作品タイトル不明
[深潜]
踏破作戦八日目。踏破率36%。
残るは各エリアの奥地。アクセスが困難な場所ばかりだ。特に水のエリアは大湖の深層部分が大きく未踏破のまま残っている。ダリオの航海士チームでも、深度三百メートル以下は潜水時間の限界があって、長く滞在できない。
トワ:「ダリオ、水のエリアの踏破率が伸び悩んでいるな」
ダリオ:「すまん。深いところは一回の潜水で踏破できる範囲が狭いんだ。深潜薬の効果時間が二時間だから、往復の移動時間を考えると作業時間が四十分しかない」
トワ:「四十分では足りないか」
ダリオ:「足りない。深度四百メートル以下の地形が複雑すぎる。洞窟と水路が入り組んでて、一回の潜水で100メートル四方しか踏破できない」
トワは考えた。
「効率を上げる方法を考えるべきか……タマキ、深潜薬の効果時間を延ばせないか」
「今の素材だと二時間が限界です。でも、マリドゥスの加護で水中のスキャン範囲が倍になってるから、スキャンの効率は上がるはずです」
「スキャンの効率が上がっても、実際に歩いてデータを取得しないと踏破率には反映されない」
「歩かないとダメですか」
「ダメだ。BCOの踏破率はプレイヤーが実際にそのエリアを通過することで計上される。遠隔スキャンでは踏破にならない」
ここが全属性解析の限界だった。見聞録でどれだけ遠くをスキャンしても、踏破率に反映されるのは、プレイヤーが足を踏み入れた場所だけ。
「足で歩くしかない。深度四百メートル以下を効率的に歩く方法が要る」
マリドゥスを召喚した。今日一回目の召喚。
碧い鯨が大湖に現れた。四十メートルの巨体が水面を割る。
「マリドゥス。頼みがある。お前の体内に人を乗せて、深層を移動できないか」
「体内に?」
「お前の身体は、半透明の水で構成されている。内部に空間を作れるなら、人をその中に入れて深層まで運べる。移動時間を大幅に短縮できる」
マリドゥスが考えた。鯨が考えると、水面全体が揺れる。
「可能だ。わたしの体内に気泡を作れる。呼吸もできる。ただし、一度に運べるのは五人までだ」
「五人で十分だ。ダリオの航海士五人を深層に直接運んでくれ。移動時間がゼロになれば、二時間まるまる踏破に使える」
この一連の情報を、トワはダリオに送った。
ダリオ:「鯨タクシー! 最高だな!」
「鯨タクシーと呼ぶな」マリドゥスが不満そうに言った。
「じゃあ、何て呼べばいいんですか?」タマキが問いかける。
「【淵鯨の護送】――第三位階にふさわしい名だ」
「クジループとかどうでしょうか」タマキが提案した。
「それも微妙だが、タクシーよりはましだな」トワが相槌を打った。
マリドゥスの体内に、航海士五人が入った。気泡の中。鯨の身体を通して外の景色が見える。碧い水の中を、巨大な鯨が猛速度で深層に向かって潜っていく。
「速いですね! 深度二百メートルを、一分で通過しました!」
「鯨の潜水速度で移動すれば、深度四百メートルまで三分だ。これまで往復一時間かかっていた移動が、六分で終わる」
「作業時間が四十分から一時間五十分に! 四倍以上だ!」
深層の踏破が加速した。マリドゥスが一日三往復して航海士チームを深層に運ぶ。踏破率が日に日に伸びていく。
水のエリアの深層から、新しい発見があった。
深度四百五十メートルの洞窟群。古代の水中都市の遺跡。アストラムのアビスと似ているが、規模が違う。
ダリオ:「トワ! 水中都市があった! アビスよりでかい! 建物が百棟以上!」
トワ:「データを送れ。全属性解析で詳細を読む」
送られてきたデータを解析した。水中都市はエルシオンの古代文明の遺跡だった。建物の壁に七属性の紋章。『調和の里』と同じ様式。
「この都市は、『調和の里』の前身だ。古代の長老たちが大湖の中に作った水中の拠点……ルトヴィアの先代たちが住んでいた場所かもしれない」
「お宝がありそうだな!」
「宝よりも重要なものがある。大陸の心臓に近い場所に古代の拠点があるということは、心臓へのアクセスルートがこの都市の中にある可能性が高い」
心臓への道。踏破率100%の達成と同時に、心臓に到達する経路も確保できるかもしれない。
「ダリオ。この都市の全区画を踏破しろ。優先度最高でだ」
ダリオ:「了解! 航海士の腕の見せ所だ!」