軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

[先客]

エルシオン。光のエリア【 白銀氷原(はくぎんひょうげん) 】。

一面の雪と氷。空気が澄んでいて、視界が果てしなく広い。太陽の光が雪に反射して、大地全体が白く輝いている。

「眩しいですね……綺麗な場所だとは聞いていましたが、これほどとは、思ってもいませんでした」

タマキがゴーグルを引っ張り出した。アストラムの砂漠で使ったものだ。

サングラス代わりにしている。

「光のエリアだからな。光属性のエネルギーが雪に蓄積されて、反射光が通常の三倍になっている」

「三倍ですか? 雪焼けどころの話じゃありませんね」

ルーナが影の中に完全に引っ込んでいた。

「ルーナ、大丈夫か」

「大丈夫じゃない。──明るすぎる。砂漠よりひどい。光が全方位から来るから、影を作る場所がないの」

「雪が光を乱反射するから、影が消える。──ルーナにとっては最悪のエリアだな」

「最悪。トワの影の中にいるから何とかなるけど。外には出られない」

「無理をするな。このエリアではお前は休んでいろ」

「休む……でも、トワの声は聞いてる」

「ああ、聞いていてくれ」

反対にセレスは元気だった。月の精霊は光のエリアで力が増す。月光は太陽光を反射した光だから、光の多い場所では素材が豊富になる。

「トワ。ここ、セレスのちからがつよくなる。ぴかぴか」

「角がいつもより光っているな」

「ぴかぴか。──うれしい。ルーナがつらそうなのは、かなしーけど」

「お前とルーナは対になっている。光が多い場所ではお前が強く、暗い場所ではルーナが強い。──エリアごとに主力が変わる」

「こうたいせーだ」

「交代制──そうだな」

氷原を歩いていると、前方にプレイヤーの集団が見えた。二十人ほど。装備が統一されている。ギルドだ。

「先客がいる」

「エルシオンに来てるプレイヤー、増えてますからね。メインクエストが終わったから、探索に来る人が増えてるのでしょう」ハルが言った。

近づくと、ギルドマスターらしき人物が振り返った。大柄な剣士。レベルは92。ギルド名は〈白霧の進軍〉。聞いたことがないギルドだった。

「おい──お前、もしかしてトワか?」

「ああ、トワだ」

「マジかよ……虚空龍のレイドのMVP、獣王を全部解放した旅人──本物か?」

「本物か偽物かは知らないが、俺はトワだ」

「このキザな返事の仕方……本物だ! おい皆──トワだ! あのトワが、ここにいるぞ!!」

ギルドメンバーが集まってきた。フレンド申請が一斉に飛んでくる。通知が画面を埋め尽くす。

「落ち着け。フレンド申請を、二十個同時に送るな」

「すみません! でも、トワさんに会えるとは思わなくて──俺ら、新大陸から始めた新規ギルドなんです! トワさんの攻略情報を参考にして──」

「ハルの実況スレか?」

「はい! 『トワ追跡レポート byハル』を全員で読み込んで、獣王の場所とか属性対策薬の情報とか──全部、あのスレのおかげで!」

ハルが誇らしげに胸を張った。「師匠。わたしの実況スレが後続プレイヤーのガイドブックになってます」

トワはなんとも言えない顔をした。

「お前のスレのせいで……俺の居場所が筒抜けじゃないか」

「情報は共有するものです。導師の──」

「仕事だろう。知っている」

〈白霧の進軍〉のマスターが言った。

「トワさん。この先の氷原の奥に──でかい遺跡があるんですけど、入口が凍りついてて入れないんです。何か、攻略法わかりませんか?」

「見ていないからわからない。──行ってみるか」

「マジですか!? トワさんと一緒に探索──!?」

「一緒にとは言っていない。見るだけだ」

「見るだけでも──! トワさんの見聞録で見るのと、俺らの目で見るのは全然違うんで──!」

二十人のギルドがトワのパーティの後ろをぞろぞろついてきた。合計二十七人の大行列。

「師匠、引率の先生みたいですよ」ハルが笑った。

「引率ではない」

「引率です。──小学校の遠足みたいに」

「遠足じゃない、探索だ」

セレスが肩の上から後ろを振り返った。二十人が列になってついてきている。

「トワ。おともだち、ふえた?」

「友達じゃない、通りすがりだ」

「とーりすがりが、にじゅーにんも、ついてくる?」

「……ついてきている。止められない」

「にんきもの」

「人気者じゃない」

「にんきもの。──セレスがしってる。トワはにんきもの」

「精霊の評価基準はよくわからないな……」

「セレスがただしー。だって、セレスはセレスだから」

口喧嘩で勝てる気がしなかったので、トワは頷くことにした。

氷原の奥。遺跡が見えた。

