軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈出発準備〉

聖都ルクス。鍛冶工房。

ガルドが、やりきった顔で立っていた。

「できたぞ、旅人。見ろ」

カウンターの上に三つの装備が並んでいた。金色の光を帯びた結晶素材──星虚晶で作られた新装備。

一つ目。ゼクスの短剣。

【星虚の短剣】

【ATK+420 全属性耐性+15% 深淵耐性+10%】

【特殊効果:斬撃が属性を帯びた敵の耐性を5%無視する】

「属性耐性無視か……面白いな」

ゼクスが刃を確認した。通常の短剣より一回り小さいが、金色の刃が薄く光っている。

二つ目。アストレアの聖剣ルミナスへのコーティング。

【聖剣ルミナス+星虚コーティング】

【ATK+800(変化なし) 全属性耐性+15%(追加) 深淵耐性+10%(追加)】

【特殊効果:聖属性と虚晶属性の二重属性攻撃が可能に】

「二重属性!」アストレアが目を輝かせた。「聖で攻めて虚で守る──攻防一体の剣になったということですか」

「ああ、ただしコーティングは消耗する。戦闘を重ねると剥がれる。定期的にここに持ってこい」

「わかりました。──ガルドさん、ありがとうございます」

「礼はいらん。鍛冶師として当然の仕事だ」

三つ目。トワの装備──ではなかった。

「旅人。お前の装備は作れなかった」

「何か理由があるのか?」

「旅立ちの剣に虚晶を載せようとしたが──弾かれた。初期装備は改造を受け付けない仕様らしい。お前の初期装備は、永遠に初期装備だ」

「知っていたし、旅立ちの剣は棒だ。変える気はない」

「この初期装備で七千時間戦い続ける男は、お前だけだろうな。だが……その代わり、これを作った」

ガルドが小さなアクセサリーを取り出した。金色の虚晶をペンダントに加工したもの。

【星虚のペンダント】

【全属性耐性+10% 見聞録のスキャン範囲+20%】

「見聞録のスキャン範囲が広がる!?」

「虚晶は全属性に中立だ。見聞録のセンサーの干渉を減らす効果がある。結果としてスキャン範囲が広がる」

「ガルド、お前は天才か」

「天才じゃねえ、この設計図が天才なだけだ。──俺はそれを再現した、職人の仕事だ」

トワがペンダントを装備した。見聞録を起動する。スキャン範囲が──明らかに広がった。通常の百メートルが百二十メートルに。地下のスキャン深度も増えている。

「これは、東の平原の調査に使える。地下に潜ったモンスターの分布がもっと詳しく見える」

「師匠、テンションが上がってますね。装備で喜ぶ師匠、珍しい」ハルがにやにやしている。

「装備で喜んでいるわけではない。見聞録の性能が上がったことを評価しているだけだ」

「それを普通、装備で喜ぶと言います」

セレスが肩の上でペンダントを覗き込んだ。

「きんいろ。きれい。セレスもほしい」

「お前は装備枠がないだろう」

「ある。セレスのそうびわくは、トワのかた」

「それは装備枠ではなく、定位置だろ」

「ていいちがそうびわく。セレスのてーり」

「定理の乱用が過ぎるぞ」

隣の調合台。タマキが新薬の量産体制を整えていた。

【星虚の浄闇薬】

【闇耐性+40%。接触した闇属性を一定確率で中和。効果時間:1時間30分】

【星虚の浄癒薬】

【HP回復(大)+闇属性ダメージの浸食を一時停止+闇持続ダメージ一括解除】

「二種類の新薬。浄闇薬が攻め用、浄癒薬が守り用です。東のエリアに闇がいるかはわかりませんけど、備えあれば──」

「憂いなし。わかっている」

「わかってるのに、毎回準備不足で死にかけるんですよね、トワさんは」

「それは言うな」

「言いますよ。薬師として……いえ、パートナーとして」

タマキがにこっと笑顔を見せた。トワは視線を逸らす、恥ずかしかったから。

そんな彼の仕草にまた笑いながら、タマキは薬の在庫を確認した。

「浄闇薬十二本。浄癒薬八本。通常回復薬二十本。星海の呼吸薬四本。闇耐性薬(旧型)十五本。合計五十九本。──万全です」

「五十九本の薬を持ち歩く薬師は、このゲームにお前しかいないだろうな」

「師匠のパーティが消耗激しいので、これでも足りないくらいです」

「俺のせいか」

「トワさんのせいです。もちろん、いい意味でですよ」

オルテリア。星読みの塔。

リーリアが翻訳作業を進めていた。東の石碑の写真を元に、原初の文字の解読を続けている。

「トワ。来て。──進展があった」

塔の最上階。星図が壁一面に広がっている。リーリアが赤いピンで新しい星の位置をマークしていた。

「東の空に出現した星。わたしはこれを『虚空の星』と呼ぶことにした。名前がないと不便だから」

「仮称か」

「仮称。──で、この星の位置と、石碑の方角が一致するの。石碑は虚空の星に向かって並んでいる。道標で間違いない」

「石碑を辿れば、虚空の星の方角に行ける」

「そう。ただし──石碑は途中で途切れるかもしれない。風化して消えてるものもあるはず。千年以上前のものだから」

「途切れたら見聞録で探す。石碑の周囲の赤い土は見聞録に映らなかったが、逆に『見聞録に映らないエリア』を地図にプロットすれば、石碑の位置が浮かび上がる」

「見えないものを見えないことで見つける。──トワらしい発想だね」

「旅人は見聞録で見る。見聞録に映らないものは、見聞録の死角で見る」

「かっこいいけど、矛盾してない?」

「矛盾していない。死角も情報だ」

リーリアがふふっと笑った。

「もう一つ。原初の文字の解読だけど──『虚空』以外に、もう一つ読めた言葉がある」

「何だ」

「『門』。虚空の門──東の果てに、門がある。石碑は、その門への道標」

「虚空の門……四つ目の光がそこにあるのか」

「たぶん、でも確証はない。行ってみないと」

「行く」

「知ってた、トワはそう言うと思った」

「お前も来るか」

「行く──星読みとして、この目で見たい。千年前の文字が指し示す場所を」

出発前夜。オルテリアの広場。

パーティ全員が集まった。トワ、ゼクス、アストレア、タマキ、ハル、リーリア、セレス、ルーナ、テン。

ダリオが海から戻ってきていた。

「トワ! 東の海岸線を調べたぞ! 大陸の東端に──何もねえ!」

「何も、ない?」

「ああ、何もない。海岸線が途切れてる。大陸の東端は──霧で覆われてて、船で近づけない。霧の中に入ると計器が全部死ぬ。方位磁針でさえも、海からのアプローチは不可能だ」

「海からは行けない。陸路のみか」

「石碑のルートしかないってことだな。──俺は海側で待機する。何かあったら連絡しろ。船で駆けつける」

「頼む」

「任せろ。──あと、これ持ってけ」

ダリオが木箱を差し出した。中身は星鉱石の加工品。投擲用の星の 礫(つぶて) 。十個入り。

【星の礫×10 投擲武器 ATK+50 星属性ダメージ 使い捨て】

「投擲武器か。俺の道具通で使えば威力が上がるな」

「だろ。俺が海底で集めた星鉱石を削って作った。航海士の副業だ」

「副業が多いな」

「海の男は器用なんだよ」

準備が整い、回廊の転送で東口に飛んだ。六人と使者たちが、石碑の道を東に向かって歩き始めた。