軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈虚空の底〉

落ちた先は──白い空間だった。

白くもない。黒くもない。色がない。広さもない。狭くもない。ただ──空間がある。立てる。呼吸もできる。

虚空の祭壇──試練の間】

【参加人数:1人(固定)】

【制限なし】

「一人固定──やはりソロか」

目の前に台座があった。台座の上に窪みが一つ。四つ目の窪み。そしてその上に──何もない。

何もないはずなのに、何かがある。空気の密度が違う。台座の上の空間だけが、周囲と違う。

【虚空の柱──不在】

【試練をクリアしてください】

「試練──俺は、何をすればいい」

返事はなかった。システムメッセージも出ない。ヒントもない。

何もない空間に、一人で立っている。

星の祭壇は戦闘。月の祭壇は探索。太陽の祭壇は速度。虚空の祭壇は──何だ。

「何もない試練。……何をすれば、クリアになるのか」

歩いてみた。空間に端はない。どこまでも歩ける。だが景色が変わらない。台座だけがある。

座ってみた。何も起きない。

叫んでみた。声は出るが、反響しない。

五分経った。十分経った。何も起きない。

「……考えろ。虚空とは何だ。リーリアの翻訳では『全てがある場所にして、何もない場所』。虚晶は全属性に中立で、何にでも染まる。虚空は──全てを受け入れて、何も拒まない」

何も拒まない。

「門の壁画。四つ目の紋章は空白だった。星でも月でも太陽でもない。──何者でもない」

何者でもない。

「俺は──何者だ」

旅人。Lv1。ATK48。HP360。七千時間歩いた。見聞録を使い、仲間と旅をし、世界を変えた。

だが──装備を全部外して、仲間と離れて、精霊も手放して、ここに一人で立っている。

今の俺は──何者でもない。ただの人間だ。

「ただの人間が──ここに立っている。それだけで、いいのか」

台座に手を置いた。

何かを感じた。──温かい。いや、温かくない。冷たくない。属性がない。だが確かに、何かがある。

「ここに何かがある。見えないし、触れないし、スキャンもできない。だが……ある」

記憶干渉を使おうとした。だが、スキルが封じられている。装備もない。

使えるのは、自分自身だけだ。

目を閉じた。

七千時間の記憶が浮かんでくる。

始まりの町。グランの扉。最初の一歩。見聞録で世界を見た日。セレスとの出会い。ルーナの救出。カレンとの対話。新大陸の星空。禁域の闇。虚空の門。仲間の笑い声。

──全部が、ここにある。

記憶は失われない。装備を外しても、スキルが封じられても、一人になっても──歩いてきた記憶は消えない。

「七千時間は──俺の中にある。虚空が全てを吸い込んでも、歩いた記憶だけは消えない」

台座の上に──光が灯った。

色のない光。星でも月でも太陽でもない光。四つ目の光。

虚空の光。

【──試練クリア】

【虚空の祭壇の守護者は存在しません】

【虚空の試練は「何もない場所で、自分自身を見つけること」です】

【旅人トワは七千時間の旅の記憶をもって、試練を突破しました】

【「虚空の柱」を入手しました!】

手の中に──透明な結晶が現れた。色がない。重さもないが、確かにある。

【虚空の柱にエネルギーが充填されました──充填率:100%】

【クエスト「四つの柱」進捗:4/4──コンプリート!】

【虚空の門の起動条件が満たされました】

「四つ──揃った」

白い空間が崩れていく。光が差し込んでくる。上から。仲間の声が聞こえる。

「師匠──! 見えた──! 上に──!」

「トワ──!」

空間が閉じて──トワは高原の地面に立っていた。円の中心。さっきと同じ場所。

セレスが飛んできた。トワの胸に体当たり。

「トワ! きえた! いなくなった……こわかった!」

「すまない。帰ってきた」

「もう、はなれないで!」

「離れない。約束する」

「やくそく! ぜったい!」

「絶対だ」

タマキが泣いていた。ハルも泣いていた。ゼクスは泣いていないが、目が赤い。アストレアが聖剣を握りしめて祈っていた。リーリアがメモ帳を落としていた。

「全員、大げさだぞ。五分も経っていないだろう」

「五分じゃないです! 三十分も、師匠はいなくなってたんです!」

「三十分……そんなに経っていたのか」

「経ってました! 見聞録も反応しないし、影にも聞こえないし、何もわからなくて──」

ルーナもいつになく動揺していた。

「すまない。迷惑を掛けたことは謝ろう。──しかし、これを手に入れることはできた」

手を開いた。透明な結晶。虚空の柱。

「トワさん、これ……!」

「ああ、四つ目の柱だ。──全部、揃った」

ハルが跳び上がった。タマキが拍手した。ゼクスが鼻で笑った(嬉しい時の癖だ)。アストレアが「聖なる──」と言いかけて、リーリアが「祈りは後で!」と遮った。

セレスがトワの肩に戻って、角をぴかっと光らせた。虚空の高原ではぴかりともしなかった角が──また光った。

「セレスのつの、もどった。よかった」

「ああ、よかったな。さあ──帰ろう。門に柱を持っていく」