軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

[百パーセント]

踏破作戦二十九日目。最終日。

朝五時。全チームが調和の里に集合した。

「今日で終わらせる。残り3%。各チームが調査済みのルートを俺が駆け抜ける。七色列車でエリアを移動しながら、一日で全部歩くぞ」

「火のエリアで待機する。溶岩帯の最奥。ルートは昨日確保した」と、ゼクス。

「水のエリアで待ってる。マリドゥスに鯨エスコートの準備をさせとく」ダリオ。

「光のエリアで待ちます。セレスちゃんが昨日マークしてくれた地点のルートを整理しておきます」ハル。

「ルーナは虚空のエリアの先行調査に出ろ。俺が虚空に到着するまでにルートをマークしておいてくれ。虚空が最後になる。タマキは俺と一緒だ。全エリアを一緒に走る。薬師がいないと各エリアの環境対策ができない」

「了解です。全種類の薬を持ってきました!」

「セレスは、どうする?」

セレスがトワの肩に座っている。まだ少し疲れが残っている。昨日は氷河の中で丸一日月光を出していた。

「セレスはトワといく。さいごのひは、いっしょ」

「肩の上で休んでいろ。無理に月光を出さなくていい」

「やすむ。でも、いっしょにいる。さいごのしゅんかんは、トワのかたのうえで」

「じゃあ……一緒にいるか」

全チームが各エリアに散開した。トワとタマキとセレスは七色列車に乗った。最後のリレーが始まる。

午前八時。火のエリア。

ゼクスとアストレアが溶岩帯の入口で待っていた。

「こっちだ。ルートは確保してある。溶岩の安全帯を通って最奥の洞窟まで一本道だ」

ゼクスが先導し、トワが走った。調査済みのルートだから迷う必要がない。モンスターはアストレアが聖剣で蹴散らしてくれる。トワは歩くことだけに集中できる。

「鎧のまま、溶岩帯を走ってくれてるのか」

「聖騎士の鎧は最後まで脱ぎませんからね。……あ、矜持ですよ」

「忘れてたろ、いま」

「忘れてません」

火のエリアの残り0.4%を二時間で踏破。

【火のエリア踏破率:100%】

「火は終わった――次だ」

七色列車で水のエリアへ。

午前十時。水のエリア。

ダリオとマリドゥスが湖岸で待っていた。

「乗れ! 最深部の小洞窟群まで一気に運ぶぞ!」

マリドゥスの鯨エスコートで深層に直行。深潜薬を飲み、ダリオの航海士が先導する水路を走り抜けた。調査済みの洞窟を順番に。

水のエリアの残り0.6%を二時間で踏破。

【水のエリア踏破率:100%】

午前十一時半。光のエリア。

ハルが氷河地帯の入口で待っていた。

「師匠。セレスちゃんが昨日マークしてくれた地点を順番に回るルートを作りました。最短で一時間半です」

セレスのマークが正確だったおかげで、歩くだけで済む。ハルが先導し、モンスターを旅人の集いのメンバーが処理してくれる。

光のエリアの残り0.8%を一時間半で踏破。

【光のエリア踏破率:100%】

「セレス、聞いたか。お前のマークで光のエリアが終わったぞ」

「きいた。えへへ。セレスのマーク、やくにたった」

残り──虚空のエリア1.2%。

正午。七色列車で虚空のエリアへ。

ルーナからチャットが来ない。朝から、先行調査に出ているはずだが……。

トワ;「ルーナ。ルートのマークはできたか」

五秒。十秒。返事がない。

トワ:「ルーナ?」

二十秒後。

ルーナ:「ごめん。遅れてる。0.9%分のルートはマークしたけど、残り0.3%の区画に入れない。壁があるの」

トワ:「壁? 虚空のエリアに壁は観測されていなかったが」

ルーナ:「地震で地形が変わった。昨日までなかった壁が、今朝の地震で隆起してできた。高さ二十メートルの岩壁。影で越えられない。影が伝える面がない。つるつるの垂直壁」

