軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

[夜明け前]

踏破作戦二十八日目。踏破率97.1%。

残り3%を切った。あと二日あれば届く。だが心拍は加速を続けている。

【エルシオンの心拍:現在29.4秒周期】

三十秒を割った。地震の頻度が増している。一日に数回、大地が揺れる。調和の里の建物にひびが入り始めている。

夜。調和の里。全チームが集合して最後の作戦会議。

「残り3%の内訳。光のエリア0.8%。虚空のエリア1.2%。水のエリア0.6%。火のエリア0.4%。合計3%」

「明日と明後日で片付けます」ハルが宣言した。

「いや――明日一日で、終わらせる」

全員がトワの顔を見つめた。

「一日で、ですか? 残り……3%を」

「心拍が29秒台に入った。明後日まで待てない可能性がある。二十五秒を切れば半覚醒だ。加速度から計算すると、二十五秒に達するのは約三日後。だが、加速は一定じゃない。急に速まる可能性もある」

「余裕がない、ということですね」

「だから明日、全チームが残りの未踏破エリアに全力で突入する。一日で3%を踏破して、その足で【大湖の心臓】に向かう。――全員、今夜はしっかり休め。明日が最終日だ」

全員が宿に戻った後、トワは一人で広場にいた。

夜のエルシオン。オーロラが揺れている。以前より速いリズムで。大陸の鼓動に合わせて。

ルーナが影から出てきた。夜空の下なら、出ていられる。

「トワ……眠らないの?」

「もう少し、考えたいことがある」

「何を考えてるの」

「明日の段取りだ。3%を一日で踏破するには全チームの最適配置が必要になる。見聞録のデータで残りの未踏破エリアを分析して、各チームのルートを設計している」

「トワはいつも、みんなのために考えてる」

「みんなのためじゃない、全体の効率を最適化しているだけだ」

「同じだよ。みんなが一番うまく動けるように考えるのは、みんなのことを考えてるってこと」

空を見上げた。七色のオーロラ。星。月。ルーナの紺色の髪がふわふわと風に揺られてる。

「ルーナ。お前は闇のエリアを八日で100%にした。今回の踏破作戦で、一番多くの面積を歩いたのはお前だろう」

「わたしは夜の精霊だから。暗い場所なら速く動ける。当たり前のことをしただけ」

「当たり前のことを、当たり前にやるのが一番難しい」

「トワに言われると重いなあ。七千時間、当たり前に歩き続けた人に」

二人で夜空を見ていた。セレスは宿で寝ている。氷河の作業で疲れていた。テンはブーツの上で眠っている。穏やかな光。

「トワ」

「なんだ」

「明日、心臓に触れたら、エルシオンと話すんでしょ。ソレイスが言ってた。大陸獣に『もう少し眠っていてくれ』って」

「ああ。対話だ」

「うまく伝わるかな」

「わからない。だが、伝える言葉は見つけてある」

「どんな言葉」

「まだ言わない。心臓の前で言う」

「秘密?」

「秘密ではない。その場で言うべき言葉だから、先に言うと軽くなる」

「トワらしい。言葉を大事にする人」

「言葉が大事なのではない。言う相手と場所が大事なんだ」

「……ますますトワらしいね」

ルーナがくすくすと笑った。

「ルーナ。明日、虚空のエリアの残り1.2%分を先行調査してくれ。ルートをマークしたら俺がすぐ後を追って歩く」

「わかった。朝一番に出て、午前中にルートを全部マークする。トワが追いついてきたらガイドする」

「虚空のエリアは先行調査が一番遅れている場所だ。お前の索敵がなければ俺が一から探すことになる」

「任せて。闇のエリアほど速くは動けないけど、虚空は二回目だから地形を覚えてる。影の通路も前回通ったルートが使える」

「頼む」

「任された。おやすみ、トワ」

「おやすみ」

ルーナが影に戻った。夜空の下から、足元の影の中に。

トワは広場に一人残った。見聞録のデータを最終確認している。明日のルート。全チームの配置。最短で3%を踏破して大湖に向かうための計画。

臍(へそ) の結晶が手の中で脈打っている。二十九・四秒。

明日で全てが決まる。