作品タイトル不明
[百パーセント]
踏破作戦二十九日目。最終日。
朝五時。全チームが調和の里に集合した。
「今日で終わらせる。残り3%。各チームが調査済みのルートを俺が駆け抜ける。七色列車でエリアを移動しながら、一日で全部歩くぞ」
「火のエリアで待機する。溶岩帯の最奥。ルートは昨日確保した」と、ゼクス。
「水のエリアで待ってる。マリドゥスに鯨エスコートの準備をさせとく」ダリオ。
「光のエリアで待ちます。セレスちゃんが昨日マークしてくれた地点のルートを整理しておきます」ハル。
「ルーナは虚空のエリアの先行調査に出ろ。俺が虚空に到着するまでにルートをマークしておいてくれ。虚空が最後になる。タマキは俺と一緒だ。全エリアを一緒に走る。薬師がいないと各エリアの環境対策ができない」
「了解です。全種類の薬を持ってきました!」
「セレスは、どうする?」
セレスがトワの肩に座っている。まだ少し疲れが残っている。昨日は氷河の中で丸一日月光を出していた。
「セレスはトワといく。さいごのひは、いっしょ」
「肩の上で休んでいろ。無理に月光を出さなくていい」
「やすむ。でも、いっしょにいる。さいごのしゅんかんは、トワのかたのうえで」
「じゃあ……一緒にいるか」
全チームが各エリアに散開した。トワとタマキとセレスは七色列車に乗った。最後のリレーが始まる。
◇
午前八時。火のエリア。
ゼクスとアストレアが溶岩帯の入口で待っていた。
「こっちだ。ルートは確保してある。溶岩の安全帯を通って最奥の洞窟まで一本道だ」
ゼクスが先導し、トワが走った。調査済みのルートだから迷う必要がない。モンスターはアストレアが聖剣で蹴散らしてくれる。トワは歩くことだけに集中できる。
「鎧のまま、溶岩帯を走ってくれてるのか」
「聖騎士の鎧は最後まで脱ぎませんからね。……あ、矜持ですよ」
「忘れてたろ、いま」
「忘れてません」
火のエリアの残り0.4%を二時間で踏破。
【火のエリア踏破率:100%】
「火は終わった――次だ」
七色列車で水のエリアへ。
午前十時。水のエリア。
ダリオとマリドゥスが湖岸で待っていた。
「乗れ! 最深部の小洞窟群まで一気に運ぶぞ!」
マリドゥスの鯨エスコートで深層に直行。深潜薬を飲み、ダリオの航海士が先導する水路を走り抜けた。調査済みの洞窟を順番に。
水のエリアの残り0.6%を二時間で踏破。
【水のエリア踏破率:100%】
午前十一時半。光のエリア。
ハルが氷河地帯の入口で待っていた。
「師匠。セレスちゃんが昨日マークしてくれた地点を順番に回るルートを作りました。最短で一時間半です」
セレスのマークが正確だったおかげで、歩くだけで済む。ハルが先導し、モンスターを旅人の集いのメンバーが処理してくれる。
光のエリアの残り0.8%を一時間半で踏破。
【光のエリア踏破率:100%】
「セレス、聞いたか。お前のマークで光のエリアが終わったぞ」
「きいた。えへへ。セレスのマーク、やくにたった」
残り──虚空のエリア1.2%。
正午。七色列車で虚空のエリアへ。
ルーナからチャットが来ない。朝から、先行調査に出ているはずだが……。
トワ;「ルーナ。ルートのマークはできたか」
五秒。十秒。返事がない。
トワ:「ルーナ?」
二十秒後。
ルーナ:「ごめん。遅れてる。0.9%分のルートはマークしたけど、残り0.3%の区画に入れない。壁があるの」
トワ:「壁? 虚空のエリアに壁は観測されていなかったが」
ルーナ:「地震で地形が変わった。昨日までなかった壁が、今朝の地震で隆起してできた。高さ二十メートルの岩壁。影で越えられない。影が伝える面がない。つるつるの垂直壁」
地震で地形が変動した。昨日は地震が踏破を助けたが、今日は妨げている。
トワ:「分かった、俺が行く」
七色列車で虚空のエリアに向かった。タマキとセレスを連れて。
到着。灰色の平原の東端。ルーナが壁の前に立っていた。全身で出ている。虚空のエリアは夜に近くはないが、壁の日陰に立っている。
「この壁か」
二十メートルの岩壁。つるつるの表面。手がかりがない。全属性解析でスキャンした。
「岩盤が地震で垂直に隆起している。表面が摩擦係数ゼロに近い。ロープの引っかかりもない」
