軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈石碑の道〉

東の平原。

トワたちは石碑を辿って東に歩き続けている。一つ目の石碑から二つ目まで約二キロ。二つ目から三つ目まで約一・五キロ。間隔が少しずつ狭まっている。東に行くほど、石碑の密度が上がる。

「間隔が狭まっている。目的地が近づいているのか」

「道標だとしたら、ゴールに近づくほど密になるのは自然ですね」

ハルが地図にマッピングしている。導師の仕事だ。

七つ目の石碑を通過した時──地形が変わった。

平原が終わり、丘陵地帯に入った。緩やかな起伏。草の背が低くなり、代わりに──白い花が咲いていた。見たことのない花。星花とも違う。花弁が透明で、中心が淡く光っている。

「わあ……きれい!」タマキが駆け寄った。「この花、見たことありません……新種でしょうか!?」

【???を発見しました。図鑑に未登録の植物です】

「未登録か。新大陸の西側にもなかった種類だ」

タマキが花に触れた。

【 虚花(きょか) を採集しました】

【素材種別:不明 属性:なし 用途:不明】

「属性なし。虚晶と同じだ」

「虚晶の植物版? すごい。これ、調合に使えるかもしれない」

「使えるかどうかわからないものを『すごい』と言えるのは、薬師だけだな」

「未知の素材は薬師のご馳走ですよ、トワさん」

丘陵地帯を進むと──初めてモンスターが現れた。

東のエリアに入ってからモンスターは地下に潜っていた。だがここに来て、地上に出てきたものがいる。

【 虚角鹿(きょかくじか) Lv82 HP:28,000 属性:なし】

「属性なし──!?」

見聞録を起動した。虚角鹿のデータ。体長二メートル。白い毛並み。角が──透明。虚花と同じ透明な質感。

「星角鹿の亜種か。だが属性がない。星属性でも光属性でもなく──属性なし。【無属性】ではなく、しの属性という概念自体がない。いわば、【真の無属性】というところか……」

「属性という概念自体がないモンスターなんて、BCOに存在するのか?」ゼクスが短剣を構えた。

「初めて見た。属性がないということは──属性弱点もないが、属性耐性もない。純粋な物理と無属性ダメージが通る」

「つまり、殴れば倒せるのか?」

「殴れば倒せる。──だが、向こうの攻撃も【無属性】だ。属性耐性で軽減できない。虚晶の全属性耐性が効かないかもしれない」

「防御が効かない敵か。──厄介だな」

虚角鹿がこちらに気づいた。だが──攻撃してこない。こちらを見ている。星角鹿と同じ非敵対モンスターか。

「攻撃してこないな。──非敵対か」

「観察しよう。戦わなくていいなら、戦わない方がいい」

虚角鹿がゆっくり歩き出した。東に向かって。石碑の方角と同じだ。

「石碑の方角に歩いている。──ついて行ってみるか」

「モンスターについていくんですか?」ハルが不安そうだ。

「非敵対だ。それに、あいつは道を知っているかもしれない」

「師匠、モンスターをガイドにする旅人は初めてですよ」

「旅人はあらゆる情報源を使う。モンスターの行動も情報だ」

六人が虚角鹿の後をついていった。虚角鹿は時々振り返ってこちらを見る。待っているような仕草。案内している──ように見えた。

「あの鹿、わたしたちを案内してくれてるの?」リーリアが不思議そうに言った。

「かもしれない。星角鹿もセレスに懐いた。虚角鹿も──何かに反応しているのかもしれない」

セレスが角を光らせた。虚角鹿が振り返った。セレスの光に──反応している。角の透明な部分が、わずかに輝いた。

「セレスの光に、反応してる。──やはり虚角鹿は星角鹿の亜種だ。セレスの精霊の力を感じ取れる」

「セレス、にんきもの」

「人気ではなく、属性的な親和性だ」

「にんきもの。セレスのてーり」

「定理ではないぞ」

「じゃあ、しょうめい」

「まあ……なんでもいいか」

虚角鹿に導かれて、丘陵を越えた。

その先に──谷があった。

広い谷。谷底に、集落が見えた。建物がある。石造りの建物。だが星王朝の建築様式とは違う。もっと古い。原始的──いや、原始的ではない。質素だが、洗練されている。装飾を排した、機能的な建築。

