軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

作戦

島の宿泊エリアに全員を集めた。

トワ、タマキ、ゼクス、アストレア、ダリオ、レクト、ハル、ミコト。八人。

宿泊施設の共有スペースに輪になって座った。テーブルの上にタマキが常世蜜スープを人数分並べている。

「まず、わかっていることを整理する」

トワが見聞録を開いた。島に来てから十一日間で集めたデータ。マップ、システム情報、門のメッセージ。全てを共有ウィンドウに表示した。

「帰るための条件は、六つの区画の主を倒すこと。六人の名前は門に刻まれていた」

【黄金棟:ヴァルタ】

【闘技宮:ギセル】

【星見座:ルシア】

【奈落遊戯場:テオ】

【宵市:マリス】

【湯楽郷:セノン】

「六人。それぞれが区画の管理者だ。倒し方はまだわからない。戦闘なのか、ゲームで勝つのか、別の方法があるのか」

「戦闘なら問題ないな」ゼクスが言った。

「いや、戦うとは限らない。カジノの区画の主に剣で挑んでも意味がない可能性がある。相手のルールで勝負する必要があるかもしれない」

「相手のルールで、か」ゼクスが顎に手を当てた。「闘技宮のギセルなら、おそらくPvP形式だろう」

「ゼクスは闘技宮を担当するのが自然だな」

「ああ、喜んで引き受ける」

「黄金棟のヴァルタはカジノの主だ。カードゲームかスロットか、賭技のルールで勝負する可能性が高い」

オーレンがいれば適任だったが、パーティチャットにはいない。だが島にはいるはずだ。あとで連絡を取る。

「星見座のルシアは」

「劇の中で三人目の賢者として描かれてましたよね。『知と運命が交わる場所を作ろう』と言った人」

ハルが言った。

「占いショーもルシアが仕切っているはずだが、まだ直接会ってはいない。占いは後回しにしたままだったからな」

「ルシアの担当は、知識系かもしれません。クイズ大会もやってたエリアですし」

「ハル。お前は星見座の劇を見て記録を書いていたな」

「はい、建国伝説のレポートを」

「星見座の情報が一番多いのは、お前だ」

「えっ。わたしが、ルシアを?」

「まだ決まっていないが、候補としては一番だろう」

ハルが固まっている。ミコトが隣で肩を叩いた。

「ハルちゃん、大丈夫。わたしも一緒にいるから」

「はい……頑張ります!」

「そして――奈落遊戯場のテオだが、ここが一番厄介だ」

全員の顔が引き締まった。

昨日の生存戦を見た者は、あの場所の異常さを知っている。

「Lv98の星鋼フル装備で、常世獣に48ダメージしか通らなかった。見聞録のスキャンも弾かれる。情報がない」

「情報がないのが一番きついな」ゼクスが言った。「暗殺者は情報がなければ動けない」

「それに……奈落遊戯場は、常に薄暗かった。もしかしたら、夜の精霊のルーナが力を発揮できるかもしれない」

「……やってみる」

「宵市のマリスは、恐らく商人気質なNPCだろう。交易中心のエリアだからな」

「釣り素材の取引で、宵市には毎日通ってます」レクトが手を挙げた。「NPCの顔ぶれはだいたい覚えてます。マリスがどこにいるかも、目星はつきます」

「頼りにしている。――湯楽郷のセノンは温泉と美食の管理者だ。タマキはこの区画で毎日活動していたな」

「素材屋のNPCとは顔馴染みですし、美食街の構造は把握しています。でも、セノンという名前は聞いたことがありません。表に出てきていないのかも……」

「隠れている管理者か。見つけることから始める必要がある」

ここで一度、フォーラムの状況を確認した。

トワが帳の間の情報を公開してから六時間。島の空気は大きく変わっていた。

パニックは落ち着きつつある。ログアウトは可能なので、現実に被害はない。冷静なプレイヤーたちがフォーラムで呼びかけている。「慌てるな」「情報を整理しろ」「トワたちが動いている」。

一方で、深刻な問題も浮上していた。

装備をカジノで溶かしたプレイヤーが、推定で三千人以上いる。レベルを闘技場で削られたプレイヤーも多い。彼らは戦闘力を大幅に失っている。六区画の攻略に参加できる状態ではない。

さらに、常世銭の価値が暴落し始めていた。島から出られないとわかった瞬間、常世銭を稼ぐ意味が薄れた。宵市の露店も閑散としている。島の経済が止まりかけている。

「島のプレイヤーの半数以上が、何らかの損失を受けている。戦える状態の上位プレイヤーは、おそらく全体の二割もいない」

「二割でも、一万人以上いる計算ですが」タマキが言った。

「一万人いても、六区画を同時に攻略するには情報が足りない。まずは偵察だ。――ダリオ」

「おう」

「お前の船で島の外に出ようとして、見えない壁にぶつかったと言っていたな」

「島から500メートルの位置だ。突破できなかった」

「壁の調査を続けてくれ。六区画の攻略と並行して、壁の構造を解析する。もし壁に弱点があれば、別の脱出ルートになる」

「了解だ。海のことなら任せろ」

「それと、アストレア」

「はい」

「お前はどの区画でも前衛を張れる。特定の区画を割り当てない、助けが必要な場所に入ってもらう」

「遊撃ですね。聖騎士の本分です」

「あと、温泉卓球で稼いだ常世銭はまだあるか」

「1,200枚あります」

「全員の活動資金にする。タマキの薬の素材代に回してくれ」

「了解です」

全員の顔を見回した。

八人。それぞれが島で十日間を過ごして、それぞれの場所で情報を集めていた。レクトは魚を釣り、タマキは薬を作り、ゼクスは戦いを観察し、ダリオは海を調べ、ハルは記録を書き、ミコトは配信をしていた。

遊んでいたわけではない。楽しんでいたのは事実だが、同時に全員がこの島の情報を蓄積していた。それが今、作戦の土台になっている。

「方針をまとめる。六つの区画の主の情報を集めて、挑む順番と担当を決める。まずは各自が自分の区画を偵察して、管理者の所在と戦い方を確認する。期限は三日。三日後にもう一度集まって、攻略順を決める」

それぞれがパーティーチャットで役割分担を明確にした。

タマキ:「わたしは薬の量産と湯楽郷の偵察を並行します」

ゼクス:「闘技宮のギセルの情報を洗う。三日あれば十分だ」

レクト:「宵市のマリスを探します。毎晩通ってるので、怪しいNPCに心当たりがあります」

ハル:「星見座のルシアに会いに行きます。占いを受けながら、情報を引き出せないか試してみます」

ミコト:「配信は続けます。島のプレイヤーに状況を伝える役をやります!」

アストレア:「遊撃待機。誰か危険な目に遭ったら、すぐに駆けつけます」

ダリオ:「海だ。壁を調べる。三日あれば全周回れるぜ!」

「よし。三日後、ここに集合だ」

全員が立ち上がった。それぞれの持ち場に向かっていく。

最後にセレスが聞いた。

「トワ。トワは、なにするの?」

「歩く」

「あるく?」

「島をもう一度歩く。今度は、楽しむためじゃない。全部見直す、見聞録で拾い直す。これまでの間で、見落としていたものがあるかもしれない」

「セレスもいく」

「一緒に歩こう」

「うん」

セレスが肩に乗った。

トワは宿泊施設を出て、島の道を歩き始めた。

星巡りの靴が光の足跡を刻む。同じ道を、もう一度。今度は違う目で。

常世島、十一日目。

楽園の攻略が始まる。