作品タイトル不明
[声]
マリドゥスの情報を整理した。
大湖アルケオンの最深部。そこに黒幕がいる。獣王を拘束し、洗脳し、エルシオンの属性均衡を意図的に崩している者。
「三体の獣王を解放した。残り四体──火、土、光、虚空。だが一体ずつ回っていては遅い。マリドゥスが暴走していたように、残りの獣王も洗脳されている可能性がある」
「暴走した獣王がエリアを破壊し続けている間に、属性が壊滅する」ゼクスが分析した。
「黒幕を先に叩く方が効率的だ。源を断てば、蝕印の術式も切れるかもしれない」
「でも大湖の底に行くのは──五百メートルの最深部ですよ」タマキが眉をひそめた。「薬で水圧は何とかなりますけど、相手の正体もわからない」
「正体はわからないが──手がかりはある。【蝕印】の残骸だ」
トワはルーナが取り出した赤黒い紋章の残骸を見聞録でスキャンした。
【蝕印の残骸──解析中】
【術式の基底パターン:虚空属性+不明属性】
【構成素材:調和の水晶と同系統のエネルギー結晶】
「調和の水晶と同じ素材──!? あの水晶は七属性を均衡させる装置だったはず。それと同じ素材で、逆に均衡を崩す術式を……」
「調和のシステムを知り尽くした者が、システムを裏返して使っている。──内部の人間によるものの仕業か。長老に聞く必要があるな」
調和の里に戻った。ルトヴィアに蝕印を見せた。
長老の顔が、真っ青になった。
「この紋章は──まさか。ありえぬ」
「知っているのか?」
「知っている。これは……わたしが作った術式だ」
「長老が……作った?」
「正確には、わたしの前任の長老が。調和の水晶を管理するための術式。水晶のエネルギーを制御し、バランスを調整する──管理ツールだ。それが、反転されている。調和を崩す方向に」
「前任の長老。──その人は今どこに」
「死んだ、百年前に。大湖の調査に出て、戻ってこなかった」
「大湖の底で、何かがあったのか」
「わからぬ。遺体も見つかっていない。──だが、この術式が前任の知識から派生しているなら、前任の長老が大湖の底で──何かに変わった可能性がある」
「変わった。──【闇】に、か」
ルトヴィアが首を振った。
「闇ではない。闇なら、オルグレンが気づいたはずだ。闇の獣王の鼻は闇を嗅ぎ分ける。オルグレンは『世界の秩序に属さない匂い』と言った。闇でもなく、光でもなく、夜でもない──」
「虚空、か」
トワの言葉に、長老が重々しく頷く。
トワは続けた。
「蝕印の基底パターンに、虚空属性が含まれていた。恐らくだが、調和のシステムを知り尽くした者が、虚空の力で──」
「虚空は全てがある場所にして、何もない場所じゃ。虚空の力で調和の術式を反転させれば──七属性全てを同時に崩せる」
「前任の長老が虚空の力に触れて変質したと。そして百年間、獣王を一体ずつ排除してきた。──最近になって、残りの獣王にも手を出し始めたのか。だが……なぜ最近になって」
「──虚空の門が開いたからかもしれぬ」ルトヴィアが呟いた。「門が開いたことで、虚空のエネルギーが大陸全体に流れ込んだ。それが──大湖の底を強化した」
「つまり、俺たちが門を開いたせいで──」
「お前たちのせいではない。門は開かれるべきものだった。──だが、門が開いたことで、眠っていた脅威も目覚めた。ただ、それだけのことじゃ」
トワは、今自分たちがどうすべきかを考えた。
「残りの四体の獣王を一体ずつ回る時間はない。黒幕が動いている。これ以上獣王が暴走すれば、エリアごと壊滅するするだろう」
「大湖の底を攻めるのか」ゼクスが聞いた。
「攻める。──だが、俺たちだけでは足りない。深度五百メートルの最深部で、虚空の力を使う敵と戦う。パーティの七人だけでは」
「レイドか」
「レイド──とまでは言わないが、応援がいる。ダリオの航海士。解放した三体の獣王。そして──」
チャットを開いた。
トワ:「ヴェノム、お前たちの力を借りたい。エルシオンの大湖に潜る。水中戦闘ができる戦力がいる」
十秒で返事が来た。
ヴェノム:「行く。後で場所を教えろ」
トワ:「助かる、それではまた後で」
続けて、トワはNPCにもチャットを送った。
トワ:「カレン、聖都から虚空に関する資料を送ってほしい。虚空属性の術式への対抗策を探す」
カレン:「わかった。アルヴァの手記に何か残っているかもしれない。──調べてみる」
そして、リーリアにも。
トワ:「リーリア、虚空の文字を読めるのはお前だけだ。蝕印の術式を解読してほしい」
リーリア:「写真を送って。解読してみるよ」
「全員に声をかけた。──準備に三日。三日後に、大湖の底に潜る」