軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お土産

トワたちは、聖都ルクスにいったん帰還。

広場に降り立った瞬間、フィオナが花束を持って走ってきた。

「お帰りなさい、トワさん!」

「ただいま、派手な花束だな」

「新大陸のお花を入荷したんです! トワさんのおかげで、新大陸との交易も行われて――見て下さい、星花の種。すごく元気に育って、花園が星色になってるんですよ!」

花園を見た。紫と銀色の花が咲き乱れている。星花の里の花が、聖都の土壌でも育つことがわかった。

【聖都の花園に星花が植栽されました。花園の星属性素材ドロップアイテムが追加されます】

「おお、ドロップアイテム追加か。いいな」

花園の前にプレイヤーが集まり始めていた。

「星花が聖都で育つのか!」

「星属性の素材が聖都で取れるなら、新大陸まで行かなくても──」

「いや行けよ。新大陸は行く価値あるぞ」

「回廊の転送使えば一瞬だしな」

パン工房の前を通った。エリーが窓から手を振った。

「トワさん! お帰りなさい! パン、焼いてありますよ!」

「ありがとう、後で買いに行く」

「セレスちゃんの分は、特別に大きく焼いておきました!」

セレスが肩の上で目を輝かせた。

「パン、おおきい?」

「大きいですよ! セレスちゃん専用サイズです!」

「エリー、だいすき」

「わたしもセレスちゃんが大好きです!」

「トワ。エリーのパン、さきにかいたい」

「それよりも、先にカレンに報告だ」

「カレンより、パン」

「順番は変えない」

「パン、カレン、パン」

「パンが二回入っているぞ」

「だって、パン」

根負けして、トワは先にエリーのパン屋に立ち寄った。

大聖堂。カレンの書斎。

以前と変わらず小さな部屋だが、窓が開いている。机の上にフィオナの花。壁に新しい地図──プレイヤーが作った最新のBCOワールドマップが貼ってある。そしてガルドが納品した最新装備のカタログ。カレンがフォーラムを読んでいる証拠だ。

