軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊紹介

ナギの家でスープを食べた後、集落の外に出た。

トワ、タマキ、アルダ。三人と精霊四体と渡空魚一匹。

セレスがトワの肩の上で、アルダをじっと見ていた。さっきから、ずっと見ている。首を傾げたまま動かない。

「セレス、何を見てるんだ」

「アルダ、みてる」

「見てるのはわかったが、どうしたんだ」

「アルダ、からっぽ」

「からっぽ……?」

セレスがトワの肩から、アルダの前まで飛んでいった。空中ですい~っとホバリングしながら、アルダの顔を覗き込む。

「からっぽなのに、ぱたがいる。ぱたは、からっぽのひとにはとまらない。だから、からっぽじゃない。でも、からっぽにみえる。──ふしぎ」

アルダが灰色の目でセレスを見た。

「……あなた、何?」

「セレス。トワの、せ-れー。とってもなかよし」

「……精霊」

「セレスは、とくべつ。トワのかたは、セレスのばしょ」

「……トワの、かた」

「セレスの、せんようせき」

「……占有、してるの」

「せんゆー、している」

セレスがアルダの鼻先まで飛んできて、両手を腰に当てた。ふんっと、偉そうなポーズをしている。

「アルダは、トワのかたにすわっちゃ、ダメ」

「……座れないよ」

「やくそく」

「……約束」

「よし」

セレスが満足そうに頷いて、トワの肩に戻った。アルダの肩にはぱたがいて、トワの肩にはセレスがいる。住み分けが成立した。

「セレス、お前は何を言ってるんだ」

「トワのかた。いちばんだいじ」

「肩はそんなに大事か」

「だいじ。ここから、セレスのせかいがみえる」

「セレスちゃん、トワさんの肩が展望台なんですね」

「てんぼーだい。そう、セレスのてんぼーだい」

集落の周囲を歩いた。アルダに原初の世界を見せるためだ。

銀色の草原。風に揺れる木々。遠くに見える山脈。空を泳ぐ渡空魚の群れ。ぱたはアルダの肩から離れず、ぱたぱたしている。

トワが歩くと、星巡りの靴の足跡が草の上に光を残した。歩む者の称号効果で、歩くだけでHPとMPが微量ずつ回復していく。画面の端で数字がちらちら動いている。

「トワさん、歩いてるだけで回復してますね」タマキが画面を覗いた。

「毎秒0.5%。歩く回復薬だな」

「わたしの仕事が減りそうですね」

「タマキの仕事は減らない。俺以外の仲間は自然回復しないからな」

「それもそうですね」

歩きながら、トワの影が揺れた。影の中から声がした。

「トワ。この世界の空気は安定している。危険な気配はないよ」

影の中から、ルーナがぬっと顔を出した。

「だったら、アルダをここに置いても問題なさそうか」

「問題ない。この場所は、世界の根に近い。『紡世者』の干渉も届きにくい」

「その根拠は?」

「原初の世界は、『紡世者』が紡ぐ前から存在していた場所だ。『紡世者』のルールが及びにくいはず」

アルダが足を止めた。ルーナの声を聞いていたらしい。

「……紡世者が、来る?」

「可能性の話だが、極めて低いそうだ」

「……怖い」

「怖いか」

「……怖い、と思う。たぶん。この感覚が怖いかどうか、まだよくわからないけど」

「わからないのに胸がざわざわするのは、怖いってことですよ」

「……ざわざわ、する」

「でも、大丈夫です。トワさんがいますから!」

「……トワが、いるから」

「トワさんは、怖いものの前に立ってくれる人ですよ」

セレスが肩の上でこくこくと頷いていた。

次にナギの畑に来た。小さな畑だ、薬草がいっぱい生えている。

隅っこに空いたスペースがある。

「アルダちゃん、ここ使っていいよ」ナギが鍬を渡した。「好きなものを植えていいから」

「……好きなもの、わからない」

「じゃあ、大根はどう?」

「……大根?」

「白くて長い野菜だよ。育てやすくて、スープにも使える」

「……白くて、長い」

「そう」

「……白くて長いものは、他にもある。なぜ、大根?」

ナギが少し考えた。

「大根は、大根だからだよ」

「……?」

「名前って、そういうものなんだ。理由があるから名前をつけるんじゃなくて、名前をつけるから意味が生まれるの。──ぱたも、そうでしょう?」

アルダが肩のぱたを見た。ぱたがぱたぱたした。

「……ぱたは、ぱたぱたするから、ぱた」

「そう。大根も、大根だから、大根」

「……わかった。たぶん」

アルダが鍬を持った。持ち方がわからないらしく、逆さまに握っている。ナギが直した。アルダが土を掘った。浅い、ナギがもう少し深くと指示した。アルダがもう少し深く掘った。種を置いて土を被せた。

メブキがトワの鞄から顔を出した。

「くるくる……」

メブキがアルダの畑に飛んでいった。土の上に降りて、小さな足で種のあたりをぱたぱた踏んだ。

「メブキ、何してるんだ」トワが聞いた。

メブキが振り返った。双葉をぴこぴこ揺らしている。

「たねのまわり、かためてあげてるの。めぶきは、ねっこのせいれいだから、つちのこと、わかる」

「種の周りを固めてるのか。気が利くな」

「めぶきははたけ、すき!」

アルダがじっとメブキを見ている。

「……ありがとう。ところであなたは、何?」

「めぶき、ねっこのせいれい!」

「……めぶき」

「うん、よろしく」

メブキが嬉しそうに双葉をぶんぶん振った。アルダの肩のぱたも、つられてぱたぱたした。

タマキがトワの隣に来た。

「トワさん。アルダさん、大丈夫そうですね」

「ああ」

「ぱたもいるし、ナギさんもいるし、メブキまで手伝ってるし」

「あいつは土が好きなだけだぞ」

「それでもいいんですよ。一緒にいるだけで、意味がありますから」

トワはアルダが畑を掘っている背中を見た。白い髪に、銀色の魚。鍬を持つ手がまだぎこちない。

だが昨日の椅子に座っていたアルダとは、もう違う。

「行くぞ、きっと上手くやっていけるだろう」

トワとタマキが集落を後にした。アルダが一度だけ振り返って、小さく手を振った。ぱたが肩の上で、ぱたぱたした。

セレスがトワの肩で呟いた。

「アルダ、てをふった」

「嬉しそうだったな」

「この前は、ふらなかったのに」

「感情が芽生えつつあるんだろう」

「あしたは、もっとふるかもしれない」

「また見に来よう」

「セレスも、ふる」

セレスが小さな手を振った。アルダには見えない距離だったが、振った。