作品タイトル不明
冬至
十二月下旬。クリスマスイブ。
宮瀬の部屋。ワンルームのアパート。薬学部の教科書と、BCOの攻略ノートが本棚に並んでいる。壁にリーリアの星図のプリントアウトが貼ってある。
「入って。──散らかってるけど」
「散らかっていない。整理されている」
「薬学部の習慣。薬品管理と同じで、物の場所を決めておかないと落ち着かないの」
キッチンにはすでに材料が並んでいた。鶏肉、野菜、ハーブ。レシピノートが開いてある。ノートの余白にBCOの調合メモが混ざっている。
「このレシピ──BCOのバフ料理の現実版か」
「気づいた? 星果実のソテーのレシピを現実の食材に置き換えたの。鶏肉を星果実に見立てて、ハーブのブレンドはBCOの調合比率を参考にした」
「ゲームのレシピで現実の料理を作る薬学部生。──お前らしいな」
「えへへ……手伝って。野菜切るの」
二人で料理を作った。冬夜は野菜を切った。宮瀬が調理した。手際がいい。正確で、無駄がない。
「久坂くん、にんじんの切り方が雑だよ」
「均一に切っているつもりだが」
「均一だけど、厚いの。五ミリ以下にして、火の通りが変わるから」
「五ミリ。──見聞録があれば正確に測れるんだが」
「現実には見聞録ないから、目分量で。久坂くんなら、目でわかるでしょ」
「食材の厚さを測る試練は受けたことがないのでな」
「応用力! BCOで学んだことは、現実でも使えるの。わたしが証明してみせる」
料理が完成した。鶏肉のハーブロースト。サラダ。スープ。デザートに星型のクッキー。
「星型なのは」
「セレスちゃんの角のイメージ。ゲームの中の星を、現実に持ってきちゃった」
「宮瀬」
「なに?」
「──美味い」
「ほんと?」
「ほんとうだ。お前の料理は、お前の薬と同じで、丁寧だ」
「えへへ──ありがとう。久坂くんに美味しいって言ってもらうために、前から練習してたの」
「それは、知らなかったな」
「だって、秘密にしてたもん。──サプライズだよ、久坂さん」
「サプライズ、だったのか」
「うん。成功した?」
「成功した」
食後。テレビをつけずに、窓の外を見た。冬の夜空。星が見える。東京の空でも、冬至の頃は星がよく見える。
「久坂くん」
「なんだ」
「来年の話なんだけど」
「来年」
「BCOの新しいアップデートが来るでしょ。門の向こうの大陸。──その時、わたしもパーティにいていい?」
「当たり前だ。タマキがいないと、薬が足りない」
「薬師としてじゃなくて。──宮瀬として。久坂くんの隣にいていい?」
「当然、いてくれ」
「即答」
「即答するほど当たり前のことだろ」
「えへへ……クリスマスプレゼントは、これでいいや」
「すまない、俺はプレゼントを用意してない」
「いいの。即答がプレゼント。──わたしにとっては、一番欲しかったもの」
「安上がりになって悪いな」
「安上がりって言わないで。──最高のプレゼントだって言って」
「……最高のプレゼントだ」
「言わせた感があるけど、嬉しいよ」
窓の外。星が瞬いている。BCOの星空ほど壮大ではないが、同じ星。同じ光。ゲームの中で見上げた星と、現実の窓から見える星は、同じものだ。
「久坂くん」
「なんだ」
「来年も一緒に歩こうね。ゲームでも、現実でも」
「ああ……歩こう」
「約束」
「約束だ」
冬至。一年で最も夜が長い日。明日から、昼が少しずつ長くなる。冬を過ぎれば、春に向かっていく。
星型のクッキーを食べて、星を見て、隣に宮瀬がいる。今夜は、それだけでいいとトワは思えた。