作品タイトル不明
[獣王]
白い光の檻。オルグレンが横たわっている。
近づくと──オルグレンが目を開けた。金色の瞳。巨大な瞳がトワを見つめた。
「──旅人、か」
声。低い。地の底から響くような重低音。NPCの獣王が──喋った。
「喋れるのか」
「第三位階の獣王は知性を持つ。──お前は何者だ、わざわざこの穴の底まで降りてくるとは」
「トワ、旅人だ。──調和の里の長老に頼まれて、お前を探しに来た」
「ルトヴィアか。──あの老人はまだ生きているのか」
「元気だった。お前が消えたことを心配していた」
オルグレンが鼻を鳴らした。
「心配など不要だ。──この檻を壊せるか、旅人」
「壊せるかどうかは、調べてからだ。──この檻は何だ。誰がお前を閉じ込めた」
「知らぬ。半年前の夜、森を巡回していたら──地面が割れて、この穴に落ちた。目が覚めたら檻の中だった。以来、闇を吸い取られ続けている」
「紋章に見覚えは?」
「ない。だが──匂いがする。この檻を作った者の匂い。人間ではない。獣でもない。精霊でもない」
「人でも獣でも精霊でもない。──第五位階の上位種か」
「わからぬ。だが──不快な匂いだ。世界の秩序に属さない者の匂い」
見聞録で檻をスキャンした。
【光属性の拘束術式──術式の構造は複雑。解除には光を自然に退かせる力が必要です】
【必要なエネルギー量:推定──第二位階相当】
「光を自然に退かせる力。──光の対極は闇だが、闇は光とぶつかり合う。自然に退かせるのは──夜だ。夜が来れば光は自然に引く。ルーナ」
「わかってる。──夜は光を壊さない。光に『もう休んでいい』って教えるだけ。わたしの力で解ける」
ルーナが影から出てきた。全身。紺色の髪。紫の瞳。洞窟の中でも──ルーナ自身が淡く光っている。夜の光。月でも星でもない、夜そのものの微かな輝き。
オルグレンがルーナを見て──目を見開いた。
「お前は──夜の精霊。ルーナリア」
「知ってるの?」
「知っている。お前の名は石碑に刻まれている。第二位階の頂点。──なぜ人間の旅人と一緒にいる」
「トワがわたしを助けてくれたから。千年間、影の中にいたわたしを」
「千年──。お前も、囚われていたのか」
「囚われていた。でもトワが来てくれた。──だから今度は、わたしがあなたを助ける」
ルーナが檻に手を伸ばした。紺色の冷気が檻の表面に触れる。白い光と、紺色の夜が──ぶつかった。
【闇属性エネルギー注入中──檻の術式と干渉しています】
「術式が抵抗してる。──力を込める」
ルーナの全身から夜の力が放出された。月夜の帳──ではない。もっと深い。純粋な夜そのもの。途方もない夜の精霊の全力。
檻が──軋んだ。白い光にひびが入る。
「もう少し──!」
セレスが飛んだ。ルーナの隣に。
「ルーナ! セレスもてつだう!」
「セレス──? でも月光は光属性──」
「ちがう。セレスのつきは、やみのなかでかがやくつき。やみがないとかがやけない。──やみをたすけるつき」
セレスの月光が──ルーナの夜を強化した。月と夜の連携。月の光が夜を照らすことで、夜の輪郭がくっきりと定まる。ぼんやりとした夜が、鋭い力に変わる。
【月光と夜の共鳴──夜属性出力が200%に上昇しました】
「にばい……これなら──!」
ルーナが叫んだ。檻に両手を叩きつけた。
白い光が──砕けた。
【拘束術式を解除しました!】
光の鎖がオルグレンの身体から剥がれ落ちた。破片が宙に散る。
オルグレンが──立ち上がった。
巨大だ。十五メートルの黒い狼が四本の脚で立つと、洞窟の天井に頭がつきそうだった。金色の瞳がトワたちを見下ろしている。
全身から闇のオーラが溢れ出した。半年間吸い取られていた闇が一気に回復していく。洞窟の壁が黒く染まっていく。冥光苔が次々と発光し始めた。
「闇が──戻ってきている」
オルグレンが吠えた。
洞窟が──いや、黒翳の森全体が震えた。地上まで響く咆哮。獣王の帰還を告げる声。
【冥牙のオルグレンが解放されました】
【黒翳の森の闇属性が回復を開始します】
「オルグレン。──大丈夫か」
「大丈夫ではない。半年分の【闇】を吸い取られた。全快には時間がかかる。──だが、動ける」
オルグレンがルーナを見た。
「夜の精霊。──礼を言う。お前がいなければ、俺はあの檻の中で朽ちていた」
「お礼はいらない。──夜は闇の隣にいるもの。闇に囚われた者を放っておけないのは、夜の精霊として当然のこと」
「仲間──か。お前は俺を仲間と呼ぶのか。位階が違うのに」
「位階は関係ない。あなたは闇の獣王。わたしは夜の精霊。──違うものだけど、暗い場所で生きている者同士。隣人みたいなもの」
オルグレンが──笑った。狼が笑うと、牙が見えて怖い。だが目は穏やかだった。
「気に入った。──旅人。お前の名は」
「トワ」
「トワ。お前と、お前の仲間に──俺は借りを作った。獣王は借りを返す。何でも一つ、願いを聞こう」
【オルグレンの友好度が上昇しました──友好度:8/10】
「願い──今すぐは思いつかない。だが一つ聞きたいことがある」
「何だ」
「お前を檻に閉じ込めた者の紋章。あの紋章を知る者がこの大陸にいるか」
オルグレンが紋章を見た。金色の瞳が細くなった。
「この紋章は──見たことがない。だが匂いは覚えた。この匂いの主が、この大陸のどこかにいる。俺の鼻は森の外まで届く。──南西の風のエリアから、同じ匂いがする」
「南西。風のエリア」
「あの方角に──同じ檻がもう一つある。もう一人の獣王が、同じように閉じ込められている可能性がある」
「獣王が二体も──」
「七つのエリアに七体の獣王がいる。俺は闇の獣王。他の六体も──同じ目に遭っているかもしれぬ」
【サブクエスト「消えた獣王」更新──オルグレンを解放しました】
【新情報:他のエリアの獣王も拘束されている可能性があります】
【メインクエスト「七色の調和」更新──闇属性の乱れが回復中(進捗:1/7)】
「七体の獣王を解放する旅。──最初の一体をクリアした。残り六体」
「長い旅になるな」ゼクスが言った。
「長い旅は得意だ、任せろ」
全員で暗闇の中から出た。