軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈砂漠行き〉

オルテリア。出発準備。

太陽の祭壇。壁画のヒントは「灼熱の砂が光を守る場所」。場所はナハルの南西、砂漠の奥地。まだ誰も踏破していないエリア。

パーティ編成で一つ問題が出た。

「ルーナ。砂漠は──」

「行かない」

即答だった。

「砂漠は、影がない。太陽が真上にあると、影がほとんど消える。わたしの力が使えなくなる」

「海底は影が濃かったが、砂漠は逆か」

「逆。海底は暗いから、わたしの庭。砂漠は明るすぎて──わたしの墓場」

「墓場は言いすぎだろう」

「言いすぎじゃない。影がない場所にいると、わたしは消えちゃうの」

「了解した。ルーナはオルテリアで待機。──リーリアと一緒に、原初の文字の解読を進めてくれ」

「うん。──ごめんね、一緒に行けなくて」

「謝るな、適材適所だ。お前にはお前の戦う場所がある」

「……ありがとう。──セレスのこと、よろしくね」

「セレスは俺の肩にいる。いつも通りにな」

「セレスはルーナのぶんもがんばる」セレスが胸を張った、妖精の小さな胸だが。

「がんばって。──おやつ、多めに持っていきなよ」

「ルーナ、やさしい。すき」

「わたしもセレスが好き。──だから、無事に帰ってきてね」

「かえってくる。やくそく」

精霊同士の約束。銀と紺が指先を触れ合わせた。

メンバーが確定した。トワ、セレス、ゼクス、アストレア、タマキ、ハル。六人。リーリアとルーナはオルテリアで解読作業。ダリオは海上で東エリアの海図を作成中。

タマキが砂漠用の装備と薬を全員に配った。

【耐熱薬を使用しました。灼熱環境ダメージ無効化。効果時間:3時間】

「三時間。砂漠の奥地まで往復するには──ギリギリか」

「予備が四本あります。足りなくなったら、追加で飲んでください。あと、これを……」

タマキが全員にゴーグルを渡した。

【砂除けゴーグルを装備しました。砂嵐エリアでの視界低下を80%軽減】

「このアイテムは、どこで手に入れたんだ?」

「ナハルの露店で買いました。航海士が海上用のゴーグルを改造して売ってるんです。300ゴールドで!」

「安いな」

「砂漠に行くプレイヤーが少ないから、需要がないんです。逆にお買い得でした♪」

回廊の転送でナハルに飛んだ。オアシス都市。ここから南西に砂漠が広がっている。

ナハルの南門を出た。目の前に──砂の海。地平線まで続く金色の砂丘。太陽が真上に近い。影が短い。

「暑い──!」ハルが顔をしかめた。「耐熱薬飲んでるのに、この暑さですか」

「薬はダメージを無効化するだけだ。暑さの体感は、VRのフィードバックで残る」

「VRの感覚、リアルすぎません?」

「BCOの売りだ。──歩くぞ」

見聞録でスキャンしながら砂漠を進む。砂丘の起伏。風紋。時折、砂の下にモンスターの反応がある。

【砂潜りのサソリ Lv78 HP:19,000 属性:火+土】

「サソリか。砂の下に潜んでいる。踏むと出てくるタイプだ」

「踏まなければいいんですね」

「踏まなければいい。──見聞録で位置は見える。避けて歩く」

サソリの位置を赤い点としてパーティ全員の視界に共有。赤い点を避けながらジグザグに歩く。

「師匠。まっすぐ歩けないの、すごく効率悪くないですか」

「効率と安全はトレードオフだ。サソリに尻尾を刺されたら、毒で死ぬかもしれない」

「一応、解毒薬は用意していますが……あまり数はないですね」

「だからこそ、慎重に進もう」

三十分歩いた。砂丘を五つ越えた。景色が変わらない。砂。砂。砂。たまに岩。また砂。

「砂しかないですね……」

「砂漠だからな」

「当たり前のことを当たり前に言いますね、師匠」

「当たり前のことを確認するのが旅人だ」

セレスがトワの肩で、じっと太陽を見上げていた。

「トワ。おひさま、ちかい」

「近いな。──暑いか」

「あつい。セレスのつのが、とけそう」

「溶けないだろ、流石に」

「でも、きもちてきにとけてる」

「気持ち的に溶けるのは対処できないな」

「みず──」

「水はある。飲め」

タマキが水筒を差し出した。セレスがストローで水を吸った。

「プレイヤーの反応を観察してますが」ハルがメモを取りながら言った。「砂漠エリアに来ているプレイヤーは──わたしたちだけですね。誰もいません」

「新大陸の東に人が集中しているからな。石碑と門の話が広まって、東が大人気だ。南西の砂漠に用がある人間がいない」

「トワだけが用がある場所……か」ゼクスが皮肉っぽく言った。

「俺だけじゃない。六人だ」

「俺たちは、お前について来ているだけだ」

「ついてきている時点で、ゼクスにも用があるだろ」

「まあ……その通りだな」

一時間歩いた。砂漠の奥地に入っている。見聞録のミニマップが真っ黒。未踏エリア。踏破率が一歩ごとに微増していく。

【アストラム踏破率:66.4%】

砂丘の頂上に立った時──遠くに何かが見えた。

「あれは──」

砂漠の真ん中に、巨大な岩の塊。自然の岩ではない。形が整いすぎている。ピラミッド──いや、逆ピラミッドだ。頂点が下を向いている。砂に突き刺さった逆三角形の建造物。

「逆ピラミッド。──古代の建築物だ」

「逆さまってことは、空から落ちてきたんですかね」ハルが首を傾げた。

「落ちたのではなく、そういう設計だろう。逆ピラミッド型は重心が下にあるから、砂に深く刺さって安定する。砂漠に建てるなら理にかなった構造だ」

「師匠、建築にも詳しいんですか」

「詳しくない。見聞録のスキャンデータに構造分析がついてきただけだ」

「見聞録、万能すぎません?」

「万能ではない。闇は読めないし、虚空も読めない。──だが砂と岩は読める」

逆ピラミッドに近づいた。表面に──太陽の紋章。壁画で見た三つ目の祭壇のマーク。

【太陽の祭壇・入口を発見しました】

【推奨レベル:Lv88以上】

【パーティ上限:6人】

【注意:灼熱環境ダンジョンです。耐熱装備が必要です】

「推奨Lv88。月の祭壇より三高い。星→月→太陽で段階的に難易度が上がっている」

逆ピラミッドの底面──つまり上部に、入口があった。上から降りていく構造。砂漠の太陽を背に、地下に潜る。暗い。涼しい。

「地下は涼しいな。──耐熱薬の消費が抑えられる」

「地上の灼熱がダンジョンの防衛機構を兼ねているのかもしれません。耐熱装備がないプレイヤーは入口に辿り着く前にHPが削られる」

「砂漠自体がダンジョンの外壁。──なるほど、面白い設計だ」

階段を降りていく。壁に太陽の紋章が並んでいる。星の祭壇は金色、月の祭壇は青白い光だった。太陽の祭壇は──赤い。壁の紋章が赤い光を放っている。

セレスが肩の上で身を縮めた。

「あかい。──このあか、すこしこわい」

「大丈夫だ。お前の月光は太陽の光とは系統が違うが、対立はしない」

「たいりつ、しない?」

「月は太陽の光を反射して輝く。月と太陽は敵ではなく、一対の存在だ」

「いっつい。じゃあ、セレスはだいじょうぶ」

「大丈夫だ」

「トワがいうなら、しんじる」