作品タイトル不明
〈星の守護者〉
第三層。祭壇の間。
階段を降りきると──広大な空間が広がっていた。天然の鍾乳洞のような高い天井。だが壁は全て虚晶で覆われていて、金色の光が空間全体を照らしている。
空間の中央に──泉があった。虚空の庭で見た泉と似ているが、規模が違う。直径三十メートル。泉の中央に、石の台座が浮かんでいる。台座の上に何かが載っている。
「あれが、星の柱か──」
【警告:ボスエリアに進入しました】
【星の祭壇の守護者が覚醒します】
泉の水面が震えた。水が盛り上がる。虚晶の水が人型を成していく。
水の巨人。全身が透明な虚晶の水で構成されている。高さ十メートル。人型だが、頭部がない。胸の中心に──巨大な結晶核が輝いている。金色と青の二色。
【星の守護者 Lv90 HP:280,000 属性:虚晶+水】
「HP280,000──!?」ハルが声を上げた。「隊長の三倍以上──!」
「Lv90。推奨レベル80のダンジョンのボスとしては妥当だ。──見聞録でスキャン開始」
見聞録のデータが流れてくる。守護者の構造。水の身体は物理攻撃が通りにくい。斬っても水が再生する。弱点は胸の結晶核だが、水の身体に覆われていて直接攻撃が難しい。
「物理が通りにくい。水の再生がある。核は水の中──」
「聖属性は?」
「水に聖属性を通せば蒸発させられるかもしれない。だが、身体全体を蒸発させようとすると、MPが足りないだろう」
「足りないです。聖剣の全力でも、十メートルの水の巨人は蒸発できません」アストレアが顔をしかめた。
「じゃあ部分的に。核の周りの水だけを蒸発させて、核を露出させる」
「それなら──三秒間くらいは穴を開けられます」
「三秒で十分だ。──ルーナ」
「なに?」
「お前の【夜】の力で、水を凍らせられるか」
「……凍らせる? やったことない。でも──夜は冷たい。水を冷やすことはできるかもしれない」
「凍らせなくていい。水の動きを鈍くしろ。再生速度を落とす。アストレアが穴を開けたら、ルーナが穴の周りの水を冷やして再生を遅らせる。その間に、俺とゼクスで核を撃つ」
「わかった。──やってみる」
守護者が動いた。水の腕を振り上げる。
「散開!」
水の腕が床に叩きつけられた。衝撃で水飛沫が飛ぶ。水飛沫に触れると──
【水属性ダメージ:18,000】
被弾したゼクスとアストレアのHPが大きく削れた。
「飛沫にもダメージがあるのか!?」
「タマキ、何か薬は持ってきているか?」
「はい、もちろんありますよ!」
タマキが全員に防護の薬を配った。水属性ダメージを軽減するバリア。
守護者が二撃目を振り下ろす。今度は床ではなく、壁に向かって。水の塊が壁にぶつかり、跳ね返って部屋全体に拡散する。部屋の半分が水浸しになった。
「足場が水浸しだ。滑る──」
「ルーナ! 床の水を冷やせ!」
「やる──!」
ルーナが影から紺色の冷気を放った。床の水が──固まった。完全に凍らなかったが、シャーベット状になって足場が安定した。
「ナイス。──ルーナ、床の冷却を維持しろ。滑らなければ戦える」
「維持する。──でも、長くは持たない。五分くらい」
「五分で決める」
作戦開始。
アストレアが正面に立った。聖剣を構える。守護者の胸──核がある場所に狙いを定める。
「聖属性集中──解放!」
金色の光が聖剣から放たれた。ビームではなく、凝縮された光の塊。守護者の胸に命中。水が──蒸発した。核の周囲に直径一メートルの空洞ができた。
「穴が開いた! ルーナ!」
「冷やす──!」
ルーナの冷気が穴の縁に集中した。水の再生が鈍くなる。通常なら一秒で閉じる穴が──三秒、四秒と開いたまま保っている。
「今だ。──ゼクス!」
ゼクスが影から飛び出した。守護者の胸の空洞に飛び込み、核を短剣で突く。
【弱点クリティカル! ダメージ:8,200】
続けて二撃。三撃。
【ダメージ:6,400】
【ダメージ:7,100】
トワが弓で核を射抜く。
【弱点クリティカル! ダメージ:12,800】
合計34,500。HP280,000のうち、一割強。
「一割──! あと九回繰り返すのか!?」ゼクスが言った。
「九回は無理だ。アストレアのMPが持たない。ルーナの冷却も限界がある。──別の方法を考える」
穴が閉じた。水が再生して核が見えなくなる。守護者が怒りの咆哮──水の共鳴音。部屋全体が振動する。