カレンがパンの食べかけを口に放り込んで、椅子に座り直した。

「戻ったか、旅人」

「ああ……報告がある」

「座れ、まずは話をしよう」

全員が腰を下ろした。トワ、ゼクス、アストレア、タマキ、ハル。セレスはトワの肩。ルーナはトワの影。テンはブーツの上。

トワが報告を始めた。新大陸アストラムの全体像。星属性と星読み。海底都市と虚晶の精製。星の回廊の発見と開通。禁域の単独突破。闇の結晶体の浄化。

報告の最後に、トワは見聞録のスクリーンショットを表示した。

「回廊の最深部の壁画だ。結晶体を浄化した後に現れた。三つの光──太陽、月、星。そしてもう一つ、四つ目の光が描かれていた」

「四つ目の光──」

「色も形もない。リーリアが壁画の下の文字を読んだ。『三つの光は世界を照らす。四つ目の光は世界を繋ぐ。四つ目の光を灯す者だけが、全ての扉を開く』」

カレンのパンを持つ手が止まった。

「……聞いたことがある。──師匠が、言っていた」

師匠。名前は呼ばない。以前、名前を口にした時、壁に黒い染みが走った。以来、聖都の中ではカレンもトワも名前を避けている。【師匠】か【あの人】。

「あの人は──四つ目の光を追い求めて、深淵に向かった。『三つの光では足りない。もう一つの光が要る』と言って」

「四つ目の光が、【深淵】と関係しているのか」

「わからない。──だが、師匠がそう信じて動いていた。結果として深淵に行き、帰ってこなかった」

「帰ってきていない、だけだ。消えたとは限らない」

「ああ──手記にもそう書いてあった。『止めてくれ。まだ間に合うなら』と」

カレンが窓の外を見た。聖都の空。夕暮れが近い。

「トワ。お前も四つ目の光を追うのか」

「追うが、同じ方法は取らない。【深淵】に飛び込むのではなく、歩いて辿り着く」

「歩いて辿り着けるかどうかはわからないぞ」

「わからないから歩く」

カレンが笑みを浮かべた。

「もう一つ」カレンが真面目な顔に戻った。「回廊を浄化したことで、大陸全体の気脈が変わっている。ソルシアにも影響が出ているはずだ」

「ソルシアに?」

「ああ……裏世界の地形変動が急激に増えていると聞いた。そして──ルミナリアの第一の穴の周辺で、地面に亀裂が走っているらしい」

「亀裂──【闇】のことか?」

「わからない。『闇ではない。何か別のもの』らしいのだが」

「確認しに行く」

「急いだ方がいい──千年前もそうだった。気脈が乱れた時に、何かが動き出す」

カレンの目が少し暗くなった。でも、すぐに表情を戻した。

「報告は受け取った。──お前は相変わらず、問題ばかり持ち帰るな」

「問題を見つけるのが旅人だ」

「解決するのも旅人の仕事だぞ」

「わかっている」

鍛冶工房。ガルドが炉の前にいた。

「おう、旅人。新大陸で面白いもん見つけたって?」

「虚晶だ。【深淵の根】のエネルギーを精製した万能素材。全属性耐性を持つ。これで装備を作りたい」

虚晶のサンプルを渡した。ガルドが炉の明かりにかざした。

「こいつは──見たことねえ構造だな。硬度は高い。加工は難しそうだが、不可能じゃねえ」

「精製設備の設計図もある。海底都市のものだが、再現できるか」

「設計図見せろ」

見聞録のスキャンデータを展開した。ガルドが設計図を睨んで、唸る。顎を撫でる。また唸る。

「──古代の設備か。原理は理解できる。星鉱石で代替品を作れるはずだ。設備の製作に三日。試運転に二日。一週間で稼働させてやる」

「頼む」

「ただし素材が要る。星鉱石を大量に」

「ダリオに連絡する。東の港にいるはずだ」

トワがチャットを打つ。三秒で返事が来た。

ダリオ:「星鉱石か! 海底にいくらでもあるぜ! 明日送る! ていうかトワ帰ってきたのか! 乾杯しようぜ!」

トワ:「航海士は返事が早いんだな」

ダリオ:「海の男だからな、海は待ってくれねえんだ!」

タマキが工房の隅で、もう調合台を借りていた。

「トワさん、虚晶の欠片もらっていいですか」

「もう持っているだろう」

「三欠片いただきました。ガルドさんにお願いして」

「行動が早いな」

「薬師は素材が手に入ったら即実験です。鮮度が命なので!」

ガルドが「こいつの薬師魂は本物だ」と頷いていた。

パン工房。

エリーが約束通り、セレス専用の特大パンを焼いていた。

「パン、でっかい」

「セレスちゃんのご要望通りです!」

「セレス、これはお前の身体より遥かに大きいぞ」

「ちょうどいー。セレスのおなかは、みためよりおっきい」

「物理法則に反しているな」

「せーれーのおなかに、ぶつりほーそくはてきよーされない。セレスのてーり」

セレスがパンに顔をうずめた。もぐもぐもぐ。

五分後。半分が消えていた。

「……食べたな」

「のこりはあしたのぶん。けーかくてき」

「計画的なやつは、パンの半分を五分で食わない」

ルーナが影からパンの欠片をもらい、テンもブーツの上でパンくずをかじっている。

「そういえばトワさん、またフォーラムでトワさんが話題になってましたよ」

「いつものことだろう」

「すっかり、いまでは有名人ですね」

「ゆっくり旅が出来なくなてしまうことだけは、心配だが……」

「その心配はありませんよ。みんな、トワさんに憧れているだけですから」

トワは確認に、フォーラムを見てみた。

そこには、いくつも新しいスレッドが。

【速報】トワが新大陸から帰還。パーティーメンバーも聖都に集合してる模様

──「おかえり」

──「回廊の開通、マジでありがとう。転送使いまくってるわ」

──「新大陸の東に新しいダンジョンがあるらしいぞ。ダリオが発見した」

──「トワさんが聖都にいるってことは、次の探索の拠点が聖都になるのか?」

──「流石に、まだ新大陸の探索が残ってるんじゃないか?」

──「聖都のパン工房でセレスちゃんが特大パン食べてたの見た。かわいい」

──「セレスちゃんの食べてる量、精霊のサイズと合ってない件」

──「セレスちゃんに物理法則を求めるな」

──「テンくんもパンくず食べてた。かわいい」

──「虫がパンを食べる。BCOの生態系どうなってるの」

──「BCOの生態系はトワが歩いた後に変わるから。いつものことだ」

聖都の夜。エリーのパン。仲間の笑い声。カレンの窓から漏れる灯り。

帰ってきた。──そしてまた、やることが増えた。