作品タイトル不明
年越し
十二月三十一日。大晦日。
BCOには年越しイベントがある。年に一度、大晦日の二十三時五十分から元旦の零時十分まで、全エリアの空に花火が上がる。BCOの全プレイヤーが同じ空を見上げる二十分間。
始まりの町リベルタの噴水広場に、パーティ全員が集まっていた。トワ、セレス、ルーナ、ゼクス、アストレア、タマキ、ハル。テンはブーツの上。
広場は人でいっぱいだった。年越しイベントは始まりの町が一番人気だ。ここが全ての旅の始まりの場所だから。
「今年はここで年越しですね」ハルが湯気の立つカップを配っていた。タマキが作った星果実のホットドリンク。甘い香り。
「タマキは、BCOを初めて何年だ」ゼクスが壁に寄りかかって、ドリンクを受け取った。
「まだ一年未満です。でも、トワさんからBCOのお話は聞いてきました。最初は、トワさんが一人でここに立っていて……でも、どんどん人が集まってきて……」
「そして、ここに全員がいる」
「はい。──全員です」
アストレアが聖剣を磨いていた。年末の恒例行事らしい。
「聖騎士は、年越しに武器を磨くのか」トワが聞いた。
「ええ、一年間一緒に戦ってくれた剣に感謝を捧げているんです。これは、聖騎士の──」
「矜持ですよね。知ってますよ」タマキが先に言った。
「先に言わないでください」
ダリオがチャットで挨拶してきた。海上で年越しをするらしい。
ダリオ:「船の上から花火見るぜ! 海に映る花火は最高だ! よいお年を!」
カレンからも。
カレン:「聖都でも花火が見えるのか。──千年ぶりの年越しだ。よいお年を、旅人」
リーリアからも。
リーリア:「オルテリアの双子星の下で年越し! 星が綺麗だよ! 来年もよろしくね、トワ!」
ヴェノムからは何もなかった。だがフォーラムに元〈翠蛇の牙〉の年越し配信の告知が出ていた。ルミナリアの第一の穴の前で年越し。闇の穴の前で年を越す元PKギルド。ある意味で一番BCOらしい年越しだった。
セレスがトワの肩で、ホットドリンクのカップを両手で抱えている。カップが身体と同じサイズだ。
「トワ。としこし、ってなに」
「一年が終わって、新しい年が始まること」
「いちねん、おわるの?」
「終わる。でも、すぐ次の年が始まる」
「じゃあ、おわらない。つづくんだね」
「そうだ、まだまだ続く」
「セレスは、つづくのがすき。おわるのは、きらい」
「俺もだ。──続ける方がいい」
ルーナが影から顔を出していた。始まりの町の夜は、街灯の弱い光があって影がたくさんある。ルーナが出ていられる。
「ルーナ。年越しは初めてか」
「……初めて。今まで、年を数えていなかった。影の中に季節はないから」
「今年からは数える。来年もある。再来年もある」
「うん。──来年もトワと一緒にいる?」
「いる」
「やくそく?」
「約束だ」
「じゃあ、来年も、ふーふーする」
「スープか」
「うん。タマキのスープ。あったかいやつ。……来年も飲みたい」
「飲める。タマキがいる限り」
「タマキは、いなくならない?」
「ならない。タマキは今まで、一度もいなくなっていない」
「じゃあ……だいじょうぶ」
二十三時五十分。
空が──光った。
花火。始まりの町の上空に、金色と銀色と赤と青の花火が咲いた。BCOの全エリアで同時に。聖都でも、ソルシアでも、新大陸でも、海の上でも。
カウントダウンが始まった。
──「十!」
──「九!」
──「八!」
始まりの町の広場で、数千人のプレイヤーが声を合わせている。
──「三!」
──「二!」
──「一!」
【あけましておめでとうございます】
【BCO三年目がスタートしました】
【全プレイヤーに「新年の祝福」バフが付与されます(24時間、全ステータス+3%)】
「あけましておめでとうございます!」ハルが大声で言った。
「おめでとう」ゼクスが呟いた。
「おめでとうございます!」アストレアが聖剣を掲げた。
「おめでとうございます、トワさん!」タマキが笑顔で言った。
セレスがトワの頬にくっついた。
「トワ。あけまして、おめでとう」
「ああ。おめでとう、セレス」
「ことしも、いっしょにあるく?」
「歩く」
「どこまでも?」
「どこまでも」
「えへへ……」
ルーナが影の中から言った。
「あけまして──おめでとう。──みんなに」
テンがブーツの上で三回光った。新年の挨拶。虫にも年越しがわかるらしい。
花火が空を彩っている。三年目のBCOが始まった。
◇
現実世界。元旦。
冬夜のスマホに、一斉にメッセージが来た。
宮瀬:「あけましておめでとう。今年もよろしくね、久坂くん」
蓮:「あけおめ。今年こそは、お前に勝つぞ」
冬夜:「何に」
蓮:「人生に」
冬夜:「意味がわからない」
ミコト:「あけましておめでとうございます! 今年は受験頑張ります! BCOも頑張ります! 配信も頑張ります!」
冬夜:「欲張りだな。身体に気をつけろ」
ミコト:「はい! 先輩!」
冬夜:「先輩ではないぞ、まだ」
冬夜は窓を開けた。冬の朝。初日の出。東の空がオレンジに染まっている。
BCOの花火と、現実の初日の出。同じ空。同じ光。ゲームの中と外で、同じ年が始まった。