナの拘束が解けた。二体目が振り返る。

変動カウンター。残り三十秒。まだ長い。

「セレス! あいつらの弱点は見えるか!」

「みえる……にたいめのよわいところ、みぎあしにかたまってる」

右足――トワが低い姿勢で滑り込んだ。二体目の鉄草獣の右前足を斬り上げた。

【弱点攻撃! クリティカル!】

【鉄草獣に8,200ダメージ×3】

さらに武器を大剣に切り替え、もう一撃。

【弱点攻撃! クリティカル!】

【鉄草獣に9,600ダメージ×3】

二体目が倒れた。残り一体。変動カウンターが残り八秒を切った。次の変動で下振れが来ると信じて、待った。

三秒。二秒。一秒。

【ステータス変動発生】

鉄草獣のHPが30%下振れした。トワが踏み込んだ、三連斬を何度も叩き込む連続攻撃。

【鉄草獣を討伐しました】

【ドロップ:錆鉄鉱×3、鉄草獣の角×1】

三体、全滅。

セレスがトワの肩の上で拍手した。

「トワ、つよい」

「くるくる……さすが、トワ」

ほころびの前が、静かになった。鉄草獣はもういない。

トワが糸の鍵を構えて、ほころびに歩み寄った。修復は次だ。