作品タイトル不明
[罠]
踏破作戦五日目。エルシオン踏破率29%。
順調に進んでいる。ルーナの闇エリア踏破が圧倒的に速く、既に闇エリア単体では踏破率72%に達している。他のチームも着実にマップを埋めている。
だが、問題が起きた。
風のエリアでハルのチームが動けなくなった。トワは直ぐに現場に向かった。
ハル:「師匠。助けてください」
トワ:「何があった」
ハル:「翠嶺の高原の東側に洞窟があったので入ったんですけど、入口が閉じました。中から出られません。旅人の集いのメンバー八人と、一緒に閉じ込められてます」
トワ:「閉じ込められた? さては、罠か」
ハル:「罠です。入口に足を踏み入れた瞬間に石の扉が落ちました。扉は物理で壊せません。見聞録でスキャンしたんですけど、扉の厚さが三メートルあります」
トワ:「けが人は?」
ハル:「いません。全員無事です。空気もあります。ただ出口が見つからなくて」
トワ:「洞窟の内部構造をスキャンして送れ。俺の全属性解析で外側からも読む。両方のデータを重ねれば、抜け道が見つかるかもしれない」
ハルのスキャンデータが送られてきた。トワは土のエリアから七色列車で風のエリアに向かいながら、データを解析した。
洞窟の構造。天然の洞窟ではない。人工的に掘られている。壁に紋章がある。見覚えのある紋章。
「この紋章は、『調和の里』の旧市街にあったものと同じだ。古代の建築……罠つきの」
七色列車を降りた。翠嶺の高原の東側。問題の洞窟。外から全属性解析を起動した。
【洞窟構造スキャン完了。内部は三層構造。ハルたちは第一層にいます】
【第二層に下降通路あり。第三層に出口が存在します】
【ただし第二層への通路は隠されています。壁面の特定箇所を押すと開きます】
トワ:「ハル。壁の北側、入口から七メートルの位置。地面から1.2メートルの高さに、周囲と密度が違う石がある。それを押せ」
ハル:「見つけました。押します」
……ゴゴゴという音が、扉越しに聞こえる。壁が動いている。
ハル:「開きました! 下に通路が……師匠、すごいです!」
「降りろ。第二層を通って第三層に出口がある。ただし第二層には罠がある可能性が高い、慎重に進め」
ハル:「第二層に入りました。通路が二本に分かれてます。左と右……どっちでしょうか?」
外からのスキャンでは第二層の内部構造は読みきれない。岩盤が厚い。
トワ:「俺のスキャンでは判別できない。お前の見聞録で読め」
ハル:「わたしの見聞録の精度では、両方とも同じに見えます」
トワ:「同じに見えるなら、別の方法で判断しろ。空気の流れはどうだ」
ハル:「空気。えっと……左の通路からは、微かに風が……右からは、風がないです」
トワ:「風がある方が、出口に繋がっている。外気と通じている証拠だ、左に行け」
ハル:「左に進みます。あっ、床に文字が刻まれてます!」
トワ:「読めるか」
ハル:「読めます――『試される者よ、風の声を聞け。風は嘘をつかない』」
トワ:「風の声を聞いたな、正解だ。そのまま進め」
五分後。
ハル:「出口が見えました! 外の光が! 出られます!」
洞窟の裏側に出口があった。ハルたちが這い出てきた、八人全員無事だ。
「師匠! ありがとうございます!」ハルが走ってきた。
「礼は要らない。お前が空気の流れに気づいたから出られた。俺は外からヒントを出しただけだ」
「でも……隠しスイッチの位置は、師匠の指示がなければ」
「それはそうだが、二層目の分岐はお前が自分で判断した。見聞録で読めない状況で、五感を使って正解を導いた。――合格だ」
「合格……師匠に、合格って言われました!」
「導師なら当然の判断力だ。特別なことじゃない」
「特別ですよ……わたしにとっては」
ハルの目が潤んでいる。今にも泣きそうだ。
「おい待て、これくらいのことで泣くな」
「泣いてません。風が目にしみただけです」
「風のエリアだからな。目にしみるだろう」
「はい。風のせいです、絶対に」
風のせいではなかったが、トワはあえて言及しなかった。
◇
閉じ込められた洞窟は、古代の試練場だったことが判明した。ハルのチームが踏破データを取得したことで、風エリアの踏破率が5%上がった。罠に引っかかった結果、未発見のエリアを丸ごと踏破したことになる。
「罠に引っかかって、踏破率が上がるとはな」
「結果オーライです」ハルが胸を張った。
「結果オーライを誇るな」
「えへへ……これからも、たくさん歩かないとですね」
「頑張れ。歩く気持ちがあるのなら、応援する」
「歩きますよ、導師ですからね!」