軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開戦

偵察三日目の夜明け。作戦会議。

宿泊施設の共有スペースに全員を集めた。トワ、タマキ、ゼクス、アストレア、ダリオ、レクト、ハル、ミコト。加えて、今日はもう一人。

「久しぶりだな、トワ」

オーレンだった。パーティチャットには入っていないが、島にはいる。昨夜、トワから連絡を入れて、呼び寄せた。

「黄金棟の担当を頼みたい」

「聞いた話では、カードゲームをするんだったか」

「ああ、ヴァルタとの勝負だ」

「面白い。──やろう」

会議を始めた。

壁に島のマップを投影した。六つの区画が色分けされている。中央に【帳の間】。

「時間制限は七日だ。六区画を一つずつ攻略していたら間に合わない。同時並行で動く」

全員が頷いた。

「担当を最終決定する」

「ヴァルタ──黄金棟。オーレン」

オーレンが親指を立てた。「了解」

「ギセル──闘技宮。ゼクス、お前と〈黄金の燐光〉のメンバーで六対六の団体戦を挑め」

ゼクスが頷いた。「引き受けた。オーレンのギルドは何人出せる」

「精鋭五人を用意する。お前と合わせて六人」オーレンが答えた。「うちのギルドも、久々の大舞台だ」

「ルシア──星見座。ハル、ミコト」

ハルが背筋を伸ばした。

「わたしたちで、いいんですか」

「ルシアは内通してくれる。わざと負けると言った。だから、星見座は戦闘じゃなく、対話で片付く。お前たちの得意分野だ」

「師匠、わかりました。やります」

「ただし、他の六人にバレれば、ルシアは排除される。慎重に行動しろ」

「はい」

「ミコトの配信は、星見座だけ制限する。ルシアのシーンは撮らないでくれ」

「了解です!」

「テオ──奈落遊戯場。ヴェノムが単独で入る。だが一人では危険だ。合流させる相手を決める」

ゼクスが挙手した。

「ギセル戦が終わったら、俺がヴェノムと合流する。闘技宮が先に終われば、時間的に間に合う」

「闘技宮は何日かかる」

「三日以内に片付ける」

「頼んだ。ルーナも同行してくれ。奈落遊戯場は薄暗い、夜の精霊の力が活きるはずだ」

ルーナが影から顔を出した。「わかった」

「マリス──宵市。レクトが担当だ」

レクトが頷いた。「裏口から内部を観察してます。マリスの所在は掴めました」

「マリスは取引で搾り取る商人だ。戦闘じゃない。お前の釣り師の嗅覚で、偽物を見抜ける可能性がある」

「釣り師で世界を救う日が来るとは思いませんでした」

「お前にしかできないことだ。頼んだぞ」

「セノン──湯楽郷。タマキ、アストレア」

タマキが瞬きした。

「わたしとアストレアさんで、ですか」

「セノンはお前を勧誘してきた。薬師の同志と呼んだ。おそらく薬師の勝負を挑んでくる。タマキが本命だ。アストレアは護衛に回す」

「わたしは盾役ですね」アストレアが微笑んだ。「聖騎士の本分です」

「セノンは動機が読めない。油断するな」

「はい」タマキが鞄の紐を握り直した。「でも、薬師の勝負なら、わたしは負けません。ナギさんの弟子として」

鞄の中で、硝子蛙がけろっと鳴いた。

「ダリオ──海の壁の調査は継続。攻略と並行で、脱出ルートの可能性を探ってくれ」

「了解だ。海の男は海で仕事する」

「俺──全体の指揮と遊撃だ」

トワが自分を指した。

「六区画を同時攻略するから、誰かが危険になった時に、すぐに動ける人間が一人必要だ。俺がやる。どの区画にも、必要なら駆けつける」

ゼクスが腕を組んだ。

「お前がいれば、安心だ」

「過信するな。俺も一人だ。同時に二ヶ所は行けない」

「それでも、いるといないでは違う」

方針が決まった。

「最終確認。攻略開始は今日の午後。各自、準備を整えろ」

トワが全員を見回した。

「ルシアの担当はハルとミコト、内通は絶対に外にバレるな。ギセルとの団体戦の情報は、ゼクスとオーレンのギルド内で。マリスの商売の罠は、レクトがリアルタイムで報告しろ。セノンの勝負は、タマキの判断を優先する。アストレアはタマキを守ることだけを考えろ」

