軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

占い師の選択

星見座。大劇場の裏手。

ハルとミコトが、小さな扉の前に立っていた。「関係者以外立入禁止」の札がかかっている。

「ここで合ってるんでしょうか」

「ルシアさんが指定した場所です。『劇場の裏、星の扉を叩きなさい』って」

ハルが扉を叩いた。三回。

扉が、音もなく開いた。

中は暗い。天井に星のような光が散りばめられている。プラネタリウムのような部屋だった。中央に丸テーブル。その向こうに、銀髪のNPCが座っている。

ルシア。紫色の瞳がハルとミコトを見た。

「来てくれましたね。──配信は止めてありますか」

「止めてあります」ミコトが頷いた。

「では、始めましょう。扉を閉めてください」

ハルが扉を閉めた。外の音が完全に遮断された。

「まず、確認です」ルシアが静かに言った。「私は『七繰り』の一員です。星見座の管理者であり、占いの賢者です。そして、あなた方の味方です」

「トワさんから聞いています」ハルが答えた。

「私がわざと負けることで、星見座の攻略が完了します。ですが、ただ負けるだけでは不自然です。他の六人に気づかれます」

「不自然にならないようにする方法があるんですか」

「星見座の攻略条件は、戦闘ではありません。『 星問(ほしと) い』──占いの問答です。私が問いを出し、挑戦者が答える。三問正解すれば攻略完了。ですが、問いの内容は私が自由に決められます」

「つまり、答えられる問題を出してくれる、と」

「そうです。ただし」

ルシアが指を一本立てた。

「問答は公開されます。星見座の観客席にプレイヤーが座っていて、私の問いとあなた方の答えを全て聞いています。あからさまに簡単な問題を出せば、他の六人だけでなく、観客にも不正が伝わります」

ハルが唇を引き結んだ。

「つまり、ちゃんと難しい問題を出す必要がある。でも、わたしたちが答えられる問題でなければならない」

「その通りです。難しく見えて、あなた方だけが答えられる問題。──私はあなた方の情報を持っています。旅人の弟子であるハル。配信者であるミコト。二人の知識と経験の中にある答えを、問いの形に変えます」

ミコトがハルを見た。ハルがミコトを見た。

「やれます」ハルが言った。

「やれます」ミコトも頷いた。

「では、三十分後に星見座の大劇場で。──公式の星問として、あなた方に三つの問いを出します。答えてください」

ルシアが立ち上がった。部屋の星が消えていく。

「一つだけ、お願いがあります」

「何ですか」

「私の問いに答える時、嘘をつかないでください。星問は占いの儀式です。嘘の答えでは、たとえ正解でも扉は開きません。あなた方の本心で答えてください」

星見座・大劇場。

舞台に二つの椅子が置かれた。ハルとミコトが並んで座る。対面にルシアが立っている。水晶玉が浮かんでいる。

観客席に三千人ほどのプレイヤーが座っていた。噂を聞きつけて集まった者たちだ。

ルシアが声を張った。普段の静謐な声とは違う、劇場全体に響く声。

「星見座の星問を開始します。挑戦者はハル、ミコト。三問の問いに正解すれば、星見座の攻略を認めます」

【星見座・星問い開始】

【挑戦者:ハル、ミコト】

【正解条件:三問中三問正解】

【虚偽の回答は無効となります】

「第一問」

ルシアが水晶玉に手をかざした。星が一つ、輝いた。

「旅人トワが、BCOで最初に名付けたものは何ですか」

観客席がざわめいた。

「トワの最初の命名?」

「知ってるやつ、いるのか?」

ハルが目を閉じた。師匠の旅の記録を、頭の中で辿る。フォーラムの記事。自分が書いた導師レポート。師匠が話してくれた旅の断片。プレイヤーネームではない、トワが初めて名付けたのは――。