「集落がある。──NPCがいるか?」

見聞録でスキャン。生体反応──なし。無人。だが建物は保存状態が良い。最近まで使われていたような──いや、千年以上放置されていても劣化しない素材で建てられているのだ。虚晶と同じ原理で。

「無人の集落。建物は虚晶系の素材で建てられている。劣化しない。――リーリア、この建築様式に見覚えは?」

「ない。星王朝のものでもないし、それ以前のどの様式とも一致しない。──でも、壁に文字がある。原初の文字だよ、これ!」

リーリアが走った。建物の壁に刻まれた文字を読み解こうと。

「待て、リーリア。罠があるかもしれない」

「大丈夫、この建物はダンジョンじゃないよ。罠の反応もない。──ああ、すごい。文字がたくさんある。これは──記録だ。生活の記録。誰かがここで暮らしていた記録」

「それは……誰が?」

「わからない。でもこの文字が読めれば──星王朝より前の文明のことがわかる。トワ、ここに一日泊まっていい? 翻訳したいの」

「泊まるのか。──まあ、安全なら構わないが」

【未発見エリア「虚空の集落」を発見しました】

【アストラム踏破率:61.2%】

「新エリアか。踏破率が上がったな」

「トワさん、どうしますか?」

「先へ急ぎたい気持ちもあるが……いまは石碑の解読だ。焦る必要はないだろう」

虚空の集落。夜。

リーリアが壁の文字と格闘している。他のメンバーは集落の探索。ゼクスが建物の構造を調べ、アストレアが祈りの場所らしき広間を見つけ、タマキが集落の井戸から水を汲んで成分を分析している。

「この水──【虚花】と同じ成分が溶けてる。【虚晶のエネルギー】を含んだ天然水。飲んだら何か効果があるかも」

「飲むな、分析が先だ」

「わかってます。でも飲みたいんです、薬師の好奇心として」

「好奇心で毒を飲む薬師は長生きしないぞ」

「毒じゃないと思いますよ。成分的には、これは恐らく……」

ハルが集落の中央にある広場で、石碑を見つけた。集落の中にも石碑がある。だがこれまでの道標の石碑より──大きい。高さ三メートル。表面に文字がびっしりと刻まれている。

「師匠! でかい石碑があります!」

トワとリーリアが駆けつけた。リーリアが文字を見て──息を呑んだ。

「これは──地図だよ。原初の文字で書かれた、大陸の地図」

「地図?」

「石碑の右半分が地図。左半分が──説明文。全部は読めないけど──東端に何かがある。丸い印がついている。そしてその横に──」

リーリアが指で文字をなぞった。

「『虚空の門。ここより東へ三日の道のり』」

「三日。──ここから三日歩けば、虚空の門に着く」

「着くはず。千年前の徒歩速度が、わたしたちと同じなら」

「星巡りの靴があるから、もっと早い可能性がある」

三日。あるいはそれ以下。【虚空の門】が──射程圏内に入った。

セレスが石碑を見上げた。

「トワ。もうすぐ?」

「もうすぐだ」

「わくわくする。──あたらしいもんが、まってる」

「門の準備はできているか?」

「もんもいいけど、おやつももっていく」

「持っていく。エリーのパンはまだあるぞ」

「ある。さいごのいっこ……は、たべた。でも、タマキがクッキーもってる」

「わたしのクッキーは非常食ですよ」タマキが笑った。

「ひじょーしょく。いまがひじょー」

「今は非常じゃないです、普通に探索中ですよ、セレスちゃん」

「おなかがすくのは、ひじーう。きんきゅーじたい」

「毎秒が緊急事態だな……」

虚空の集落の夜。星が輝いている。東の空に──虚空の星が、少しだけ明るくなっていた。近づいている。