作品タイトル不明
〈二つ目の光〉
月の柱。銀色の結晶。手のひらに乗せると、冷たい。だが──嫌な冷たさではない。澄んだ冷たさ。月
の光が結晶の中で揺れている。
祭壇の中央──守護者がいた場所に、光球があった。星の祭壇と同じ。
【月の祝福・原初 を発見しました】
月の柱をかざす。光球が柱に吸い込まれていく。
【月の柱にエネルギーが充填されました】
【充填率:100%】
「二つ目の柱。──あと二つ」
「やった──!」タマキが水中でガッツポーズした。泡が大量に上がった。
「泡がすごいですよ、タマキさん」ダリオが笑った。
「嬉しかったんです!」
セレスが覚醒形態から戻った。小さな精霊の姿で──トワの肩にふわりと着地。海底ヘルメットの中で目を閉じている。
「つかれた……」
「お前はよくやった。月光対決で負けなかった」
「セレスのつきは、あったかいから。つめたいつきには、まけない。──おやつ……」
「帰ったら、な」
「エリーのパン……とくだい……」
「特大で」
「……zzz」
寝た。水中で。ヘルメットの中で。
「セレスちゃん、水中で寝られるの……」リーリアが呆れた。
「寝られるらしい。──精霊の睡眠に物理法則は適用されないそうだ」
「誰が言ったの?」
「本人が。『セレスのおなかに、ぶつりほーそくはてきよーされない』と」
「いまは胃袋の話だったと思うけど……」
「セレスにとっては、胃袋も睡眠も同じカテゴリらしい。とにかく常識が通用しない」
帰路。ダリオのルートで海面に浮上。全員無事。呼吸薬の残り時間は──四十二分。余裕を持って帰還できた。
船の上。太陽が傾いている。夕暮れの海。水平線がオレンジに染まっている。
「二つ目の柱を手に入れた。──残りは太陽と、未知の四つ目」
「太陽の祭壇は、砂漠の奥地だ。準備に時間がかかる」ゼクスが言った。
「ああ、耐熱装備と脱水防止薬が必要だ。──タマキ、準備にどれくらいかかる」
「砂漠用の薬は──三日あれば揃えます。耐熱薬の材料は、聖都のガルドに発注済みです」
「三日。──その間に現実の用事も片付ける。宮瀬の実習がもうすぐ始まるはずだ……あっ」
ふと自然に、リアルの話が出てしまった。
「トワさん、そこで現実の話が出るんですね」
タマキ……いや、宮瀬が少し照れたように笑った。
「お前のことだからな。気にならないわけがない」
「……えへへ。──ありがとうございます、トワさん。久坂くん」
「ゲーム内とリアルの呼び名を混ぜるな」
「混ざっちゃうんです。──だって、どっちもわたしだから」
ルーナが影から手を出して、海面の水に触れた。
「ルーナ。大丈夫か」
「大丈夫。──夕日は、まぶしくない。優しい光。──きれい」
「海の上の夕日は、きれいだな」
「うん。──千年間、海を見たことなかった。影の中にいたから。初めて見た海が、こんなにきれいでよかった」
ルーナが影の外に出てきた。船の縁に座って、足を海面に垂らした。裸足。紺色の足が海水に浸かる。
「つめたい。でも、きもちいい」
セレスがルーナの隣に──まだ寝ぼけたまま、ふらふらと飛んでいって、ルーナの膝の上に着地した。
「ルーナ……あったかい……」
「セレス、まだ寝てるの」
「ねてる……ルーナのひざ……きもちいい……zzz」
銀色の精霊が紺色の精霊の膝の上で眠っている。夕日に照らされて。
「──いい光景だな」ダリオが舵を握りながら言った。
「ああ。──いい光景だ」
船が港に向かう。夕日が沈んでいく。二つ目の柱まで完成させた。
残り──二つ。