「トワ。守護者の水──わたしが全部吸い込めたら、核がむき出しになる」セレスが肩の上で言った。
「吸い込む? どうやって?」
「セレスの月光で、水を蒸発させるんじゃなくて──取り込む。【月は潮を引く】。月の力で、水を引っ張る」
「月が潮汐を──お前が、それをやるのか」
「やる。──【覚醒形態】になれば、できる。たぶん」
セレスの覚醒形態。巨大な銀色の鹿。月光を操る精霊の真の姿。
「セレス。覚醒形態を使えば、お前への負荷が大きい」
「わかってる、だいじょぶ」
「だが以前、お前は疲弊しきっていただろう」
「きんいきのときのこと? あれはルーナにぜんぶちからをわたしたから。こんどはセレスがやる。──ルーナばっかりがんばるの、ずるい」
「ずるい──?」
「ルーナとセレスは、おそろい。おそろいのちからなら、おそろいにがんばる」
ルーナが影の中で笑った。「セレス。──ありがとう」
「じゃあ、セレスがみずをひく。ルーナがこおらせる。いっしょに」
「いっしょに!」
セレスが肩から飛んだ。空中で──光った。銀色の月光が身体を包む。
小さな精霊の姿が膨らんでいく。角が伸びる。脚が伸びる。尾が広がる。
巨大な銀色の鹿。覚醒形態のセレスティア。月光の精霊の真の姿。
セレスが角を守護者に向けた。月光が──水を引いた。
文字通り、水の身体がセレスの月光に引き寄せられて、核から離れていく。潮が引くように。守護者の胸から水が退き、核が──完全にむき出しになった。
「核が全部見えた──!」
「ルーナ! 水が戻らないように冷やせ!」
「凍らせる──!」
ルーナの冷気が、セレスの月光が引いた水を凍結させた。守護者の身体の半分が氷になった。再生不能。核がむき出しのまま。
「全員──核を叩け!」
ゼクス。アストレア。トワ。三人が核に走った。
ゼクスの短剣が核を連打する。アストレアの聖剣が二重属性で核を抉る。トワが弓で核の中心を射抜き、剣に持ち替えて三連斬を叩き込む。
【連続弱点攻撃!】
【ゼクス:8,200、6,800、7,500、8,100】
【アストレア:12,400、11,800、13,200】
【トワ:13,600、4,900、5,200、5,500】
合計97,200。残りHP148,300。
「半分超えた! もう一回──!」
セレスの月光が揺らいだ。覚醒形態の維持が限界に近い。
「セレス!」
「だいじょうぶ──! もうちょっと──!」
ルーナが冷気を強めた。
「わたしが持たせる。──セレスは水を引くだけでいい。凍結はわたしの仕事」
「ルーナ──」
「おそろいでしょ。──わたしも、がんばる」
月と夜。銀色と紺色の光が混ざり合った。月夜の帳──ではない。もっと強い。二人の精霊が本気を出した、月夜の全力。
水が完全に凍った。守護者の身体が氷の彫刻になった。核だけが脈打っている。
「今、いって!」
六人全員が核に攻撃を集中した。
ハルまで杖で殴った。ダメージは微々たるものだが、気持ちの問題だ。
タマキが──回復薬の瓶を投げた。核にぶつかった。ダメージは1。
「タマキ。薬を投げるな」
「当たりましたよ! ダメージは……1、ですけど……」
「あとは任せろ。全員の攻撃が当たれば──」
集中砲火を続けていくと――バリンッ!!
核が──砕けた。
守護者が崩壊していく。氷と水と虚晶の光が混ざり合って、天井に向かって昇っていく。
【星の守護者を討伐しました!】
【星の柱・欠片(2/3)を入手しました!】
【星の柱・欠片(3/3)を入手しました!】
「二つ同時に!? ボスが残りの欠片を全部持っていたのか!」
「これで三つ揃った。星の柱が完成する──」
【星の柱・欠片が合成されます──】
【「星の柱」を入手しました!】
金色の結晶の柱。手のひらサイズ。星の光を内包した、虚空の門を起動するための四つの鍵の一つ。
「一つ目の柱。──あと三つ」
セレスが覚醒形態から元に戻った。小さな精霊の姿で──ぐったりとトワの肩に倒れ込んだ。
「つかれた……」
「よくやった。セレス」
「おやつ……」
「帰ったら、エリーのパンを買う」
「とくだい……」
「特大で」
「……えへへ」
ルーナも影の中でぐったりしていた。
「ルーナ。大丈夫か」
「……大丈夫。疲れただけ。──でも、楽しかった。セレスと一緒に全力出すの」
「おそろいで、がんばった」セレスが弱々しく言った。
「おそろいで、がんばった」ルーナが返した。