作品タイトル不明
[名物]
エルシオン探索。土のエリア「 剛山(ごうざん) の連峰」。
岩だらけのエリアだ。見渡す限りの山脈。道がない、獣道すらない、岩肌を直接登っていく。
「道が……ない、ですね……!」
ハルが岩に張り付いていた。
「師匠……これ、登山というよりロッククライミングじゃ……!」
「ロッククライミングだ。──BCOの山岳エリアに道があると思った方が間違いだ」
「アストラムの崖もありましたけど、あれはまだ足場がありました。ここは、垂直の壁ですよ」
「全属性解析で岩の硬度を読めば、手をかけていい場所がわかる。──ここと、ここ、ここだ」
トワが岩肌のスキャンデータをパーティ全員の視界に共有した。手をかけてよい場所が緑、危険な場所が赤で表示される。
「ゲームなのに、やってることが本格登山すぎる──!?」
セレスはトワの肩の上で何もしていない。重力に逆らう必要がない。精霊は飛べる。
「トワ。がんばれ」
「お前だけ楽だな」
「セレスはおーえんする。おーえんも、しごと」
「応援は仕事じゃない」
「しごと。──おーえんぶちょう」
「応援部長……いつ就任したんだ」
「いま」
ルーナは影で壁を伝っている。影があれば、垂直の壁も平面と同じだ。
「ルーナも楽そうだな」
「楽。影の中は重力がないから、上も下もないの」
「精霊二人が重力無視で、人間だけ岩にしがみついてる絵面がおかしいんですけど……!」
タマキが腕をぷるぷるさせながら言った。
アストレアは……鎧のまま登っている。重い。遅い。でも、落ちるわけにはいかない。
「アストレア。その鎧は、さすがに──」
ゼクスが言おうとすると、
「脱ぎません」
「いや、脱げとは言ってない。重くないかと、聞いているんだ」
「重いです。でも、脱ぐわけにはいきません。なぜならこれは、聖騎士の──」
「「「矜持ですよね」」」
全員が同時に言った。
「もう、なんで言わせてくれないんですか──!」
ゼクスだけがひょいひょいと登っている。暗殺者の身体能力。壁を三歩で駆け上がり、庇の上で待っていた。
「全く……遅いぞ、全員」
「お前だけ異常に速いんだよ」
「暗殺者は高い場所が好きだ。──獲物を見下ろす位置が安心するからな」
「あの人発言が怖いです、師匠」
「気にするな。いつものことだ」
山の中腹に──洞窟があった。
休憩がてら入ると、広い空間。中に──NPCがいた。
巨大なNPC。身長三メートル。岩のような肌。──ゴーレム? いや、生きている。土のエリアの亜人種。
【剛山の石人・ガロン NPC】
【友好度:0/10】
「トワ、あの人でっかい」
「旅人か……この山に来る者は珍しい。なにせ、他に道がないからな」
「道がないことは知っている。俺たちはここまで登ってきたんだ」
「登ってきた、か……根性があるな。たいていの旅人は、麓で帰る」
「麓で帰る旅人は旅人ではない」
「いいことを言う。──お前、腹は減っていないか」
「減っている」
「ならば食え。うちの名物だ」
ガロンが洞窟の奥から、何かを持ってきた。
岩。
拳大の灰色の岩が皿の上に乗っている。
「岩か」
「岩ではない、剛山の【石餅】だ。見た目は岩だが、中身は柔らかい。齧ってみろ」
トワが齧った。──柔らかい。外は石のような食感だが、中はもちもちしている。味は──鉱物。ほんのり金属的な甘さ。
「美味い……不思議な食感だ」
「土のエリアの固有料理だ。地底の鉱石を練り込んである。食べると──」
【剛山の石餅を食べました! 土属性耐性+5%(24時間)】
【さらに──DEF+15(24時間)】
「防御力が上がった。──岩を食べて防御力が上がるのか」
「岩を食べているのだから当然だろう」
「論理が脳筋だな」
セレスが石餅を見ている。
「トワ。セレスもたべたい」
「お前、岩を食べられるのか」
「たべてみないと、わからない」
「食べてから判断するのか」
セレスが石餅を齧った。──硬かった。精霊の小さな歯では外側が割れない。
「かたい──! あごが──!」
「言ったろう。精霊には硬いって」
「くやしー。ガロン、もっとやわらかいのない?」
ガロンが苦笑いした。三メートルの岩人が苦笑いする姿は、少し怖い。
「小さいのを割ってやろう」
ガロンが石餅を指先でパキンと割った。中身の柔らかい部分だけをセレスの前に置いた。
「これなら食えるか」
セレスが齧った。
「──おいしい! もちもち! ガロン、やさしー!」
「ガロンの友好度が一気に上がりそうだな」
【ガロンの友好度が上昇しました──友好度:3/10】
「セレスに石餅を分けただけで友好度3。──このNPC、精霊に弱いのか」
「弱くない。小さい者に優しいだけだ」
「ルーナも食べる?」
ルーナが影から手を出した。
「食べる。──もちもちの部分だけ」
ガロンがまた割った。影の中にもちもちの中身を落とした。
「……おいしい。石なのに」
【ガロンの友好度が上昇しました──友好度:5/10】
「精霊二人に餅を分けただけで友好度5。──ガロン。お前は精霊に弱いのか」
「弱くない! ──断じて弱くない!」
「弱いですね」ハルがメモを取った。「精霊系NPCへの感受性が高いタイプ。ガルドと同系統です」
「導師。記録するな」
「記録は導師の仕事ですから♪」
タマキは石餅の成分をスキャンしていた。
「この石餅──素材として使えます。鉱石の成分を練り込んであるから、土属性の調合素材になる。──ガロンさん、これ、レシピを教えてもらえませんか」
「教えてもよいが──友好度が足りない」
「いくつ必要ですか」
「8だ」
「あと3。──セレスちゃん、ルーナちゃん、もう一回可愛くして」
「かわいく、する?」セレスが首を傾げた。
「タマキ。可愛くしろと言われて、精霊は可愛くできるものなのか」
「セレスはいつもかわいー。セレス、いつもどーりでいー?」
「いつも通りでいいぞ」トワが言った。
セレスがガロンの膝の上に飛んでいって、座った。ガロンの巨大な膝の上に、手のひらサイズの精霊が座っている。
「ガロン。おもしろいおはなし、きかせて」
「話……? 俺は石人だ。面白い話など……」
「いしのおはなし、きかせて。このやまのこと」
ガロンが語り始めた。剛山の成り立ち。石人たちの歴史。かつて七体の獣王が集まって山を作った話。
セレスが目をキラキラさせて聞いている。ガロンが照れている。三メートルの岩人が照れている。
【ガロンの友好度が上昇しました──友好度:8/10】
「達成──! ガロンさん、レシピを──!」
「わかった、わかった。教える。……石人の料理を、人間に教えるのは初めてだな」
【新レシピ「剛山の石餅」を習得しました!】
「やった! 土属性の新素材……!」タマキが踊っている。
「お前、新レシピを覚えるたびに踊るな」
「踊りますよ、薬師ですから」
「薬師と踊りは関係ないだろう」
「あります。新しいレシピは薬師のお祭りです」
山を降りる前に、ガロンが全員に石餅を持たせてくれた。保存食として優秀らしい。三日間腐らない。
「ガロン。また来る」
「ああ。──小さいのも連れてこい」
「小さいの?」
「月と夜の精霊。──可愛かった」
ゼクスが呟いた。
「やっぱり精霊に弱いじゃないか……」