軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

[全属性解析]

エルシオンのメインクエストが終わってから三日。

トワは調和の里を拠点に、大陸の探索を再開していた。踏破率はまだ低い。メインクエストの過程で闇・風・水のエリアを部分的に歩いたが、残りの火・土・光・虚空のエリアはほぼ未踏。大陸全体の九割以上が白紙のままだ。

だが……見聞録の性能が変わった。

アルケイアの加護で追加された【全属性解析機能】。これまでの見聞録は一度に一つの属性しか詳細解析できなかったが、全属性解析は七つの属性を同時に読み取れる。

「情報量が段違いだ。一回のスキャンで、七倍のデータが返ってくる」

火のエリアに足を踏み入れた。赤い岩肌。地面から熱気が立ち上っている。遠くに火山が見える。空が赤い。

見聞録を起動。全属性解析。

【火のエリア「 灼原(しゃくげん) の大地」──属性分布マップ生成中】

【火属性:82% 土属性:11% 風属性:4% 他:3%未満】

【地熱分布を可視化しました──安全ルートを表示します】

「地熱の分布が見える。高温帯を避けて歩けるルートが──ある」

「師匠。前は、一歩ずつスキャンして安全確認してましたよね。今は、一発で地図ごと出るんですか?」

ハルが目を丸くした。

「全属性解析は、環境全体を面でスキャンする。点のスキャンを七千時間やってきたが──面になると、世界が違って見える」

「チートじゃないですか」

「チートではない。七体の獣王を解放した報酬だ」

「報酬がチート級なんですよ」

安全ルートに沿って火のエリアを進む。耐熱薬は、アストラムの太陽の祭壇の時と同じものが使える。タマキの在庫管理が完璧で、エルシオン用にレシピを微調整した改良版が既に量産されている。