「 渡空魚(とくうぎょ) 」

ルシアが頷いた。

「正解です」

観客席から拍手が起きた。

「渡空魚って、原初の世界のあの魚か?」

「よく知ってるな」

「ハルって、トワの弟子だっけ。師匠の旅を全部記録してるのか」

「第二問」

星がもう一つ輝いた。

「この島に来てから十二日間で、最も多くのプレイヤーに影響を与えた一杯の飲み物があります。その名前と、作った人物の名前を答えてください」

ミコトが即座に答えた。

「常世蜜の強化スープ。作ったのは、タマキさんです」

ルシアが微笑んだ。

「正解です」

「それは知ってる!」観客席から声が上がった。「あのスープに何回助けられたか!」

「タマキさんの名前が星問に出るとは。薬師の格が上がったな」

「第三問」

三つ目の星が、輝いた。

「最後の問いです。──この問いだけは、知識ではなく、心で答えてください」

劇場が静かになった。

「あなた方は、なぜこの島にいますか」

知識の問いではない。正解が一つではない問い。だが、ルシアは「嘘をつくな」と言った。本心で答えなければ、扉は開かない。

ハルが口を開いた。

「わたしは──師匠と一緒に旅をしたいから、ここにいます」

それは本心からの答えだった。

「師匠が歩く場所に、わたしもいたい。師匠の旅を記録したいんです。でも、いつも師匠に頼りっぱなしで、少しは自分で歩いてみようと思って……だから、これはわたしのための旅なんです。島から帰りたいとか、世界を救いたいとか、そんな理由じゃないです。ただ、師匠の隣で、メモを取りたいんです」

観客席が静かになった。

ミコトが続けた。

「わたしは──みんなに伝えたいから、ここにいます」

ミコトの声は少し震えていたが、目は真っ直ぐだった。

「この島で起きていることを、配信で伝える。怖がっている人に、まだ大丈夫だと伝える。トワさんたちが戦っていることを、見せる。わたしの配信を見て、誰か一人でも『まだ諦めなくていい』と思ってくれたら、それがわたしの理由です」

ルシアが、しばらく二人を見つめていた。

口角が、僅かにつり上がった。

「……正解です」

三つの星が、同時に輝いた。劇場全体が星の光に包まれた。

【星問・三問正解】

【星見座の区画攻略を達成しました】

【星見座の主ルシアは攻略を認めました】

【プレイヤーより没収したスキル・装備の一部が追加で解放されます】

観客席が湧いた。

温かい拍手、二人を讃える声が降り注ぐ。

「あの二人、すごいな」

「高校生なんだろ? あれ」

「立派な答えだよ、本当に」

「あそこまで思ってくれてるなら、師匠も幸せものだろうな」

舞台裏。

ルシアがハルとミコトに向き直った。

「見事でした。特に第三問は、私の予想を超えていました」

「予想を超えていた?」ハルが聞いた。

「私は占いの賢者です。未来を視ることができます。ですが、人の心の中身までは視えません。あなた方が何を答えるか、予測はしていました。だが予測を超えていた。──あなた方は、私が思っていたより、真っ直ぐな人たちです」

「ルシアさん」ミコトが小さく言った。「ありがとうございました。わざと負けてくれて」

「わざと負けたわけではありません」

ルシアが首を振った。

「問いは本物です。答えも本物でした。あなた方が本心で答えたから、扉が開いた。虚偽なら、いくら私が味方でも、開かなかった。──これは正当な攻略です」

ハルが深く頭を下げた。ミコトも。

「残り三人。テオ、マリス、セノン。──気をつけてください。特にテオは」

「トワさんにも同じことを言われました」ハルが答えた。

「彼が言うなら、間違いありません。テオは、私たち七繰りの中でも異質です。あの子は……楽しんでいます。人の苦しみを、楽しんでいます」

ルシアの声が、僅かに震えた。

「伝えてください、トワに。テオには、絶対に油断しないでと」

パーティチャットが動いた。

ハル:「師匠。星見座、攻略完了しました」

トワ:「三問とも正解できたか」

ハル:「はい。第三問が一番大変でした」

トワ:「何を聞かれた」

ハル:「……なぜこの島にいるか、です」

トワ:「お前は何と答えた」

ハル:「師匠の隣で、メモを取りたいからです」

トワ:「……」

タマキ:「ハルちゃん……わたし、泣きそう」

ミコト:「わたしも泣きそうでした。でも泣かなかったです。配信者ですから」

ダリオ:「いい答えだ。二人とも」

ゼクス:「三つ攻略完了。残り三つ。あと五日」

三つ目の扉が開いた。

残り三区画。テオの奈落。マリスの宵市。セノンの湯楽郷。

常世島、十三日目。折り返しを超えた。