白い石造りの建物。屋根が円形のドーム。入口が完全に凍っている。氷の壁が入口を塞いでいる。厚さは──見聞録で計測、二メートル。

「氷の壁。厚さ二メートル。属性は──」

全属性解析。

【光属性の氷。通常の氷ではなく、光のエネルギーが結晶化したもの。物理的な破壊は可能ですが、破壊しても数秒で再生します】

「再生する光の氷……壊しても、直ぐに元に戻るそうだ」

「俺ら、三時間かけて叩いたんですけど、全然ダメでした……」

〈白霧の進軍〉のマスターが肩を落とした。

「三時間叩いたと──根気はあるな。だが、力で壊すギミックじゃない」

「だって、じゃあどうするんですか?」

トワは氷の壁を見つめた。見聞録のデータ。光属性の氷。光のエネルギーが結晶化。壊しても再生する。

「再生するということは、エネルギーの供給源がある。氷を壊すのではなく、供給源を断つ」

「……っ!」

全属性解析で遺跡全体をスキャンした。遺跡の構造。壁の中にエネルギーの流れが見える。氷の壁に光属性のエネルギーを供給しているラインが──屋根のドームから来ている。

「ドームが太陽光を集めて、光のエネルギーを氷に送っている。──ドームを遮れば、氷への供給が止まる」

「ドームを遮る──? どうやって!?」

「セレス。月光でドームを覆え。月光で太陽光を阻害するんだ」

「わかった、やる」

セレスが【覚醒形態】に変身した。銀色の鹿が月光を放つ。光のエリアの太陽光が素材になって、月光が通常の三倍に増幅されている。巨大な月光がドームを包み込んだ。

ドームが銀色に染まった。太陽光の取り込みが遮断される。氷の壁への供給が──止まった。

「今だ、壊せ」

「「「おおおおおおおおおお──!」」」

二十人のギルドメンバーが一斉に氷を攻撃した。今度は──再生しない。氷が砕けて、入口が開いた。

【光属性の封印を解除しました!】

【「煌陽の遺跡」に入場可能になりました】

「開いた──!!」

「トワさん、すげえ──! 三時間叩いてダメだったのが、五分で──!」

「力ではなく知識で解いた。──見聞録で構造を読んで、原因を断つ。旅人の戦い方だ」

「知識無双すぎるだろ!?」

「知識無双じゃない、見聞録の使い方だ。──お前たちも見聞録を持っていれば同じことができる」

「旅人じゃないと、見聞録は──」

「旅人でなくても、観察はできる。目で見て、耳で聞いて、考える。それが、俺の原点だ」

〈白霧の進軍〉のメンバーがメモを取り始めた。トワの言葉を。ハルが隣で「あ、弟子が増えてる」と呟いた。トワは聞かなかったことにした。

遺跡の中に入った。内部は──光の洞窟。壁全体が発光している。天井に星のような光点が無数に散らばっている。プラネタリウムのような空間。

「きれい──!」

壁に文字が刻まれていた。見聞録で翻訳。

【「この遺跡は光の獣王ソレイスが建てた記念碑である。エルシオンの七つの属性が初めて調和した日を記録する」】

「獣王が建てた遺跡──!」

壁画があった。七体の獣王が円形に並んでいる。中央にアルケイアの七色の鹿。その上に──見たことのない存在が描かれている。

翼を持つ人型。顔がないが……調律者とは違う。調律者は虚空で顔が消えていた。この存在は──最初から顔がない。存在の階層が違う。

「これは──何だ」

文字を読む。

【「調和の上に立つ者。世界を編む者。我ら獣王は仕える。この者が世界を保つ限り」】

「世界を編む者。──獣王よりも上の存在。第一位階──龍種か」

「龍種──【虚空龍ヴォイドレクス】の上位個体ということか」

「上位というか──本流。ヴォイドレクスは末裔だと石碑にあった。本流の龍がまだいるのかもしれない」

壁画の存在は翼を広げている。その翼の中に──世界が描かれている。大陸。海。空。全てが翼の中にある。世界を翼で包む存在。

「深淵に関係するのか。──カレンの師匠アルヴァが深淵にいる。深淵は世界の底。そして世界を編む者が龍種の本流。──繋がっているのか」

まだ答えは出ない。だが──考えることが一つ増えた。世界の構造の、もう一段深い層が見えた。

〈白霧の進軍〉のマスターが壁画を見上げて、ぽつりと言った。

「……BCOって、奥が深いんですね」

「ああ。──七千時間歩いても、まだ底が見えない。それがこのゲームだ」

遺跡を出た。氷原の白い光の中に戻る。セレスが覚醒形態から戻って、トワの肩にぽすんと着地した。

「つかれた」

「月光を三倍出力で使ったからな。──偉いぞ、セレス」

「えらい。──おやつ」

「さっき食べたばかりだろう」

「さっきのはさっきの。いまはいま」

「おやつに過去と現在の区別があるのか」

「ある。おやつは、いちごいちえ」

「一期一会の使い方が間違っているぞ」

「あってる。──おやつとのであいは、いちどきり」

トワは口論の敗北の印として、おやつを献上した。