火山の麓に──集落があった。

【 溶炉(ようろ) の村を発見しました】

【エルシオン踏破率:4.2%】

「NPCの村だ。──鍛冶師がいる」

村に入ると、熱気の中で金槌を振るう音が響いていた。溶岩を利用した天然の鍛冶炉。NPC鍛冶師たちが、赤い金属を打っている。

「この金属──見聞録で読むと……」

【 星鋼(せいこう) ──エルシオン固有の最高位金属素材。七属性のエネルギーを含有。虚晶を超える強度と適応性を持つ】

「星鋼……アップデートの告知に書いてあった新素材ですね! ここで精錬されてたのですか」

新素材に、タマキが飛びついた。

「待て、触るな。これは溶けた金属だぞ」

「触りません! でも見たいんです、成分を分析したいんです!」

村の長が出てきた。大柄なNPC。腕が丸太のように太い。鍛冶師の体格。

「旅人か。──珍しいな。この火のエリアまで来る者は少ない」

【溶炉の村長・ヴォルク NPC】

【友好度:0/10】

「村長、星鋼について教えてほしい」

「星鋼とは、七属性を含む最高位の金属だ。虚晶より硬く、虚晶より柔軟。どんな属性の武器にも鍛えられる。──だが、精錬には条件がある」

「条件とは、なんだ?」

「七つの属性が、均衡していなければ精錬できない。属性のバランスが崩れた状態では──星鋼は【不純物】になる。まるで使い物にならない」

「七属性の均衡。──調和の水晶が修復された、今なら」

「ああ……水晶が修復されてから、初めて星鋼の精錬が可能になった。──お前たちのおかげだ、旅人」

【ヴォルクの友好度が上昇しました──友好度:3/10】

「村長。急な頼みだが、星鋼で武器を打ってほしい」

「打てる……だが素材がいる。星鋼の原石は、火山の中でしか採れない。しかも採掘には──火の獣王ヴォルガの許可がいる」

「ヴォルガか。──解放したばかりだ、話はつけられる」

「解放した? お前が……ヴォルガを?」

「正確には、アルケイアの波動で蝕印が外れたんだが──」

「獣王を解放した旅人。──ならば、星鋼を打つ資格がある。原石を持ってこい。最高の武器に鍛えてやる」

【サブクエスト「星鋼の武器」が発生しました】

【火山で星鋼の原石を採掘し、ヴォルクに持ち帰れ】

「火山に入る。──全員、耐熱装備を」

「はい! 改良版の耐熱薬を配ります!」

タマキが嬉しそうだ。新素材に新武器。薬師の血が騒いでいる。

火山の内部。溶岩の河が流れている。赤い光。熱い。耐熱薬の効果で直接ダメージはないが、体感温度は高い。

見聞録の全属性解析が活きた。溶岩の流れのパターン、安全な足場の位置、温度分布──全てが一発でマップに表示される。

「全属性解析、火山の中だと真価を発揮しますね。溶岩の動きが全部見えます……」

ハルがマッピングしている。

「以前のスキャンでは火属性だけ読めていた。今は土属性の岩盤強度も、風属性の空気の流れも、同時に読める。──火山の構造が立体的にわかる」

火山の中腹。溶岩の河の向こうに──光る鉱脈があった。七色に輝く金属の筋。星鋼の原石。

「あれが、星鋼の原石か。──溶岩の向こうだ、渡れるか」

「渡れます。溶岩の表面温度が下がるタイミングがあります。二十秒周期で──ここです」

全属性解析で溶岩の温度変動を読んだ。二十秒に一回、表面が冷えて黒い膜ができる。その上を走れば──三秒で渡れる。

「三秒の安全地帯。──太陽の祭壇のタイムアタックを思い出すな」

「また、これやるんですか?」

「できると思えばできる、気持ちの持ちようだ」

「平然とそう言えるの……師匠の一番怖いところです」

溶岩が冷えた折りを見て、全員走った。アストレアが鎧の重さで一拍遅れたが、ゼクスがその背中をぐいと押した。

「また押しましたね、ゼクスさん!」

「また遅いからな」

「そう言われても、鎧が――!」

「脱げ」

「脱ぎません!」

「脱げ」

「脱ぎません!」

「ええい、まどろっこしい! つべこべ言わず、さっさと渡れ!」

「ちょっ、あの、あっ――ああああああああっ!!?」

溶岩に落ちかけたが、そこはアストレアのプレイヤースキル(という名のただの脳筋プレイ)で何とかなった。人間、溶岩に落ちかけたら十メートルほど飛べるんだな、とトワは感心した

星鋼の原石を採掘した。ツルハシで岩盤から削り出す。見聞録で最も純度の高い場所を特定し、そこだけを正確に採る。

【星鋼の原石×5を入手しました】

【最高純度の原石です。武器一本分の素材として十分です】

「五個──武器一本分か。まず、誰の武器を作るか」

「師匠の武器は、改造できないんでしたっけ」

「できない。【果ての道標】は改造不可だ。それでも十分すぎる性能だから、俺の武器を新しく作る必要はない。そもそも、装備できないこともある」

「じゃあ──他に、使い方は……」

トワは少し考えた。

「鋼の原石は、別の使い方をしよう」

「別の使い方?」

「ガルドに送る。聖都の鍛冶師なら、星鋼でパーティ全員のアクセサリを作れる。武器一本より、全員の底上げの方がいい」

「師匠──」

「俺は【果ての道標】で十分だ。──お前たちの装備が上がる方が、パーティ全体が強くなる」

「Lv1の旅人が、自分の武器より仲間の装備を優先する。──いつもそうですよね、師匠」

「いつもそうだ。旅人は一人では戦えない。仲間が強くなれば、俺も強くなる」

セレスが肩の上で聞いていた。

「トワ。セレスのぶんも、つくる?」

「お前は装備枠がないだろう」

「ある。トワのかた」

「肩は装備枠ではないと、何度言えば……」

「そーびわく。せいこうのかたあて、ほしい」

「肩当てを精霊に作ってどうするんだ?」

「トワのかたが、もっとすわりごこちよくなる」

「座り心地の問題だったのか」

「すわりごこちは、だいじ。──セレスのじんせいの、はんぶんは、トワのかたのうえ」

「まあ……否定できない言葉だな」

肩当てを作らせようとするセレスを上手く言いくるめながら、トワは星鋼をインベントリにしまった。