作品タイトル不明
[水底の獣王]
水のエリア。大湖アルケオン。
エルシオンの中央に位置する大湖。七本の川の源。水面が碧い。透明度が異常に高い。湖底の白砂が見える。
「この湖が七属性の源。──でかいな」
見聞録でスキャン。湖の直径は推定三十キロ。深さは最深部で五百メートル以上。
ダリオの船で湖に出た。タマキが湖水から「碧湖の深潜薬」を調合し、全員が潜水の準備を整えた。
潜水開始。深度百メートルを超えたあたりで──異変に気づいた。
「見聞録の反応がおかしい。──巨大な生体反応があるが、動いている。こちらに向かってきている」
「向かってきている──?」
前の二体は閉じ込められていた。動けなかった。だが今回は──相手が動いている。
水の向こうから──影が来た。
巨大な影。全長四十メートル。碧い鱗。半透明の身体。水の鯨。内部に青い光が脈打っている。──だが、その光が赤黒く濁っている。
【淵鯨のマリドゥス Lv97 HP:450,000 属性:水 状態:暴走中】
「暴走──!? 檻じゃない──! 動いてる──!」
「しかも敵対反応! こっちに向かってきます!」ハルが叫んだ。
マリドゥスが口を開けた。水流が渦巻く。吸い込まれる。
「全員散開──! 吸い込まれるな!」
水流の渦がパーティを引き寄せる。水中で踏ん張れない。
ダリオが潮流斬りで逆方向の水流を作った。「こっちだ! 俺の水流に乗れ!」
全員がダリオの水流に乗って、マリドゥスの吸引から脱出した。
「檻に閉じ込められているんじゃなかった──! 暴走してる──!」
「オルグレンとセレイアは拘束されていた。マリドゥスは──洗脳されて暴れている。手口が違う」
マリドゥスの身体を見聞録でスキャンした。身体の内部に──何かがある。寄生虫のように、別の存在が鯨の中に入り込んでいる。
【マリドゥスの体内に異物を検知──【 蝕印(しょくいん) 】。未知の術式が獣王の意識を侵蝕しています】
「寄生型の術式。──檻ではなく、中から操っている。今回の犯人は同じだが、手口を変えてきた」
「倒すんですか。獣王を」タマキが聞いた。
「倒さない、蝕印を取り除く。──だがマリドゥスが暴れている以上、近づけない。HP450,000の獣王を、殺さずに止めないといけない」
「殺さずに止める──!? それ、倒すより難しくないですか──!」
「難しい。──だからこそ、力任せではない方法が要る」
マリドゥスが尾を振った。水の衝撃波が走る。浮遊していた岩が粉砕される。
【マリドゥスの尾撃! 推定ダメージ:58,000】
「当たったら即死圏内だ。──近づけないな、これは」
「トワ、わたしにやらせて」
ルーナが影から出てきた。水中の影。深い湖底には光が薄く、影が濃い。ルーナの力が強い場所。
「マリドゥスの体内にある蝕印。わたしの夜の力で──届くかもしれない。影は身体の中にもある。血管の中の影。臓器の影。身体の内側の暗い場所を通って、蝕印に直接触れる」
「体内の影を通って、中の術式に触れる。ルーナにしかできない方法だ」
「でも近づかないと無理。──マリドゥスの身体に触れる距離まで」
「俺が隙を作る。──全員、マリドゥスの注意を引きつけろ。ルーナが背後に回る時間を作る」
ゼクスが短剣を抜いた。「囮は俺の得意分野だ」
アストレアが聖剣を構えた。「前衛で受けます」
ダリオが水流を操った。「俺が水中の機動力を担保する」
タマキが薬を配った。「全員に回復薬を。──殺さずに止めるということは、長期戦になるということです。薬の消耗を最小限に」
「セレス。月光でマリドゥスの目を眩ませろ。一瞬でいい」
「わかった。──めくらまし、やる」
作戦開始。
ゼクスが右側から接近し、短剣でマリドゥスの鱗を叩いた。ダメージではなく音。金属的な反響が水中に広がる。鯨が振り向いた。
アストレアが左側から聖剣の光を放った。鯨の注意がさらに分散する。
ダリオが下から水流をぶつけた。鯨の身体が揺れる。三方向からの陽動。
「今だ──セレス!」
セレスが覚醒形態で月光を放った。銀色の光が水中を貫き、マリドゥスの目を直撃。一瞬、鯨が視界を失ってよろめいた。
「ルーナ──!」
ルーナが動いた。水中の影を滑るように移動し、マリドゥスの腹の下に到達。巨大な身体の影に潜り込み──鯨の体表に手を触れた。
「触れた──。体内の影に入る。──待って」
ルーナの意識が──マリドゥスの体内に潜った。血管の中の影。臓器の隙間の暗闘。身体の内側の闇を伝って、蝕印がある場所に向かう。
「──見つけた。心臓の裏側。【赤黒い紋章】が──心臓に根を張ってる」
「引き剥がせるか」
「引き剥がすだけじゃだめ。根が心臓を傷つける。──溶かす。夜の力で、蝕印の根を少しずつ溶かして、心臓から離す」
「どれくらいかかる」
「三分。──その間、マリドゥスを暴れさせないで」
「三分。──全員、三分間持たせろ!」
マリドゥスが再び暴れ始めた。ルーナが体内で作業している間、外側では全員が鯨の攻撃を凌ぎ続ける。
ゼクスが影で回避。アストレアが盾で受ける。ダリオが水流で軌道を逸らす。トワが弓で鯨の注意を引きつけ続ける。
一分。二分。──マリドゥスの攻撃が激しくなっていく。蝕印が抵抗しているのか。
「ルーナ! あとどれくらい──!」
「あと三十秒──! 根が、硬い! でも溶けてきてる!」
マリドゥスが咆哮した。水中に超音波が走った。全員の鼓膜が痺れる。
「ぐっ──!」
「耐えろ、あと少し!」
「──取れた!」
ルーナがマリドゥスの体内から飛び出した。手に──赤黒い紋章の残骸を握っている。蝕印。
マリドゥスが──止まった。
赤黒く濁っていた光が──澄んだ青に戻っていく。瞳から狂気が消える。巨大な目が──ゆっくりとトワたちを見た。
「……何が──起きた。わたしは、何を」
「洗脳されていた。身体の中に術式を仕込まれて、暴走させられていた」
「洗脳──では、わたしが湖を荒らしていたのは──」
「お前のせいではない。術式を仕込んだ者のせいだ」
マリドゥスの巨大な目から──涙が零れた。水中で涙は見えないが、鯨の感情が水を通じて伝わってきた。悲しみ。後悔。
「わたしは……水の守り手だ。水を荒らすなど──生き恥を晒してしまった」
「恥ではない、罠だ。そう自らを責める必要はない」
「そうか……ありがとう、旅人」
【マリドゥスの友好度が上昇しました──友好度:9/10】
【マリドゥスの加護を受けました!】
【効果:水中での見聞録スキャン範囲が2倍に拡張されます】
「旅人。──礼を言う。そして、一つ伝えなければならない。洗脳されている間──微かに、術者の声が聞こえた」
「術者の声……」
「『七つの柱を折れ。調和を崩せ。世界を──解きほぐせ』と。──この声は、大湖の底から聞こえていた」
「大湖の底。五百メートルの最深部──」
「そこに……術者がいる。わたしを操っていた者が」
【サブクエスト「消えた獣王」更新──敵の拠点が大湖アルケオンの最深部にあることが判明しました】
【メインクエスト「七色の調和」更新──水属性の乱れが回復中(進捗:3/7)】