作品タイトル不明
[氷河の下]
踏破作戦十五日目。踏破率58%。
光のエリア。白銀氷原の奥地。セレスが月光で氷河を溶かしている。
セレスの覚醒形態。銀色の鹿が、全身から月光を放射している。光のエリアでは太陽光を素材にして月光を増幅できるから、出力が通常の三倍。氷河の表面が溶けていく。
だが、氷河は厚い。百メートル級の氷の塊。月光で表面を溶かしても、中までは時間がかかる。
「セレス。ペースはどうだ」
「とけてる。でも、おそい。ぜんぶとかすのに、あとみっか」
「三日か……踏破の残り日数を考えると、余裕はないな」
「もっとはやくできる。でも、つかれる」
「無理はするな」
「むりじゃない。がんばる」
「頑張りすぎるなと言っている」
「トワは、いつもがんばりすぎてる」
「パーティーをまとめている以上、俺が頑張らないわけにはいかない」
「おなじ。セレスもトワとおなじだけがんばる。だから、とめないで」
セレスにそう言われると、何も返せない。
氷河の表層が溶けた部分から、下に空間が見えた。氷の下に洞窟がある。
「空間がある。氷河の下にエリアが隠れている」
溶けた隙間から中に入った。トワとセレスの二人。
氷河の下は別世界だった。天井が氷で、光を通す。青白い光が洞窟全体を照らしている。壁に結晶が生えている。七色の結晶。星鋼の原石と同じ光沢。
「星鋼の鉱脈だ。氷河の下に眠っていた」
【隠しエリア「氷下の星鋼洞」を発見しました!】
【エルシオン踏破率:58.4%】
「鉱脈の規模が大きい。火のエリアの火山で見つけた原石の十倍以上ある」
「トワ。これ、みんなにおしえる?」
「教える。【星鋼】はプレイヤー全体の装備水準を上げる素材だ、独占する理由がない」
「トワはいつも、わけあう」
「分け合った方が、全体が強くなる。全体が強くなれば、次の戦いが楽になる」
鉱脈のデータを見聞録に記録した。ハルがフォーラムに書けば、鍛冶師プレイヤーが殺到するだろう。
洞窟の奥に進んだ。鉱脈の先に、広い空間。天井が高い。氷の天井から光が降り注いでいる。
空間の中央に、光の獣王ソレイスがいた。
金色の獅子。全身から光のオーラを放っている。立っているだけで洞窟が明るい。
「ソレイス。ここにいたのか」
「旅人か……わたしの領域の奥深くまで来たな」
「氷河を溶かして入った。月の精霊の力で」
ソレイスの金色の瞳がセレスを見た。
「セレスティア。お前の月光で氷河を溶かしたのか。月の力で氷を溶かせるとは思わなかった」
「とかせる。セレスのつきは、あったかいつき」
「温かい月……ははっ、面白い精霊だ」
ソレイスが首を動かした。
「旅人。お前に伝えることがある。大陸の心拍が加速しているのは知っているな」
「知っている。 臍(へそ) の結晶も入手した」
「ならば知っておけ。【心臓】に到達した時、お前はエルシオンと対話することになる」
「対話――【大陸獣】と話すのか」
「エルシオンは眠っているだけだ、悪意はない。目覚めれば背中のものを振り落とすが、それは寝返りを打つようなものだ。意図的に破壊するわけではない」
「寝返りでも、上に乗っている者は吹き飛ぶだろう」
「だから、対話が必要だ。【心臓】に触れた者は、エルシオンの意識と繋がる。その時、エルシオンに『もう少し眠っていてくれ』と伝えるんだ」
「伝えるだけでいいのか?」
「伝え方が問題だ。お前が大陸の全てを知っている必要がある。全エリアを歩き、全ての地形を知り、全てのNPCと話し、全てのモンスターを見た者でなければ、エルシオンはお前の言葉を聞かない」
「大陸のことを何も知らない者が『眠っていてくれ』と言っても、エルシオンは信用しないのでは」
「その通りだ。踏破率100%が条件なのは、そのためだ。大陸を完全に知った者だけが、大陸と対話できる」
「旅人の仕事だな。歩いて、記録して、知る。知った上で対話する」
「お前ならできる。わたしはそう信じている」
【ソレイスの友好度が上昇しました──友好度:12/15】
「ソレイス。ありがとう」
「礼には及ばない。お前がわたしを解放してくれた時の借りは、まだ返しきれていない」