作品タイトル不明
[地震]
踏破作戦二十六日目。踏破率93%。
朝、ログインした瞬間に異変を感じた。地面が揺れている。微震。立っていられないほどではないが、足の裏に伝わる振動が止まらない。
【警告:エルシオン全域で地震が観測されています】
【エルシオンの心拍:現在30.2秒周期】
「三十秒を切りかけている……表層への影響が始まった」
調和の里の建物がきしんでいる。NPCたちが広場に出てきた。ルトヴィアが水晶の前に立っている。水晶の七色が不安定に明滅していた。
「旅人。時間がないぞ」
「わかっている。あと7%だ」
チャットが一斉に飛んできた。
ダリオ:「トワ! 大湖で津波が起きた! 船が三隻転覆した! けが人はいないが、水中探索が中断されてる!」
ゼクス:「土のエリアで落石。山脈の一部が崩れた。ガロンが岩を押さえてくれているが、長くは持たない」
ハル:「風のエリアは突風が異常に強くなってます。翠風の衣薬を飲んでも立ってられません。一時撤退します」
各エリアで環境が悪化している。心拍の加速が大陸の表層を不安定にしている。踏破作戦の進行が遅れる。トワはチャットを送った。
トワ:「全チーム、安全を最優先に。無理な踏破は中止。環境が安定するまで待機しろ」
ハル:「待機ですか、師匠。でも、時間が」
トワ;「死んだら踏破率は上がらない。生きて戻ることが、最優先だ」
三十分後。地震が収まった。だが完全に止まったわけではない。断続的に微震が続いている。次の大きな揺れがいつ来るかわからない。環境が不安定な状態での踏破は、リスクも高い。
セレスからチャットが来た。
セレス:「トワ。こおり、われた」
トワ:「割れた? 氷河が?」
セレス:「じしんで、こおりにひびがはいった。とけてないところが、じしんでわれた」
トワ:「地震で氷河にひびが入った……月光で溶かすより速いな。中のエリアが露出したのか」
セレス:「うん。いっぱいみえる。あたらしーばしょ。でも、おおきいかたまりがおちてきそうでこわい」
トワ:「動くな、氷の破片が落ちてくる危険がある。今すぐ安全な場所に避難しろ」
セレス:「あんぜんなばしょ、ない。ぜんぶこおりだから」
トワ:「ソレイスの領域だろう。ソレイスを呼べ、獣王なら氷の崩落を防げる」
セレス:「よぶ。──ソレイス、きて」
セレスが獣王召喚を使った。光の獣王ソレイスが氷河地帯に出現し、光のオーラで崩れかけた氷を支えた。セレスが安全に退避できた。
トワ:「セレス。無事か」
セレス:「ぶじ。──ソレイス、ありがとう」
ソレイス:「気にするな。月の精霊を失うわけにはいかない」
地震は災害だが、氷河を割ったことで光のエリアの踏破が加速する可能性がある。月光で溶かす手間が省けた箇所がある。
トワ:「セレス。氷河のひび割れで露出したエリアのデータを送れ。地震が収まった隙に踏破できる場所があるかもしれない」
セレス:「おくる。──トワ。こわかったけど、がんばる」
トワ:「偉い。でも、絶対に無理はするな」
セレス:「むりしない。でも、やれることはやる」
データが届いた。氷河のひび割れで露出した区画は三箇所。合計すると光のエリアの踏破率が4%分に相当する。地震の前は光のエリアが85%だったが、ひび割れで新エリアが露出し、そこを歩けば89%に跳ね上がる。
「地震が踏破を助けるなんて、皮肉な話だな」
「師匠……災害を利用するんですか」ハルがチャットで聞いた。
「利用するんじゃない、起きたことに適応するだけだ。環境が変わったなら、変わった環境に合わせて、計画を修正する。旅人の基本だ」
各チームに修正指示を出した。
地震で崩れた場所に新しいルートが生まれている。山脈の落石で洞窟の入口が開いた場所がある。津波で大湖の水位が変動して、一時的に浅くなった深層区画がある。
災害を踏破の機会に変える。環境適応。七千時間の旅で培った、最も基本的な能力。
【エルシオン踏破率:93%→94.8%(地震による地形変化を反映)】
一日で1.8%。地震がなければ1%以下だったはずの日に、環境変化を活かして倍近く稼いだ。
「あと……5.2%」
手の中の臍の結晶が脈打っている。三十・二秒。