「登れないの。わたしの影も、壁に影がないから伝えない」
「登らなくていい。壁を越えるんじゃではなて、壁を通るんだ」
「壁を……通る?」
全属性解析で壁の内部構造を読んだ。岩盤は均一じゃない。隆起の過程で内部に空洞ができている。地震の力で岩が割れて、内部にトンネル状の隙間が。
「壁の内部に空洞がある。地上三メートルの位置に、人が通れる大きさのトンネルがある。入口は壁の裏側にあるが、こちら側にも薄い部分がある。厚さ四十センチ。物理で割れる」
「四十センチの岩を、割るんですか!?」
「タマキ。蠍殺しの団子の応用で、岩を内部から割れないか」
「岩に食べさせるわけにはいかないので、別の方法で。岩の成分をスキャンしてください」
スキャンした。岩の成分データをタマキに送った。
「土属性の岩盤、水を含む成分が17%。水の部分を凍結させれば膨張して岩が割れます。碧湖の深潜薬の成分を逆転させた凍結薬を作ります」
「作れるか」
「三分ください」
タマキがその場で調合した。深潜薬の成分を反転。水圧に耐える薬から、水を凍結させる薬へ。
【タマキが新レシピ「凍裂薬」を開発しました!】
「できました! 岩の隙間に流し込めば、内部の水分が凍って岩が割れます!」
岩壁の薄い部分に凍裂薬を流し込んだ。三十秒。岩の内部からぴしっという音。ひびが走る。ばきっ。岩が内側から割れた。
トンネルの入口が開いた。
「通れる。行くぞ」
トンネルをくぐった。壁の向こうに出た。灰色の平原が続いている。残り0.3%の区画。
「ルーナ。先に影で走ってルートをマークしろ。俺がすぐ後を追って歩く」
「了解。マークしていく」
ルーナが影を伝って飛び出した。壁の向こうの平原を紺色の気配が疾走していき、地面にマークを残していく。トワとタマキがその後を走る。ルーナがマークしたルートの上を、トワの足が踏んでいく。
二十分後。
ルーナ:「マーク完了。全ルート出した」
トワがルーナのマークを追いかけて走り終えた。
【エルシオン踏破率:99.7%】
「99.7%。残り0.3%はどこだ」
見聞録で残りの未踏破区画を検索した。灰色の平原のごく一部。ルーナが通過した区画の、ほんの端。幅十メートルの細い帯状のエリアが塗り残されている。
「ここだ。ルーナのマークが直線だったから、俺もそのまま直線で走った。曲がった地形の端を踏めていない」
「ごめん。マークが大雑把で」
「謝るな。最後は足で丁寧に塗る。俺が歩く」
帯状のエリアに足を踏み入れた。十メートル幅。距離は三百メートル。灰色の平原。何もない場所。
歩いた。
一歩ごとに踏破率が上がる。99.71%。99.72%。99.73%。
セレスが肩の上にいる。タマキが後ろを歩いている。ルーナが影の中から見守っている。
99.8%。99.9%。
最後の一歩。
【エルシオン踏破率:100.0%──達成】
システムメッセージが画面全体に表示された。
【おめでとうございます。あなたはエルシオンの全てを歩きました】
【「臍の結晶」が起動しました。大湖アルケオンの心臓への道が開かれます】
【称号「大陸を知る者」を獲得しました】
「100%」
セレスが肩の上で小さく拍手した。
「トワ。ひゃくぱーせんと」
「ああ……100%だ」
「やった。ぜんぶ、あるいた」
「全部歩いた。全員で」
タマキが涙ぐんでいた。
「やっと、終わりましたね……長かった踏破作戦が」
「いや、まだ終わっていない。踏破は終わったが、本番はこれからだ。【大湖の心臓】に向かう」
「……そうでした、まだ終わりではありませんね」
全チームにメッセージを送った。
トワ:「踏破率100%達成。全チーム、大湖アルケオンに集合。これからエルシオンの心臓に向かう」
ハル:「やりました──!!」
ゼクス:「了解。直ちに向かう」
アストレア:「聖騎士の矜持にかけて──やりました!」
ダリオ:「大湖で待ってるぞ! 船を出す!」
ルーナ:「おわった。わたしも、いく」
臍の結晶が脈打っている。二十九・四秒。まだ間に合う。
エルシオンの空にオーロラが揺れている。速いリズムで。大陸が鼓動している。
心臓が、待っている。