作品タイトル不明
七人の賢者
常世島、七日目。
トワは星見座に行った。
ここは島の西側にあるエンターテイメントエリア。大きなドーム型の建物が三つ並んでいる。一番大きいドームの入口に「本日の演目」と書かれた看板が出ていた。
【星見座・大劇場】
【本日の演目:「常世島建国記」】
【上演時間:30分】
【入場料:無料】
【次回上演:14:00】
「建国記……島がどうやって作られたかの話か」
「面白そうですね。見にいきましょう!」
開演まで少し時間がある。トワとタマキは、二番目のドームを覗いた。
クイズ大会をやっている。NPCの司会が問題を出して、プレイヤーが早押しで答える。正解すると常世銭がもらえる。不正解だと参加費を没収される。
「クイズも賭技の一種になっているわけか……」
「BCOの世界の知識が問われるみたいですね。あっ、今の問題……『始まりの町の噴水広場にある石碑に書かれた言葉は?』って」
「『全ての旅は一歩から始まる』だ」
「正解! ……って、トワさんが答えても、常世銭はもらえませんよ。参加登録してないですし」
「わかっている。見ているだけだ」
クイズ大会は後にして、先に大劇場に入った。
広い。二千人は入れる客席だ。ステージが正面にあって、天井に照明用の水晶が並んでいる。半円形の客席が傾斜になっていて、どこからでもステージが見える設計だ。
席に着いた。周囲にはプレイヤーが千人ほど座っている。
開演のゴングが鳴った。照明が落ちて、ステージに光が集まる。
NPC役者たちが登場した。七人、それぞれ異なる衣装を着ている。
語り部のNPCが、物語を語り始めた。
「むかし、世界の端に何もなかった。海だけがあった。その海の上に、七人の賢者が降り立った」
ステージに海の映像が広がった。VRの劇場演出だ。客席にも波の音が聞こえる。足元に水のエフェクトが波のようにゆらゆら揺れている。
「七人の賢者は、それぞれが一つの力を持っていた。一人目は 娯楽(ごらく) の力。人を楽しませる力。彼は言った。『笑い声が聞こえる場所を作ろう』と」
ステージに黄金棟が映し出された。金色の建物。きらびやかなカジノ。
「二人目は 武勇(ぶゆう) の力。彼は言った。『強さを競える場所を作ろう』と」
闘技宮が映る。歓声。剣と剣がぶつかる音。
「三人目は 叡智(えいち) の力。彼女は言った。『知と運命が交わる場所を作ろう』と」
星見座が映る。星が輝く劇場。水晶玉の前に座る銀髪の女性。
「……三番目の賢者、このドームの管理者か」
「星見座の主ですね」
「四人目は 試練(しれん) の力。彼は言った。『己を試す場所を作ろう』と」
奈落遊戯場が映る。暗い空間。観客席に囲まれたフィールド。
「奈落遊戯場。試練の力か」
「五人目は 商才(しょうさい) の力。彼は言った。『欲しいものが手に入る場所を作ろう』と」
宵市が映る。提灯。夜の路地。昨夜歩いた場所だ。
「六人目は 癒(いや) しの力。彼女は言った。『疲れた身体を休める場所を作ろう』と」
湯楽郷が映る。温泉の湯気。美食街の屋台。
「そして——七人目の賢者」
語り部の声が低くなった。ステージの照明が暗くなった。
「七人目は——何も言わなかった。何も作らなかった。ただ、六人が作ったものを見ていた。そして、満足そうに微笑んでいた」
七人目の賢者は、顔が見えない。フードを深く被っている。舞台の端に立って、他の六人を見つめている。
七人目が何をしたのか、何の力を持っているのか、一切語られなかった。
「七人の賢者は、こうして島を作った。旅人たちが集い、笑い、競い、学び、売り買いし、休む場所。それが常世島である——」
劇が終わった。照明が戻り、観客が拍手した。
「面白かったですね」
「ああ……特に七人目が気になった」
「何も作らず、ただ見ていた。……帳の間の管理者でしょうか」
「だろうな。六人がそれぞれ区画を持っている。七人目だけが何も持たず、何も語らなかった」
セレスが首を傾げていた。
「トワ。さいごのひと、かおがみえなかった」
「ああ。フードで顔が隠れていたな」
「なんでかくしてるんだろ」
「劇の演出かもしれないし、意味があるのかもしれない」
「きになる」
「まあ、いつかわかるだろう」
◇
劇場を出ると、チャットが来ていた。ゼクスからだ。
ゼクス:「闘技場に出た。三戦三勝」
トワ:「どうだった」
ゼクス:「面白い。レベルを賭けた相手は、普段より動きが硬くなる。失うものがある人間は、守りに入る」
トワ:「飛び入り枠じゃなく、通常の賭技で出たのか」
ゼクス:「通常の賭技だ。レベルを3ずつ賭けた。三戦で計9レベル分の常世銭を得た」
トワ:「自分のレベルを賭けて出たのか。お前がレベルを失うリスクを取るとは」
ゼクス:「負ける気がしなかった。十八戦分のデータがある。相手の癖は全て把握している」
ゼクス:「それと、一つ面白い話がある。対戦後に相手の剣士と話をした。『負けたらレベルを取り戻したくなる。もう一戦やりたくなる』と言っていた」
トワ:「……そうか」
ゼクス:「負けた人間がもう一度挑む。取り戻そうとして、また賭ける。その構造に、既視感がある」
トワ:「カジノと同じだな」
ゼクス:「ああ。ただ、今は深追いしない。データを取るだけだ」
トワはチャットを閉じた。
ゼクスも何かを感じ始めている。だが二人とも、今は言葉にしない。
◇
帰り道。夕焼け。
タマキが新レシピの試食を持ってきた。常世蜜の強化スープ。金色のスープが小さなカップに入っている。
「どうぞ、飲んでみてください!」
一口飲んだ。甘い。温かい。体にバフが広がっていくのがわかる。
【常世蜜の強化スープを飲みました】
【全ステータス+5%(90分間)】
【既存のバフと重複します】
「全ステ5%が90分。既存と重複する。優秀だな」
「でしょう? 常世蜜の触媒効果で、持続時間が通常の倍になってるんです」
「タマキ、いい仕事だな」
「えへへ……もう一つ、岩塩の耐性料理もあるんですけど、そっちは明日でいいですか?」
「ああ、楽しみにしている」
セレスがスープのカップを覗き込んだ。
「トワ。それ、おいしい?」
「美味い」
「のみたい」
「……タマキに言ってくれないか」
「タマキ。セレスのぶんは」
「ありますよ。小さいカップで作りました!」
タマキが手のひらサイズのカップを出した。セレスが両手で受け取って、一口飲んだ。
「あまい。あったかい。すき」
「よかった! セレスちゃんにも効くんですね」
「きく。セレス、ぱわーあっぷした」
「パワーアップしたのか。何ができるようになった」
「……おだんご、ふたつたべれるようになった」
「それはパワーアップとは言わない」
【常世島 踏破率:36%】
島に来て一週間。三分の一を超えた。
明日は奈落遊戯場を見に行こう。上級者向けゲームエリア。名前の通りなら、ここまでとは違うものがあるはずだ。