軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

[遺跡の鍵]

光のエリア。白銀氷原の奥地。

以前発見した『煌陽の遺跡』の内部を、改めて探索していた。壁画の「世界を編む者」の情報が気になっている。

遺跡の奥に、扉があった。前回は見落としていた。壁と同じ色で、見聞録を通常出力で使っていた時には検知できなかったが、全属性解析で壁の材質の微妙な差異が検出された。

「隠し扉だ。壁と同じ素材だが、密度が2%低い。構造的に開閉する仕組みがあるはずだ」

「どうやって、開けるんですか」

「鍵穴がある。この形は」

鍵穴のスキャンデータを見聞録で解析した。形状が特殊だ。丸でも四角でもない。七角形。

「七角形の鍵穴。七つの辺がそれぞれ異なる長さで、角度も不均一。特注の鍵がないと開けられない」

「その鍵は……どこに……」

「わからない。だが七角形は七属性の象徴だ。七つの属性に関連した場所に鍵があるかもしれない」

ゼクスが鍵穴を覗き込んだ。

「ピッキングはできないか? 暗殺者のスキルに、ロックピックがある」

「試してみろ」

ゼクスが道具を取り出して鍵穴に差し込んだ。三十秒。

「駄目だ――内部構造が複雑すぎる。通常のロックピックでは届かない」

「見聞録で内部構造をスキャンする」

全属性解析を鍵穴の内部に向けた。構造が浮かび上がる。

「七重の回転機構。それぞれの層が異なる属性のエネルギーで動く。物理的な鍵ではなく、七属性のエネルギーを正しい順序で注入すれば開く」

「七属性を正しい順序で。順序はわかりますか」

「鍵穴の内部に刻印がある。火、水、風、土、光、闇、虚空の順ではなく......」

見聞録で刻印を拡大した。微細な文字が内壁に刻まれている。

「生まれた順だ。虚空が最初。次に闇。夜。光。土。水。風。最後に火。世界が生まれた順番で属性を注入する」

「世界が生まれた順番って、どこに書いてあったんですか」

「世界の記憶庫の壁画だ。234話で見た壁画に、属性が生まれた順番が描かれていた。虚空から始まり、最後に火が生まれた」

「あの壁画がここで活きるんですか。記録しておいてよかった」

「記録は全て活きる。何が役に立つかわからないから、全てを記録する。見聞録の基本だ」

七属性のエネルギーを注入する。だが、トワ一人では全属性を出せない。

「セレス。月光を」

「うん」

「ルーナ。夜の力を」

「わかった」

「アストレア。聖属性の光を」

「はい」

「ゼクス。影を」

「影は闇とは別だが、闇に近い属性として使えるか」

「そこでルーナの夜を使う。鍵穴の構造上、闇の代替として夜と影で機能させる。純粋な闇ではないが、影と夜の複合属性でシステムを騙し、閾値を超えれば認識されるはずだ」

「流石の案だな……了解」

「タマキ。虹の薬を使う。一本消費するが、虚空の属性を出せるのは虹の薬だけだ」

「了解です。残り十九本、大事な場面で使います」

「火と水と風と土は、ダリオの航海士チームから属性持ちを借りてきた。後ろに待機している」

後方にダリオが四人のプレイヤーを連れて立っていた。

「準備はいいぜ、トワ!」

全員が鍵穴の周囲に配置についた。世界が生まれた順番で、一つずつ属性を注入する。

「始める。まず虚空」

トワが虹の薬の力を鍵穴に注いだ。透明な光が鍵穴に吸い込まれる。第一層の回転機構が動いた。

「次、闇」

ゼクスとルーナが影と夜のエネルギーを注入。第二層が回転。

「光」

アストレアの聖剣が輝き、光が第三層に。

「土、水、風、火」

ダリオのチームが順番に属性を注入していく。第四層、第五層、第六層、第七層が回転する。

七つの層が全て回転し、同時に停止した。

扉が開いた。

【煌陽の遺跡・奥殿が開放されました!】

奥殿に入った。広い空間。天井に光の結晶が無数に浮かんでいる。星空のような光景。

中央に台座。台座の上に、本が一冊置かれていた。

「本。見聞録で読める」

本を手に取った。表紙に文字。

【「七柱の記録」】

【著者:第一代調和の長老】

「第一代の長老。ルトヴィアの遥か前の、最初の長老が書いた本だ」

ページを開いた。

【「七体の獣王は世界を守る柱である。だが柱だけでは世界は立たない。柱を繋ぐ 梁(はり) が要る。梁の役割を果たすのは、世界を歩く者。旅人である」】

「柱と梁。獣王が柱で……旅人が梁」

【「柱は動かない。 梁(はり) は動く。動かない柱を、動く 梁(はり) が繋ぐ。これが調和の本質である」】

【「故に、旅人が歩くことを止めれば、調和は崩れる。世界を歩き続ける旅人がいる限り、世界は保たれる」】

旅人が歩き続けることが世界を保つ。石碑の序列の第六位階の定義と一致する。『旅する者。世界を歩き、記録し、変える者』」

「師匠……これは世界設定の核心に触れてますよ」

「ああ。BCOの世界は旅人が歩くことで維持されている。ゲームの設計思想そのものだ」

本の最後のページに、もう一つ記述があった。

【「この書を読みし旅人に、七柱の加護を与える」】

【「七柱の記録」の加護を受けました!】

【効果:全獣王の召喚が一日二回に拡張されました】

【効果:獣王との友好度上限が10/10から15/15に拡張されました】

「獣王の召喚が一日二回に……友好度の上限も上がった」

「やった。オルグレンを、いちにちにかいよべる」

「お前は、オルグレンの背中に乗りたいだけだろう」

「のりたい。ふわふわ」

「それは尻尾だ。背中はふわふわではない」

「せなかもふわふわ。しっぽは、もっとふわふわ」

「ふわふわの度合いは聞いていないぞ」

遺跡の奥殿を後にした。七角形の鍵を開けたことで、エルシオンの世界設定の根幹に触れた。旅人が歩くことが世界を保つ。だが大事なことは変わらない。歩くこと。記録すること。仲間と進むこと。

それが旅人の仕事だ。昨日も今日も、明日も。