「はい!」

「ダリオの壁の調査は、他の攻略と独立させる。もし壁に弱点が見つかれば、区画攻略を中断してでも、そちらを優先する」

「了解した!」

「最後に」

トワが一拍置いた。

「俺たちは、同じワールドにいる数万人のプレイヤーの代表じゃない。ただ、島から出るために動くだけだ。背負う必要はない。自分が帰るために、目の前の相手を倒すことだけ考えろ」

全員が頷いた。

「さあ――行こう!」

会議が終わった。

全員が立ち上がって、それぞれの持ち場に向かい始めた。

ハルが最後にトワに振り向いた。

「師匠……わたし、ルシアさんとちゃんと話せるでしょうか」

「話せる。お前は導師として、記録を書き続けてきただろう。人を見る目が鍛えられているはずだ」

「記録で、人を見る……」

「事実を積み重ねて、そこから人物像を組み立てる。占い師の仕事と似ている。お前とルシアの話は、通じるはずだ」

「はい……やってみます!」

ハルがミコトと一緒に星見座に向かって歩き出した。

オーレンが黄金棟の方に歩いていく。すれ違いざまに、トワに片手を挙げた。

「お前のためにカードを切るのは、初めてだな」

「勝ってくれ」

「勝つさ。文学者に負けは似合わないからな」

ゼクスが闘技宮に。レクトが宵市に。タマキとアストレアが湯楽郷に。ダリオが港に。

全員が動き出した。

トワは宿泊施設の外に出た。

島の空気を吸った。初めてこの島に着いた時と同じ空気とは、緊張感が違う。

フォーラムが更新されていた。

──「トワたちが動き始めた」

──「どの区画から攻めるんだ?」

──「同時攻略するらしい。六つ全部」

──「六つ同時……無茶だろ」

──「無茶をやるのがトワだろ」

──「誰が誰を相手にするんだ」

──「ゼクスが闘技宮、ハルちゃんとミコトが星見座、オーレンが黄金棟、レクトが宵市、タマキとアストレアが湯楽郷、ヴェノムが奈落らしいよ」

──「ヴェノムまで動くのか。あのPK改心組のか」

──「旅人同士、気が合うのかもな」

──「俺たちにできることは?」

──「黙って待つこと。邪魔しない」

──「装備を失った俺たちが、今からできるのはそれだけか」

──「それだけじゃない。トワが言ってたの聞こえたんだが……『自分が帰るために、目の前の相手を倒す』。だったら、俺たちも自分のできることをやる……だってさ。俺たちも、応援しようぜ」

──「応援か。……それなら、できる」

宿泊施設の周りに、いつの間にかプレイヤーが集まっていた。数千人ほど。装備を失った者、失っていない者、混ざっている。誰も声を上げない。ただ、見ている。

出発するメンバーを、見送っている。

その中の一人が、ぽつりと言った。

「頼みます……トワさん!」

他の者たちも、次々に頭を下げた。

「お願いします、どうか……無事勝って下さい!!」

「信じてます!! 本当に!!」

「どうか、俺たちを帰してください!」

トワたちは立ち止まらなかった。立ち止まる暇がない。だが、背中に視線を感じていた。

セレスが肩の上で真剣な顔をしていた。

「トワ。はじまるんだね」

「始まる」

「セレスは、トワといっしょ」

「ああ」

「ぜったい、かえろうね」

「帰る」

セレスが角を強く光らせた。

常世島、十二日目。

楽園攻略、開始。