地震で地形が変動した。昨日は地震が踏破を助けたが、今日は妨げている。

トワ:「分かった、俺が行く」

七色列車で虚空のエリアに向かった。タマキとセレスを連れて。

到着。灰色の平原の東端。ルーナが壁の前に立っていた。全身で出ている。虚空のエリアは夜に近くはないが、壁の日陰に立っている。

「この壁か」

二十メートルの岩壁。つるつるの表面。手がかりがない。全属性解析でスキャンした。

「岩盤が地震で垂直に隆起している。表面が摩擦係数ゼロに近い。ロープの引っかかりもない」

「登れないの。わたしの影も、壁に影がないから伝えない」

「登らなくていい。壁を越えるんじゃではなて、壁を通るんだ」

「壁を……通る?」

全属性解析で壁の内部構造を読んだ。岩盤は均一じゃない。隆起の過程で内部に空洞ができている。地震の力で岩が割れて、内部にトンネル状の隙間が。

「壁の内部に空洞がある。地上三メートルの位置に、人が通れる大きさのトンネルがある。入口は壁の裏側にあるが、こちら側にも薄い部分がある。厚さ四十センチ。物理で割れる」

「四十センチの岩を、割るんですか!?」

「タマキ。蠍殺しの団子の応用で、岩を内部から割れないか」

「岩に食べさせるわけにはいかないので、別の方法で。岩の成分をスキャンしてください」

スキャンした。岩の成分データをタマキに送った。

「土属性の岩盤、水を含む成分が17%。水の部分を凍結させれば膨張して岩が割れます。碧湖の深潜薬の成分を逆転させた凍結薬を作ります」

「作れるか」

「三分ください」

タマキがその場で調合した。深潜薬の成分を反転。水圧に耐える薬から、水を凍結させる薬へ。

【タマキが新レシピ「凍裂薬」を開発しました!】

「できました! 岩の隙間に流し込めば、内部の水分が凍って岩が割れます!」

岩壁の薄い部分に凍裂薬を流し込んだ。三十秒。岩の内部からぴしっという音。ひびが走る。ばきっ。岩が内側から割れた。

トンネルの入口が開いた。

「通れる。行くぞ」

トンネルをくぐった。壁の向こうに出た。灰色の平原が続いている。残り0.3%の区画。

「ルーナ。先に影で走ってルートをマークしろ。俺がすぐ後を追って歩く」

「了解。マークしていく」

ルーナが影を伝って飛び出した。壁の向こうの平原を紺色の気配が疾走していき、地面にマークを残していく。トワとタマキがその後を走る。ルーナがマークしたルートの上を、トワの足が踏んでいく。

二十分後。

ルーナ:「マーク完了。全ルート出した」

トワがルーナのマークを追いかけて走り終えた。

【エルシオン踏破率:99.7%】

「99.7%。残り0.3%はどこだ」

見聞録で残りの未踏破区画を検索した。灰色の平原のごく一部。ルーナが通過した区画の、ほんの端。幅十メートルの細い帯状のエリアが塗り残されている。

「ここだ。ルーナのマークが直線だったから、俺もそのまま直線で走った。曲がった地形の端を踏めていない」

「ごめん。マークが大雑把で」

「謝るな。最後は足で丁寧に塗る。俺が歩く」

帯状のエリアに足を踏み入れた。十メートル幅。距離は三百メートル。灰色の平原。何もない場所。

歩いた。

一歩ごとに踏破率が上がる。99.71%。99.72%。99.73%。

セレスが肩の上にいる。タマキが後ろを歩いている。ルーナが影の中から見守っている。

99.8%。99.9%。

最後の一歩。

【エルシオン踏破率:100.0%──達成】

システムメッセージが画面全体に表示された。

【おめでとうございます。あなたはエルシオンの全てを歩きました】

【「臍の結晶」が起動しました。大湖アルケオンの心臓への道が開かれます】

【称号「大陸を知る者」を獲得しました】

「100%」

セレスが肩の上で小さく拍手した。

「トワ。ひゃくぱーせんと」

「ああ……100%だ」

「やった。ぜんぶ、あるいた」

「全部歩いた。全員で」

タマキが涙ぐんでいた。

「やっと、終わりましたね……長かった踏破作戦が」

「いや、まだ終わっていない。踏破は終わったが、本番はこれからだ。【大湖の心臓】に向かう」

「……そうでした、まだ終わりではありませんね」

全チームにメッセージを送った。

トワ:「踏破率100%達成。全チーム、大湖アルケオンに集合。これからエルシオンの心臓に向かう」

ハル:「やりました──!!」

ゼクス:「了解。直ちに向かう」

アストレア:「聖騎士の矜持にかけて──やりました!」

ダリオ:「大湖で待ってるぞ! 船を出す!」

ルーナ:「おわった。わたしも、いく」

臍の結晶が脈打っている。二十九・四秒。まだ間に合う。

エルシオンの空にオーロラが揺れている。速いリズムで。大陸が鼓動している。

心臓が、待っている。